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ビットコインのエネルギー問題

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ビットコインが大量の電力を消費することをご存じですか?エネルギー問題への関心が高まる中、この仕組みは他の暗号資産やブロックチェーンを使用したサービスにとって弱点となってしまうのでしょうか。再生可能エネルギーの活用など各企業の取り組みを探ります。



1. はじめに

ビットコインに触れることはできません。また、この暗号資産の裏付けとなる原資産もありません。仮想世界にしか存在しないものですが、それが現実世界に与える影響について厳しい目が向けられています。

一部の評論家は、ビットコインが電力を大量に消費し、その過程で地球温暖化の原因となる二酸化炭素を発生させると長年にわたって批判してきました。ビットコインの価格が上昇すると、その電力需要も増加します。主に、新しい暗号資産を獲得する「マイニング(採掘)」の際に消費される電力の使用量は、現在、年間約106テラワット時に達しています。ケンブリッジ大学のビットコイン電力消費指数(CBECI)によると、これはオランダの消費電力とほぼ同じ水準です1

問題は、ビットコインがどれだけ電力を消費するかだけでなく、その電力がどこから来るのかということです。中国がマイニングを禁止したことで、米国、ロシア、カザフスタンの3ヵ国が全活動の約3分の2を占めていますが、3ヵ国とも未だに電力の供給源を石炭や天然ガスなどの化石燃料に大きく依存しています。再生可能エネルギーが占める割合は、米国では発電量のわずか20%、ロシアでは21%、カザフスタンでは11%に過ぎません2

これはビットコインの保有者にとって資産価格に直結する問題です。かつて自動車メーカーのテスラが、電力供給源の懸念を理由にビットコインによる支払いの受付を停止すると発表した際、ビットコイン価格は急落しました(その後は、テスラの創業者であるイーロン・マスク氏が、ビットコインの持続可能性を高めるためにマイナーとの対話に応じると発言したことで安定を取り戻しました)。また、中国がすべての暗号通貨取引を違法と宣言した時のように、規制強化が要因となり価格が乱高下する可能性もあります。米国財務省も、税金やコンプライアンスに関する規則を強化しています。



2. なぜビットコインは大量の電力を消費するのか

ビットコインが膨大な電力を消費する理由は、新しいコインを獲得する際に、「プルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work:PoW)」と呼ばれるシステムを使っていることにあります。ビットコインは、すべての取引を安全に追跡するためブロックチェーンという仕組みを使用しています。これは、巨大なコンピューター・ネットワークによって支えられた、改ざん不可能な台帳のようなものです。ビットコインの取引が行われると、マイナーは高性能のコンピューターを用いてアルゴリズムの計算を行い、その取引プロセスの検証を行います。そこで最も早く計算を完了させた者に、報酬として新しく発行されたビットコインが与えられます。

ビットコイン価格が上昇すると、マイニングは一層白熱します。ケンブリッジ大学オルタナティブ・ファイナンス・センター(Cambridge Centre for Alternative Finance)の暗号資産・ブロックチェーン担当のアントン・デク氏は「価格が高ければ高いほど、多くのマイナーが参入し競争が熾烈になる」と説明しています。

また、時間の経過とともにマイニングに付随する計算は複雑化するため、ビットコインの電力消費量も増加することが予想されます。ビットコインの生みの親は、供給量を制限するために、2,100万枚という上限を設定し、そのほとんどがすでに流通しています。残されたコインを獲得するため、マイナーに課された計算の難易度はますます上がっています。従ってマイニングには、より膨大な処理能力を持ったコンピュータと、それを稼働させるための電力が必要になるのです。

「ビットコインの良さは希少性です…しかし、それは同時に、大量の電力を必要とすることを意味します」と、ロンドンに上場しているビットコインのマイニング業者で、水力発電が安価なカナダのケベック州に採掘施設をかまえるArgo Blockchain社のCEO、ピーター・ウォール氏は、説明しています。



3. 大量の電力を消費するメリット

このように膨大な電力を必要とすることにも1つのメリットがあります。これにより意図的なビットコインの盗難がほぼ不可能となるのです。「一見、資源の無駄遣いのように見えますが、わざわざ非効率的に設計することで、ネットワークを乗っ取ることが非常に困難となります。この電力消費は、取引の安全性を確保するための代償なのです」とデク氏は説明しています。

ビットコインを支持する人の中には、こうした環境への影響は進歩のための対価なので仕方がないと考える人もいます。「コンピューターやスマートフォンの環境負荷は、タイプライターや電信機よりもはるかに大きいでしょう。あまりにも革新的な技術に対しては…社会がその代償を受け入れることもあるのです」と、米国の投資家タイラー・ウィンクルボス氏はツイートしています3

さらに踏み込んだ意見を紹介すると、運用会社のARK Invest社と、Twitter社の前CEOであるジャック・ドーシー氏が率いる決済代行会社Square社(米国時間の2021年12月10日付で社名をBlockに変更)は、ビットコインは再生可能エネルギーへの投資を促進するので、気候変動対策に役立つという主張を展開しています4



4. 他の暗号資産の動き

ビットコインは規模が最大ということもあり、他の暗号資産に比べてはるかに大きい環境負荷を強いられます。ただし中には、クリーンなシステムへの移行を試みる暗号資産も存在します。世界第2位の暗号資産であるイーサリアムは、あと数ヵ月で電力消費量を1,000分の1に減らすことができると発表しています。この鍵となるのが、「プルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work:PoW、仕事量による証明)」システムから、よりエネルギー効率の高いアプローチである「プルーフ・オブ・ステーク(Proof of Stake:PoS、保有量による証明)」への移行です。

PoSは、PoWとは異なり、取引の安全性を確保するために、コンピューターに膨大な計算をさせて電力を消費することはありません。その代わり、各々がマイニングできる割合は保有する通貨量に比例して制限されます。この手法を用いれば計算量が少なくて済み、特別なコンピューターを使わなくても、シンプルなノートパソコンでマイニングができるのです。

「PoSを採用するアルトコイン(ビットコイン以外の暗号資産の総称)は、基本的にはノード(暗号資産のネットワークに参加しているコンピューター端末)で動いており、一般的なコンピューターと同様に、膨大な電力を必要としません」とウォール氏は述べています。

イーサリアムは、何年も前からこのシステムへの移行を約束してきましたが、技術的な問題で実現できませんでした。同社は、今後数ヵ月のうちにこのシステムが導入されれば、以前はペルーの消費電力に匹敵する5.13ギガワットが必要だったのに対し、小規模の街と同等の2.62メガワットまで減少できると見込んでいます。PoSシステムは、カルダノのような他の暗号資産ではすでに機能しています。

また、ビットコインの電力問題は、ブロックチェーン技術を用いたサービスの全てに当てはまるものではありません。企業向けのブロックチェーンは「許可型ブロックチェーン」と呼ばれ、サプライチェーンのように信頼できる参加者で構成されたコンソーシアム(共同企業体)の中で行われるため、取引を承認する際に複雑な検証を行う必要はありません。ブロックチェーン自体は、依然として従来のITアーキテクチャーよりも多くの電力を必要としますが、その規模は以前とは比較にならないほどです。

さらに、ブロックチェーンの取り組みの中には、環境に有益なものもたくさんあります。例えば、サプライチェーンにおいては、ブロックチェーンを活用することで、製品のリコールをより正確に行うことができ、ペーパーワークを削減し、航空貨物の重量を減らすことができます。また、データの流れ、契約、取引、価格設定をより透明で安全なものにし、スマートグリッドや分散型発電を可能にします。



5. ビットコインはグリーン化できるか

ビットコインはイーサリアムと異なり、よりクリーンなシステムに移行する計画はまだありませんが、ビットコインのマイニングのすべてが石炭に依存しているわけではありません。2020年に発表されたケンブリッジ大学の調査によると、ビットコインの電力消費量の約40%は再生可能エネルギーで賄われていると推定されています5。中国がマイニングを禁止して以来、再生可能エネルギーの割合は増加しているという報道もあります。

マイナーの中には、使い道がなく焼却処分されてしまう天然ガス(多少はクリーンな化石燃料)を使ってコンピューターを駆動している人もいます6。ウォール氏のように、風力発電が豊富で安価なテキサス州などに新たな採掘施設を建設している人もいます。また、同氏は3月に世界初のグリーン・エネルギーのみを利用したビットコインのマイニングプール(複数のマイナーが協力して採掘する仕組み)を立ち上げる契約を結びました。「ビットコインは新しいテクノロジーであり、新しいテクノロジーで採掘されるべきです。世間では二酸化炭素排出量の増加を防ぐために、再生可能エネルギーへの移行が始まっています。排出量の増加は、ビジネス上のリスクであると同時に、地球にとっての問題でもありますから」とウォール氏は語っています。

BlackRock社、Tesla社、Square社(現Block社)、Revolut社のほか、ノルウェー政府年金基金や英国の資産運用会社Vanguard社などが株主となっている分析会社MicroStrategy社など、多くの企業や主要投資家がビットコインを保有または購入するようになっています。これらの企業はいずれも、間接的な二酸化炭素排出量の報告を迫られており、やがてカーボン・プライシングの国境調整措置が導入される際には、そのツケを払わなければならなくなる可能性があります。将来的にこうした企業は、ビットコインから手を引くか、あるいは環境に配慮したマイナーとの提携を進めていく可能性があります。

あえて楽観的な見方をするならば、ビットコインのマイニングは、再生可能エネルギーのインフラ開発投資を増やすきっかけになるかもしれません。Square社(現Block社)は、天候などに左右されて再生可能エネルギーの供給が不安定になってしまう問題の解決策は、ビットコインのマイナーにあると主張しています。日照時間や風力は予測不可能で、消費者が電力を必要とする地理的な場所や時間帯とは必ずしも一致しません。利益を引き下げる過剰供給を避けたい開発者にとって、このような需要と供給の不一致は、投資を控える要因となっていました。暗号資産のマイナーが、この行き場を失った余剰再生可能エネルギーの「最後の買い手」となることができれば、再生可能エネルギー関連分野へのさらなる投資を呼び込む可能性があるのです。すべての人がこの意見に納得するわけではないですが、古い石炭火力発電システムによって、この新しい技術が頓挫することがないよう願っている人がいることは確かでしょう。

 

[1] CBECI, data as at 20.10.2021

[2] Our World In Data, BP Statistical Review of World Energy & Ember 2020

[3] https://twitter.com/tyler/status/1359576741686124544

[4] Bitcoin Clean Energy Efficiency Memorandum

[5] https://www.jbs.cam.ac.uk/wp-content/uploads/2021/01/2021-ccaf-3rd-global-cryptoasset-benchmarking-study.pdf

[6] https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-02-10/bitcoin-is-red-hot-can-it-ever-be-green-quicktake


執筆者
エコノミスト・インパクト(Economist Impact)

エコノミスト・グループ(The Economist Group)が、企業や財団、NGO、政府などと連携し、サステナビリティ(持続可能性)、ヘルス、グローバル化などの重要なテーマについて、さらなるポジティブな変化の実現を目指して立ち上げた事業体。シンクタンクならではの厳密な分析力と、メディアブランドとしての創造性を兼ね備え、世界的に影響力のある人々を巻き込んだ独自のサービスを幅広い層に展開している。



本ページは2021年10月にピクテ・アセット・マネジメントが作成した記事をピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集したものです。





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