Article Title
「菅政権」は何を目指すのか?
市川 眞一
2020/09/04

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

9月14日に行われる自民党総裁選では、菅義偉官房長官が選出され、16日の臨時国会で第98代内閣総理大臣に就任する可能性が強まった。新政権ではこれまでの政策が概ね維持され、人事も小幅に留まる見込みで、市場には安心感がある。ただ、新たな何かを期待することは難しい。また、寄り合い世帯となる「菅政権」の安定には、早期の解散・総選挙が鍵となるだろう。



Article Body Text

菅政権誕生へ:存在感増す二階自民党幹事長

9月14日に行われる自民党総裁選挙は、党則第6条第2項のただし書きが適用され、党員投票は行わず、両院議員総会で国会議員1人1票、47都道府県連各3票、合計535票により争われることになった。立候補を表明した菅官房長官には、党内最大派閥の細田派、第2派閥の麻生派など5派閥が支持を表明、1回目の投票で過半数の268票を獲得して同長官が新総裁に選出されるものと見られる。

菅氏は、7年8ヶ月に渡り安倍晋三首相を官房長官として支えてきた。官邸主導と言われた政策決定のプロセスに深く関与しており、経済政策は安倍政権の路線を踏襲すると見られる。一方、政治キャリアにおいて外交経験のほとんどない点が、安倍首相との大きな違いだ。国際情勢が極めて複雑化するなか、外交力は未知数であり、国際社会において日本の存在感が低下する可能性は否定できない。

また、無派閥の菅氏の場合、縁の下で支える人材は少ないだろう。それだけに、総裁選で菅氏勝利の流れを作った二階俊博幹事長の影響力が強まると予想される。総裁選後に行われる内閣改造・自民党役員人事では、二階氏は自民党の要である幹事長に留任するのではないか。

株式市場:アンダーパフォーム継続か!?

アベノミクスは1)金融政策、2)財政策、3)成長戦略‥3本の矢でデフレからの脱却を目指すとしてきた。2018、19年の失業率は2.4%で完全雇用状態であり、物価目標の2%には到達していないとしても、その目的は概ね達成されたと言えるのではないか。

ただし、金融政策、財政政策に多くを依存する反面、雇用制度改革や産業の新陳代謝促進など、経済構造の転換を図る成長戦略が当初の期待通りには進まなかった。その結果、2016年以降、2017年を除いて日本株は世界の市場をアンダーパフォームしている(図表)。

自民党内の基盤が弱く、党員投票なしの総裁選で選ばれた菅新首相の下、大胆な改革が進むとは考え難くい。二階幹事長もブレーキを踏むのではないか。このシナリオが正しいとすれば、日本株が世界の市場を持続的にアウトパフォームするイメージは描けないだろう。

政策:総選挙を意識して財政拡大か!?

2008年9月、福田康夫首相(当時)の突如の辞任表明を受け、両院議員総会による自民党総裁選を経て、麻生太郎内閣が発足した。衆議院の任期満了まで1年の時期であり、早期解散を求める声は自民党内に多かったものの、麻生首相はリーマンショック下において経済対策の実施に拘り、結局、任期満了の11日前に行われた総選挙で自民党は大敗して政権を失っている。

衆議院の任期満了は2021年10月であり、菅新首相は当時の麻生首相と同様の立場に置かれる見込みだ。そこで課題になるのは、衆議院解散の時期だろう。就任直後に解散しない場合、新型コロナ禍そのものに加え、オリンピック・パラリンピックの見通しも不透明であり、政権への期待が急速に萎む可能性がある。菅新首相が指導力を確立する上で、解散・総選挙のタイミングは極めて重要な意味を持つのではないか。野党は弱体化しており、政権交代の確率は極めて低いが、解散の時期を間違えると、短命内閣に終わるだろう。

また、総選挙を意識した場合、2020年度第3次補正予算の準備を進めるなど、次期政権は財政政策をさらに強化すると見られる。選挙対策として、ばら撒き色の強い政策が採用される可能性は否定できない。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


米半導体株に忍び寄る「米中貿易戦争」の影

「103万円」は本当に壁なのか?

第二次トランプ政権下の金融規制緩和の現実味

「トランプ大統領」の経済政策

米国株「トランプ・トレード」が爆騰

2025年衆参同日選の可能性