もっと知りたいメガトレンド
クリーンエネルギーへの移行と再生可能エネルギー
再生可能エネルギー:移行のタイミングを計る
再生可能エネルギーは環境に優しいとしても、信頼性に欠けることについては評判がよくありません。私達は、太陽や風を呼ぶことは出来ませんが、電力の供給に見合うように需要のタイミングを計ることは可能です。本稿では、その方法の幾つかをご紹介いたします。
ドイツ語には、寒く曇天で風がない日を指す「Dunkeflaute」という言葉があります。気候の観点では、どんよりとしてありふれた天候と言えそうですが、二酸化炭素を大量に排出する「炭素集約型エネルギー」から風力発電や太陽光発電への転換を図る世界には、災いをもたらす可能性があるのです。
実際、ドイツは2018年の時点で、一日の電力使用量の100%を賄う再生可能エネルギーを生産できていたにもかかわらず1、5年後の今現在、電力構成に占める再生可能エネルギーの比率が平均46%に留まっているのは、天候不順が原因です2。ドイツ政府が、2030年までに80%という目標を実現するには、風力発電や太陽光発電の断続性に対処することが不可欠です。
また、二酸化炭素排出量の削減を狙い、ガソリン車やガス暖房を電気自動車(EV)や電気暖房に切り替える人が増えるに連れて、電力使用量の急激な増加が予想されることも課題の深刻さを増しています。
ピクテ・クリーン・エナジー・トランジション運用のアドバイザリー・ボードによれば、ドイツの交通・運輸セクターの脱炭素化を実現するには、再生可能電力が現在の2.5倍以上、作られなければなりません。
これを実現するには、再生可能エネルギーの貯蔵ならびに送電に係る状況を改善する必要がありますが、アドバイザリー・ボードによれば、いわゆる「セクター・カップリング」を通じて、需給の一致の精度を高めることも必要です。
電力基盤の現状に基づいて試算すると、ドイツ国内の自動車市場に占めるEVの比率が30%に達した時点で電力需給が一致していなければ、広範囲の停電が起こる可能性は否めません。世界の30ヶ国に拠点を置く経営コンサルティング大手のオリバー・ワイマンによる調査は、こうした事態が、早ければ2032年にも発生し得ることを示唆しています3。
セクター・カップリングの背景にある考え方は、電力使用量が発電量に可能な限り一致する状況を確保すること、換言すると、EVを一度に充電するのではなく、工場や家庭の暖房などのEV以外の電力需要が相対的に少ない時間帯や、天候が発電に適している時間帯に合わせて充電のタイミングを計るということです。
こうした考え方を更に一歩進めると、電力需要が多いのにもかかわらず発電量が少ない時間帯に、車載電池を使用し、EV以外の需要を満たす電力を貯蔵することが考えられそうです。車載電池1個で貯蔵できる電力は僅かに過ぎないとしても、EV所有者が協力すれば、何百万台かのEVが送電網の緩衝材として、相当量の電力を確保することが可能です。
アドバイザリー・ボードがまとめた調査は、「スマート充電」がピーク電力時の負荷の削減に大きな効果を挙げていることを、中国、北欧、ハワイ等、世界各地のケース・スタディーが証明していると示唆しています。
「スマート・カップリング」の原則は、「環境に配慮した社会への移行(グリーン・トランジション)」の一環として、電化の対象となっている家庭の暖房にも適用可能です。
現在のところ、家庭の暖房のほとんどは、夕方以降に使われています。ガス暖房の場合には問題ありませんが、これを電動ヒートポンプに切り替える人が増えるに連れて、夕方以降の電力需要の集中が問題になることは必至です。ヒートポンプが作動する時間帯を分散し、余剰の熱エネルギーを貯蔵するようプログラムを組むことが出来れば、送電網への負荷を軽減することが可能です。
送電および法規制
とはいえ、スマート・カップリングは一夜のうちに実現できるわけではありません。
まず第一に、電力の需給管理態勢を改善するために、スマート・メーターを使うことです。ドイツは、スマート・メーターの導入が著しく遅れており、デンマークやスウェーデンのほぼ100%、フランスの約80%に対して、一桁台前半に留まります4が、政府は、今後数年内の導入の義務化を計画しています。また、スマート・メーター以外のインフラ整備が、家庭の中でも外でも必要になります。
新しいタイプの企業が、エネルギー・セクターに最先端のデジタル技術を提供しつつあり、移行を容易にすることが期待されます。
一般市民を説得することも難しい課題です。アドバイザリー・ボードは、暖房をつける時間やEVを充電する時間を指示されることに対する消費者の強い抵抗を予想していますが、一部は、価格誘因(料金インセンティブ)によって、克服できると思われます。また、自宅に太陽光パネルを設置する人が増えるに連れ、発電や電力使用の管理について、より積極的な姿勢に転じる市民が増え、余剰電力をEVや暖房器に使うようになるかもしれません。そうすれば、余剰電力を送電業者に売却し続けて、送電中に電力の一部が失われるという状況が回避されます。
エネルギー業界の複雑な特性と強力なロビー活動は、ドイツ国内外の行政や立法にも課題をもたらします。また、機動的な電力価格設定を可能にするための調整も必要です。
各国政府がグリーン・トランジションに取り組み、一般市民が目標達成に向けた政府の責任を問うことが増えるに連れて、移行を阻む障害は克服不能なものではなくなっていくように思われます。
スマート・カップリングが成功すれば、再生可能電力の利用の最大化と余剰発電の削減が可能となり、送電網の安定化が実現するかもしれません。再生可能エネルギーの安定的な供給が可能となれば、太陽光や風力の不足時の需給格差を補うために、化石燃料電力を「保険」電力として確保しておく必要がなくなります。そうすれば、いずれはコスト削減につながるはずであり、その結果、「Dunkeflaute」は、言語史のみに残る言葉となるかもしれません。
[1] https://www.cleanenergywire.org/news/renewables-cover-about-100-german-power-use-first-time-ever
[2] https://www.reuters.com/business/energy/germanys-2022-renewable-power-production-rises-still-behind-2030-target-2022-12-11/
[3] https://www.oliverwyman.com/content/dam/oliver-wyman/v2/publications/2018/January/E-mobility-blackout_OliverWyman.pdf
[4] https://www.ffe.de/en/publications/the-smart-meter-rollout-in-germany-and-europe/
投資家のためのインサイト
- ピクテは、クリーン・エネルギーへの移行が、電力企業に留まらず、運輸・交通、製造、建設、情報技術(IT)およびエネルギー・インフラ等、幅広い企業にまたがる、複雑なプロセスになると考えます。このことは、広いバリューチェーン全体に投資の機会があることを示唆するものですが、実際に、クリーン・エネルギー関連の年間投資額は、現在の3倍程度に増えて、2030年までに4兆米ドルを上回ることが国際エネルギー機関(IEA)によって予想されています。
- 再生可能エネルギーは、世界のほとんどの地域で、すでに最も安価な電力源となっています。国際エネルギー機関(IEA)は、風力発電ならびに太陽光発電が世界の電力総生産に占める比率が、2021年の10%から2050年には70%に達するものと予測しています。もっとも、断続性という課題を抱える再生可能エネルギーの大規模な導入は難しい課題であり、負荷調整、ならびに発電部門と、EVや家庭用暖房等その他の部門間の相互依存関係を最適化するために、再考を必要とします。
- 公益企業にとっての課題には、家庭のインフラ設備や送電網インフラの改良の他、送電網管理ならびに機動性強化のためのデジタル化や接続性の拡充が含まれます。このことは、ソフトウェア・アプリケーション、半導体、電源管理部品等、ハードウェアとソフトウェア双方の分野でのビジネス・チャンスを生み出すものと考えます。
本ページは2023年9月にピクテ・アセット・マネジメントが作成した記事をピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集したものです。
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投資信託に係る費用について
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