もっと知りたいメガトレンド
持続可能な建築物の展望
持続可能で再生可能な未来に貢献する建物
世界の建設業界は、環境負荷を低減するための革新的な解決策(ソリューション)を求めています。
建設業界が環境に及ぼす大きな影響は、世界が掲げる「ネットゼロ(温室効果ガスの排出量から吸収量や除去量を引いた純排出量)」目標の脅威となっています。
建設業界は、世界全体の二酸化炭素排出量のほぼ40%を排出していることに加えて、水や電力の過剰な使用や廃棄物の排出等、生態系に係るその他の多くの問題の原因にもなっています。
環境により配慮した事業モデルへの転換は容易ではありませんが、持続可能な建設業界の構築を議題としたクロスターズ・フォーラム2023(The Klosters Forum)で明らかになった通り、将来を楽観する見方には十分な根拠があると考えます。
スイスアルプスのリゾート地で開かれたクロスターズ・フォーラムには、建設業界に根付いた既存の慣行に挑み、変革のための構想を練るため、不動産開発業者(デベロッパー)、建築家、起業家、学者や研究者等が参加しました。
また、新しいテクノロジー、建設技術、投資などが、どのように持続可能な変革をもたらし得るかをめぐって活発な議論を交わしました。
建設と破壊を繰り返すのか?
会議の冒頭で明らかになったのは、産業界が自然界に及ぼす影響が極めて大きいことです。
参加者からは、土地、水、生物多様性を破壊し、環境に回復不能な損害を与えるとして、従来型の建築技術はもはや通用しないとの意見が出ました。また、そもそも、新しい建物が必要なのかとの疑問も呈されました。
これは、建物の建設段階が環境に最も大きな負荷を与えており、採掘、製造、輸送、建設、廃棄の各段階から成る建築資材のライフサイクルでは、最大の場合、エンボディドカーボン(内包二酸化炭素)の90%、あるいは、何百万トンもの二酸化炭素が排出されているためです。
既に十分な建造物在庫を有する先進国は、新しい建物をゼロから建設するよりも、建物の改造や改装をした方がよいとの提案もなされました。
オフィスから住宅への転換
賢明な改良の例として提案されたのは、空きオフィスを居住目的の建物に改築し、多機能性を備えた柔軟性のある建物を配した地域開発を進めることです。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が収束して3年が経過した今も、空きオフィスが散見されます。これは、出勤率の低下、都市住民の郊外への移転、オフィス街での買い物の減少等、パンデミックが引き起こした個人の行動変容に起因するものです。一方、住宅、中でも、町の中心部にある手頃な価格の住宅は不足しています。
コンサルティング大手のマッキンゼーは、2030年のオフィス需要について、最悪シナリオでは、2019年比で38%減少すると予測しています1。需要の減少は不動産の減価につながりますが、調査対象となった9都市についての基本シナリオでは、2030年までに実質ベースで、8,000億米ドルの資産価値が失われる可能性があるとのことです。
このような環境では、空きオフィスの住宅への転換が意味を成し始めます。不動産サービス大手のジョーンズ・ラング・ラサール(JLL)によれば、欧州の上位35都市には、約2億5千万平方メートルの空きオフィスがあり、50万戸の新築住宅に転換することが可能だとのことです2。各都市の足元の住宅資産価値を空室面積に当てはめて試算すると、上位10都市は1,000億ユーロ超の投資機会を提供する可能性があることになります。
米国ではこうした機会は限られます。大都市に多い高層ビルは建物の幅が広いため、光を十分に取れません。一方、欧州のオフィス・ビルは、建物の高さが相対的に低く幅が狭い傾向があり、住宅に転換するために必要な自然光が十分に確保出来ます。向こう10年については、ロンドンだけで、賃貸需要が供給を10万件以上、上回ることが予想されますが、現在の空きスペースは約210億ユーロの投資機会を生み出し、約4万3千件のアパートを供給する可能性がある、とJLLは予測しています。
もっとも、そのようなプロジェクトは、これまでのところ十分な投資資金を呼び込めていません。投資家がハイブリッド型の建物の購入に消極的なのは、オフィス、住宅、店舗など多目的用途の不動産の評価が複雑だからです。
幸いなことに、クロスターズ・フォーラムでは、評価は容易になるはずだとの意見も出ました。中欧では、地域内で、生活必需品の殆どやサービスに容易にアクセス出来る「15分都市」構想を推進する自治体が増えています。
賢く建設する
建設業界は、建物の改良の他、(照明や空調設備等を自動制御・管理するシステムを備えた)スマート・ビルディング技術や、革新的かつ再生可能な資材を使うことで、二酸化炭素排出量の削減を図っています。
近年は、直交集成板(クロス・ラミネーティッド・ティンバー、CLT)等の斬新な工学技術のお陰で木材の人気が増しています。また、土など、他の自然素材と木材を組み合わせ、コンクリートを使わずに、建物全体の性能を向上させることに関心が集まっています。
こうした技術を既に導入しているのが、スイスのチューリッヒを拠点とするスタートアップ企業、リマター(Rematter)です。クロスターズ・フォーラムでは、同社が最先端のハイテク・ロボットを使って、練土製の、梁の支えの必要がない、ローテク素材の床スラブを作っていることが紹介されました。
ハイブリッド型の床スラブは、コンクリートと同等の耐久性、遮音性、耐火性を備える一方で、エンボディドカーボンをコンクリートに比べて約80%低減します。
練土製の床スラブはこれまで手作業で作るしかなかったため、コストが嵩みましたが、リマターはコンピューターを使った「スマートな」製品設計と、練土と木材製の床スラブを、ロボットが制御環境でプレファブ工法によって作ることで、コスト競争力の高い工程を開発したことが紹介されました。リマターは建築資材を現地調達することで輸送コストを削減し、環境負荷を低減していることも注目されます。
「物価の高いスイスでさえ、建材としての土は手頃な価格で入手出来ますし、掘削土から得られることも多いのです」とリマターの共同創業者、ゴッツ・ヒルバー(Gotz Hilber)氏は話しています。
© Rematter
より住みやすく、持続可能な街作り
クロスターズ・フォーラムでは、急速な都市化についても活発な議論が交わされました。
世界の都市が急速に拡大し、2030年3までに120万平方キロメートルに相当する新たな市街地が出来ること、また、歯止めの効かない野放図な都市の拡大が土地や自然資源に損害を及ぼし、都市を気候変動リスクや災害リスクに晒しているかが紹介されました。
こうした課題の克服には、様々な解決策が必要であり、都市計画家、不動産開発業者(デベロッパー)、政府、投資家間の調整ならびに協力態勢の改善が必要です。
未来の都市に建つ建物は、仕事、生活、娯楽のための柔軟な空間だけでなく、低炭素の環境も提供しなければなりませんが、既に利用可能な賢い建設技術と資材を活用すれば、構想(ビジョン)は現実のものとなり得ると考えます。
[1]https://www.mckinsey.com/mgi/our-research/empty-spaces-and-hybrid-places#/
[2] https://www.jll.co.uk/en/trends-and-insights/research/talking-points/can-obsolete-offices-point-the-way-for-living-investors
[3] World Bank
クロスターズ・フォーラムは、世界で最も喫緊の課題に取り組む、革新的で刺激的なアイディアを持つ人々に、中立的で公平な議論の場を提供する非営利組織です。
クロスターズ・フォーラムの使命は、率先して考え、行動する人々のコミュニティーを形成し、これを育てることによって、また、異なる分野間の交流や連携を促すことによって、ポジティブな環境に向けた変革のスピードを加速させることです。
クロスターズ・フォーラムは、毎年開催され、公平で静かな環境で、科学、ビジネス、政治および産業、非政府組織(NGO)等、さまざまな分野で注目を集める、創造性に溢れた、持続可能性の専門家に交流の場を提供します。
ピクテ・グループは不動産セクターが環境に及ぼす影響に世界の注目を促すと同時に、喫緊の課題の解決のために議論の場を提供する機会が得られたことを嬉しく思います。
ピクテは世界の資産の管理を任されたスチュワードとして、環境に対する責任を真摯に受け止めようとしない企業に対し、投資資金の保留や回収を行うことが可能です。昨今の環境をめぐる議論は、気候変動に集中しがちですが、二酸化炭素排出量と同様に、生物多様性に及ぶインパクトにも注意を払う必要があると考えます。ピクテの資産運用チームは、他社に先駆けて取り組んできたテーマ株式運用やサステナブル運用を通じて豊富な経験を有しています。
本ページは2024年2月にピクテ・アセット・マネジメントが作成した記事をピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集したものです。
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