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- 日本銀行と金融政策⑧ ~日本銀行の金融政策の変遷⑤~
2024年3月、日本銀行は2%の物価目標が持続的かつ安定的に達成できる見通しに至ったと判断し、マイナス金利を解除、イールドカーブ・コントロールを廃止しました。
■長期金利操作の弾力化
今回は前回に引き続き、日本銀行の金融政策の変遷についてご説明いたします。日本銀行は2016年1月にマイナス金利政策を導入し、同年9月には長短金利操作を行う「イールドカーブ・コントロール」を導入しました。しかしながら、この大規模な金融緩和の目的である2%のインフレ目標達成はなかなか見えず、達成時期の見通しは後ずれしていきました(図表1)。こうした中で、マイナス金利を維持し、長期国債やETF等の買い入れといった大規模な金融緩和が続けられましたが、こうした金融政策には国債市場における流動性の問題が存在します。例えば、イールドカーブ・コントロールの下、日銀が長期金利をゼロ付近で推移するよう(変動幅は±0.1%)買い入れを行うことで、市場に流通する国債の量が減少し、流動性が低下することに加え、国債の価格形成が市場参加者の需給ではなく、日本銀行の政策に依存するという歪みが発生する恐れがあります。また、仮にこのような政策が長期にわたって続く場合、市場参加者が日本銀行の介入に慣れてしまい、金融政策の効果そのものが薄れるリスクもあります。
図表1:消費者物価指数(2020年基準、前年同月比、2012年1月~2024年11月)
出所:総務省のデータを基にピクテ・ジャパン作成
こうした金融緩和長期化の副作用ともいえる課題に対し、日本銀行は2018年7月の金融政策決定会合にて、長期金利操作の弾力化を図り、長期金利はゼロ付近に抑えることは基本軸としながらも、変動幅を±0.1%程度から、その倍程度にすることが適切だとする認識を示しました。その後の黒田総裁(当時)の記者会見の場においても、同様の見解が示されました。
この長期金利の変動幅の見直しについては、その後も行われ、2021年3月には±0.25%、2022年12月には±0.5%程度に拡大されました。2022年12月の金融政策決定会合では、実際に10年ゾーンにおける価格形成に歪みが生じており(図表2)、債券市場の機能度が低下しているという指摘もありました。さらに現在の植田総裁は2023年7月に変動幅を±0.5%程度としながらも、位置付けを「目途」とし、10年国債金利について1.0%の利回りでの指値オペを毎営業日実施するとしました。そして、10月には目途の±0.5%を廃止したうえで、長期金利の上限の目途を1.0%と設定しました。これは米国の長期金利上昇をうけて、日本の長期金利にも上昇圧力がかかっていたことも要因としてあげられます。
図表2:イールドカーブの歪み
出所:ブルームバーグのデータを基にピクテ・ジャパン作成
■マイナス金利解除、イールドカーブ・コントロール廃止
2024年3月の金融政策決定会合で、企業収益の改善に伴う賃上げの動きが幅広い企業で高まり、その流れを受けたサービス価格の緩やかな上昇といった「賃金と物価の好循環の強まり」が確認できることから、2%の「物価安定の目標」の持続的・安定的な実現が見通せる状況に至ったと判断し、マイナス金利政策を解除しました。具体的には、無担保コールレート(オーバーナイト物)注1を0~0.1%程度で推移するよう促し、長期金利の誘導目標や上限の目途、いわゆるイールドカーブ・コントロールの枠組みも撤廃しました。また、ETF・J-REITの新規買入れを終了し、社債についても買入れ額を段階的に減額の上、1年後を目途に買入れを終了すると決定しました。このように、金融正常化に向けた政策運営を始める一方、先述の経済や物価に関する不確実性は依然として高いことも指摘されており、日本銀行は急激な引き締めへの転換ではなく引き続き緩和状態を維持させながら経済動向を注視していくことになるようです。
注1:金融機関が日々の短期的な資金の過不足を調整するための取引を行う市場(コール市場)において、無担保での資金貸借のうち、約定日に資金の受払を行い、翌営業日を返済期日とするものにかかる金利のこと
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