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- ブラジルレアル高の背景と今後の課題
2024年、ブラジルレアルは対ドルで概ね下落傾向だった。昨年前半はブラジル中銀が利下げを続けていたこと、年後半は米国金利上昇とトランプ氏有利の大統領選挙戦などに加え、ブラジル政府の財政拡大政策に対する懸念がレアルを下押しした。しかし今年になり、これまでのところレアル高となっている。ブラジル中銀が昨年後半から利上げに転じたことや財政拡大の見直しが背景だが、課題は持続性だ。
24年は全般にレアル安傾向だったが、これまでのところ25年はレアル高
ブラジルレアルの2024年の動きをみると、概ね対ドルで下落傾向だった(図表1参照)。24年前半はインフレ率が低下し、景気回復も鈍かったことを受けた利下げが主なレアル安要因だった。ブラジル中銀は24年5月の金融政策決定会合での利下げを最後に据え置きに転じた。しかし、レアル安に歯止めはかからず、9月の会合では利上げに転じた。市場はブラジル政府が財政規律の遵守に消極的との見方が優勢となったことや、24年秋からの米国金利の上昇傾向がレアル安要因だった。ブラジル中銀は利上げ幅を拡大させるなど、レアル安抑制に追われた。
ブラジル中銀は25年1月29日の会合で、政策金利を1%引き上げ13.25%とした。
ブラジル当局は様々なレアル安抑制政策を繰り出した
今年になりレアルは強含んでいる。足元のレアル高の要因を整理するとともに、今後の課題を検討する。
1つ目の要因はブラジル中銀のレアル安抑制姿勢だ。ブラジル中銀は24年12月の会合で政策金利を11.25%から12.25%へ1%の利上げ幅となる引き上げを全会一致で決定した。市場では0.75%の利上げ幅の予想が大半で、サプライズの利上げであったと共にレアル安抑制姿勢が示された。
ブラジル中銀は25年1月の会合でも利上げ幅を1%と2会合連続で大幅利上げを決定し、レアル安抑制姿勢を維持した。そのうえ、フォワードガイダンス(今後の政策方針)で次回(3月)会合でも利上げ幅を1%とする可能性を示唆した。
なお、ブラジル中銀は昨年12月後半から年初までドル売りレアル買い介入を積極化させた。ブラジル中銀は通貨スワップ市場で為替介入を行うのは珍しくないが、今回はスポット市場を利用してレアル安抑制姿勢を鮮明にした。
2つ目の要因は財政拡大懸念がやや後退したことだ。昨年のレアル安の背景として、ブラジルのルラ政権による左派的な政策が財政を拡張的にするという懸念があった。ルラ政権は歳出削減計画を発表したが、法案の成立や骨抜きが危ぶまれていた。しかし、ブラジル議会上院は、12月20日に同計画に関連する法案を承認した(下院では既に可決)。同法案には最低賃金上昇率を歳出全体の伸び以下に収めることなどが盛り込まれている。同法案では今後2年間で709億レアルの歳出削減が見込まれ、当初の予定より減額は縮小されたが修正が小幅にとどまったのは安心材料だ。もっとも、ルラ政権は低所得層の所得税免除拡大方針も維持しており、今後の課題も残っている。
財政規律喪失への懸念が和らいだこともレアルの下支え要因だろう。ブラジル政府は当初掲げた基礎的財政収支(プライマリーバランス)を24年に均衡させ、25年には黒字化するとの目標を取り下げ、目標達成時期を先送りした(均衡は25年、黒字化は26年)。このような財政規律喪失の懸念が昨年のレアル安要因であった。しかし、11月に発表した700億レアル規模の歳出削減計画は新たに設定したプライマリーバランスの目標達成を意図したものだ。レアル安を受け、ルラ政権も為替市場の動向を無視できなかったということだろう。
今年1月末に発表されたプライマリーバランス赤字対GDP(国内総生産)比率は、大規模洪水関連の支出を除いたベースで約0.1%と、許容誤差の範囲(0.25%)で均衡目標を達成した。綱渡りの達成であるとの印象は残るが、財政規律を維持する姿勢を見せた点は評価できる。課題は、今後もこの姿勢を維持できるかどうかだろう。
トランプ政権の関税政策への懸念が若干緩和したこともレアル下支え要因と思われる。短期的には2月13日にトランプ大統領が署名した相互関税導入は4月頃と、即時導入が見送られたことは短期的にレアル、並びに新興国通貨全般にプラス要因だった。24年11月の米大統領選挙でトランプ氏有利の観測で引き起こされた、米国金利上昇、関税への懸念はレアル安要因だった。しかし、米国の金利上昇は落ちついている。また、関税についてもブラジルは対米の貿易収支が米国の黒字(ブラジルの赤字)となっている数少ない国だ(図表2参照)。トランプ政権は関税を麻薬流入阻止などを理由としているが、本音は米国の貿易赤字縮小だろう。関税のやり玉に挙がったのが中国、メキシコ、カナダと、貿易赤字の規模に応じて関税を決めているようにも見える。そうした中、相互関税は導入の時期が4月頃となりそうなことに加え、個別交渉の余地があることを踏まえると、関税の条件は貿易赤字だけではないとしても、米国から見て黒字のブラジルは優位な立場かもしれない。
ブラジル政府は歳出削減など財政規律の動きを見せたが課題は持続性
ブラジルのインフレ率(消費者物価指数、IPCA)は1月が前年同月比で4.56%と、前月の4.83%を下回り、ブラジル中銀の物価目標(3%±1.5%、25年の目標)の上限に近づいた。レアル安への対応も含め、もうしばらく引き締め姿勢を維持する必要があろう。ブラジル中銀は次の会合までは大幅利上げを支持しているが、その次(5月)以降の方針は明確でなく、引き締め度合いを緩める可能性がある。市場との対話に注意が必要だ。
トランプ政権の今後の政策は不透明で影響を推し量りがたい。一方、自らがコントロールできる点で、ブラジルの財政政策がレアルに与える影響は今後も大きな課題で、最も注視すべき問題だろう。
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