- Article Title
- 日本銀行と金融政策⑦~日本銀行の金融政策の変遷④~
異次元の金融緩和は年々その規模の拡大を経て、マイナス金利やイールドカーブ・コントロール等の導入により更に大規模なものになりました。
■「異次元の金融緩和政策」の拡大
今回は前回に引き続き、日本銀行の金融政策の変遷についてご説明いたします。黒田東彦氏(2023年4月退任)が2013年4月に新総裁に就任し、同月の金融政策決定会合にてスタートした異次元(量的・質的)の金融緩和は、その規模を年々拡大し、2015年12月の会合では長期国債の保有残高の増加ペースを年間約80兆円、買入れの平均残存期間を7年~12年、ETFおよびJ-REITの保有残高の増加ペースをそれぞれ約3.3兆円、約900億円とする決定がなされました(図表1)。これら異次元の金融緩和の目的を改めて整理いたしますと、まず最大の狙いはデフレからの脱却とインフレ目標の達成により経済を持続的に成長させていくことです。物価はあらゆる経済活動(消費や投資等)の基盤となるものであり、物価が安定的に上昇を続ければ、それが引いては企業利益や国民所得の安定成長につながり、経済の持続的な発展に寄与します。日本政府と日本銀行がその物価の安定推移目標を2%とし、実現のためにスタートさせたのが異次元の金融緩和ということになります。他にも、金融緩和によって生じた長期金利の低下が借入コストを下げ、企業や政府の投資を促す効果や、金利低下が一因となり生じる円安によって輸出の競争力が高まる効果等も期待されました。
図表1:異次元の金融緩和政策の拡大
注1:日本銀行が供給する資金量 「日本銀行券発行高+貨幣流通高+日本銀行当座預金残高」
注2:3兆円に加えて、3,000億円を、「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」の株式を対象とするETFの買入れ枠として設定
■マイナス金利の導入
さらに2016年1月の会合にて、これまでの金融緩和政策にマイナス金利を加える「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」が導入されました。これにより、「量」と「質」の次元で金融緩和を行っていたものに「金利」を加えた3つの次元で金融緩和を行っていくこととなりました。マイナス金利に関し、具体的な仕組みとしては、民間の金融機関が持つ日本銀行の当座預金残高を3つの層に分け、そのうちの1つである政策金利残高にマイナス金利を付与するというものです(図表2)。
図表2:マイナス金利
3つの層のうち、基礎残高は2015年に日本銀行の当座預金に預けられていた平均残高から法定準備預金額(所要準備額)を差し引いた金額です。法定準備預金額とは民間の金融機関が日本銀行に必ず預けなければならない金額を指します。この基礎残高部分については0.1%の金利が適用されました。その上にくるマクロ加算残高とは、基礎残高を上回る金額のうち、基礎残高から差し引かれた法定準備預金額、2015年平均残高に係数(基準比率)を掛けた額等を足し合わせた金額です。係数(基準比率)は日本銀行が決めるもので、具体的な計算式は公表されておりません。また、2020年以降、新型コロナウィルスの感染症拡大をうけて実施された新型コロナウィルス感染症対応金融支援特別オペによって日本銀行から民間の金融機関に供給された資金もこちらに含まれました。このマクロ加算残高部分には0.0%の金利が適用されました。そして、政策金利残高はこれら2つの残高を差し引いた額であり、これに-0.1%のマイナス金利が適用されたのが「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」です。
■イールドカーブ・コントロール
「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入後、同年7月には再び金融緩和が強化され、ETFの買入れ額が年間約3.3兆円から約6兆円へ倍増する等の措置がとられました。これに加え、同年9月、新たな金融緩和強化の枠組みとして「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」が導入され、「イールドカーブ・コントロール」および「オーバーシュート型コミットメント」 が策定されました(図表3)。イールドカーブ・コントロールとは、長期金利と短期金利をそれぞれの誘導目標値まで文字通りコントロールすることであり、具体的には長期金利は10年国債金利が0%で推移するよう国債の買入れを行い、短期金利は既述のマイナス金利によってコントロールされました(導入時当初の目標)(図表4)。また、オーバーシュート型コミットメントとは、物価安定目標の2%が安定的に達成できるまで、つまり一時的に2%に達するということではなく平均的に2%になるまで緩和政策(マネタリーベースの拡大等)を続けるということをあらかじめ強く宣言することを意味します。長期的な緩和政策の継続が想定されることで、先々の景気や物価を押し上げるような効果が出てくると期待されました。
図表3:イールドカーブ・コントロールとオーバーシュート型コミットメント
図表4:イールドカーブの比較
出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ・ジャパン作成
●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。
手数料およびリスクについてはこちら
MSCI指数は、MSCIが開発した指数です。同指数に対する著作権、知的所有権その他一切の権利はMSCIに帰属します。またMSCIは、同指数の内容を変更する権利および公表を停止する権利を有しています。
関連記事
日付 | タイトル | タグ |
---|---|---|
日付
2024/01/11
|
タイトル 経済学のキホン① ~経済とは?①~ | タグ |
日付
2024/01/25
|
タイトル 経済学のキホン② ~経済とは?②~ | タグ |
日付
2024/02/08
|
タイトル 経済学のキホン③ ~経済とは?③~ | タグ |
日付
2024/02/21
|
タイトル 経済学のキホン④ ~経済思想史①~ | タグ |
日付
2024/03/07
|
タイトル 経済学のキホン⑤ ~経済思想史②~ | タグ |
日付
2024/03/21
|
タイトル 経済学のキホン⑥ ~経済思想史③~ | タグ |
日付
2024/04/04
|
タイトル 経済学のキホン⑦ ~経済思想史④~ | タグ |
日付
2024/04/18
|
タイトル 経済学のキホン⑧ ~経済思想史⑤~ | タグ |
日付
2024/05/02
|
タイトル 経済学のキホン⑨ ~経済思想史⑥~ | タグ |
日付
2024/05/16
|
タイトル 経済学のキホン⑩ ~経済思想史⑦~ | タグ |