Article Title
成長株主導の相場が続く理由
市川 眞一
2020/12/11

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

日米の株式市場では、成長株が主導する状況が続くのではないか。背景は、米国経済が「雇用なき回復」期に入ったと考えられることだ。新型コロナが収束しても、社会・経済の構造変化で労働移動が続き、景気回復は緩慢だろう。FRBは金融緩和を継続、成長株への資金流入が続く可能性が強い。主役については、IT関連に加え環境関連のダブル・キャストが想定される。



Article Body Text

雇用なき回復:FRBは金融緩和を継続へ

12月4日に発表された11月の米国雇用統計では、失業率が前月比0.2ポイント低下の6.7%になり、戦後最悪だった4月の14.7%に比べ大きく改善した。もっとも、米国の労働市場には、より構造的な変化が起こっている可能性が強い。

11月の雇用統計を詳しく見ると、失業者は全体で前月比22万7千人減少した。内訳は、一時帰休の失業者が45万9千人減る一方、完全失業者は21万4千人増加している。4月と比べた場合、一時帰休者は1,531万7千人減ったものの、完全失業者は215万8千人の増加だ。

完全失業者の増加は、新型コロナの影響よりも、米国の雇用構造の変化を表しているのではないか。リモート・デジタル化の流れにより働き方が変わり、都市中心部の小売業、飲食業などは大きな変化が避けられなくなった。結果として、当面、衰退産業からの労働移動が続き、雇用の改善ペースが極めて緩やかなものになる可能性が強い。1991~94年に見られた「雇用なき回復」だ。

米国連邦準備法で定められたFRBの政策目的は1)雇用の最大化、2)物価の安定、3)長期金利の変動抑制だ。雇用は最優先の政策課題である。従って、米国経済が「雇用なき回復」から離脱のメドが立つか、金融緩和の副作用が顕著になるまで、現在の金融政策が維持されるだろう。

 

地球温暖化抑止:コストから成長戦略へ

米国の株式市場が3月16日の安値から立ち直る過程において、全体を牽引したのはIT関連だった。新型コロナ禍を契機とした社会・経済のリモート化をテクノロジーで先導するか、もしくはリモート化の恩恵を受ける企業群だ。結果として、NASDAQ総合指数をS&P500で割った倍率は、2000年初頭のITバブル期並みの水準に到達している(図表2)。

さらに、この成長株主導の相場展開の背景には、FRBによる金融緩和があると言えよう。ゼロ金利で大量に供給されたマネーの一部が、リスク性資産へ流入したと考えられる。

米国経済の構造的変化がもたらす「雇用なき回復」により、FRBの歴史的金融緩和が続くとすれば、株式市場における相場のリード役は、引き続き成長株となるのではないか。これは、日本のマーケットにも言えることだ。

もっとも、IT関連株に関しては、成長ストーリーを株価が相当程度織り込んだとの見方は否定できない。低金利によりバリュエーションの許容範囲は広がったとしても、市場に買い疲れ感があることは確かだろう。

そうしたなか、新たな主役となり得るのが環境関連である。主要国は地球温暖化抑止策を従来のコストではなく、成長戦略として見直しつつある。企業経営、投資の観点からESG重視の流れとなるなか、環境は息の長いテーマになりそうだ。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


USスチール買収審査は分断の象徴か!?

日銀植田総裁は想定よりハト派だった

スイス中銀はマイナス金利へと向かうのか?

企業倒産件数が示す変化

史上最高値を更新したS&P500に死角はないのか?

日本企業の問題点 法人企業統計より