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- 日本銀行と金融政策①~日本銀行設立までの歴史~
明治時代、通貨価値の下落と激しいインフレーションを克服すべく、日本政府は兌換制度の確立と通貨制度の安定化を目指して日本銀行を1882年に設立しました。
■明治初期の通貨制度と太政官札
今回は日本銀行の設立の経緯と金融政策について説明いたします。日本銀行は、明治時代初期から続く不安定な通貨制度の建て直しと安定化を図るために、兌換注1銀行券を発行する中央銀行として、1882年に設立されました。では、なぜ通貨制度が不安定だったのか、なぜ兌換銀行券の発行が必要だったのか、過去の歴史を振り返りながら説明いたします(図表1)。
明治維新により徳川幕府が倒された後、新しく誕生した明治政府は経済の発展により、欧米諸国に並ぶ近代国家を目指しました。一方、当時は金、銀、銅などさまざまな通貨が流通しており、鋳造技術も低かったため、通貨間の交換比率は非常に複雑で、通貨制度の不安定さが経済発展の妨げとなっていました。そこで、その整備に乗り出した明治政府はまず政府紙幣である「太政官札」を発行し、この流通を目論見ました。しかし、誕生したばかりの明治政府はその政治的権威が十分に確立できていなかったことに加え、太政官札は不換注2紙幣であったため、その価値を維持することができず、十分に流通しませんでした。
注1 金や銀等との引き換えを約束すること 注2 金や銀等との引き換えを約束しないこと
■新貨条例、国立銀行条例
不換紙幣であった太政官札が十分に機能しなかったことを受け、明治政府は兌換紙幣の安定流通を図るべく、1871年、金本位制の導入を目指し新貨条例を制定しました。これにより、新たに「円」を基本通貨単位とし、1両=1円=1米ドル=金1.5gと定めました。そして、肝心の兌換紙幣を民間銀行に発行させるため1872年国立銀行条例を制定しました。民間銀行に兌換紙幣を発行させることで価値が下落した不換紙幣の回収および殖産興業注3資金を供給することを狙いとしました。しかしながら、この兌換義務が厳しい条件であったため、実際に設立された銀行は4行にとどまり、目標の2%程度しか紙幣の発行が行われませんでした。
注3 官営模範工場の建設、交通や通信の設備、金融制度の設備
■国立銀行条例改正による不換紙幣の乱発
民間銀行による兌換紙幣発行が失敗に終わったため、明治政府は1876年、国立銀行条例を改正し、兌換義務を廃止しました。すると、民間銀行の設立が一気に進み、その数は153行に達しました。こうして再び不換紙幣が発行され始めたうえ、政府が西南戦争(1877年)の戦費をこの不換紙幣で賄ったこともあり、膨大な紙幣が流通することとなり、紙幣価値は下落、激しいインフレーションが起きました。
■日本銀行の設立と通貨制度の混乱終息
不換紙幣の乱発による紙幣価値の下落が生み出したインフレーションは人々の生活を直撃しました。例えば、農産物庭先価格注4指数は1877年から1881年までの5年間、毎年10%以上の上昇を示しました。また、工業製品価格指数は同期間、毎年上昇し、特に1880年、1881年はともに20%以上の上昇を示しました。
この混乱した状況を打開すべく、1882年に兌換制度の確立と通貨制度の安定化を目的として日本銀行が誕生しました。日本銀行はすぐには兌換銀行券の発行を行わず、まず巨額の不換紙幣の整理と将来的な兌換銀行券発行のため銀貨の蓄財を進めました。そして紙幣価値の回復および安定化が進む中、1884年に公布された兌換銀行券条例をうけ、1885年に銀貨との兌換紙幣である日本銀行兌換銀券、通称「大黒札」が発行されました。もともとは新貨条例で定めたように、金本位制の確立を目指していましたが、日本国内では金貨と併せて流通していた銀貨のほうが保有量が多かったため、実質的には銀本位制がとられました。日本銀行券の流通高は順調に増加し、併せて不換紙幣であった政府紙幣や国立銀行紙幣の償却も進みました。そして1899年末にすべての政府紙幣、国立銀行紙幣は通用停止となりました。こうして、紙幣に対する信用の回復、日本銀行券による紙幣統一、銀本位制の確立が明治初期から続く通貨制度の混乱を終息させました。また、詳細は割愛しますが、この後、世界的な金本位制の拡大を受け、日本でも1897年の貨幣法により金本位制が確立し、日本銀行「兌換銀券」は金との兌換が可能な日本銀行「兌換券」となりました。
注4 出荷時点での価格
図表1:日本銀行設立までの歴史
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