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- 緊急事態1ヶ月延長のポジティブな側面
菅義偉首相は、2月2日、11都府県に発令された新型コロナの緊急事態宣言について、栃木県を除き1ヶ月の延長を発表した。感染拡大は頭打ちの傾向を示すものの、医療の逼迫が主な背景だ。もっとも、ワクチン接種の開始にメドが立ち、感染収束を見通せる状況になったことは大きい。新型コロナ禍は、医療の構造問題を浮き彫りにしつつも、新たな局面を迎えたと言えよう。
日本の医療システム:新型コロナに直撃された構造問題
1月末までの3ヶ月間、人口100万人当たりの新型コロナ新規感染者数は米国5万1,444人、G7平均3万3,794人に対し、日本は2,283人だった。他方、日本の急性期向け病床数は人口1千人当たり7.8床とG7平均の2倍であり、急性期病床1床に対する新型コロナ感染者は0.3人と極めて少ない(図表1)。しかし、過去3ヶ月で見ると、日本の感染者の致死率は1.4%、米国の1.2%を上回っている。医療現場が逼迫し、十分な治療を行えないケースがあるからだろう。
昨年4月から適用された新たな労働規制では、時間外労働は年間360時間、特例720時間に制限された。しかし、病院勤務医は960時間、救急医療、研修医などの場合は1,860時間が認められ、その適用も2024年度からである。
病院に勤務する医師、看護師などの医療従事者は、従来から過酷な労働環境下にあったわけだ。そこに新型コロナ禍による負荷が加わった。新型コロナ向けの専用病床を十分に確保するには、人材が不足しているのである。
もっとも、人口1千人当たりの医師数は2.5人であり、G7平均の3.0人と比べ極端に少ないわけではない。国民皆保険の下、日本の医療システムは堅固に見えたが、人的アロケーションが適切に行われてこなかった制度疲労による問題が、新型コロナ禍の下で浮き彫りになったと言えるのではないか。
感染収束へのシナリオ:ワクチン接種の開始で見通せる状況へ
国内における新型コロナの新規感染者数は、1月8日をピークに頭打ち傾向となっている(図表2)。これは、7日に発令された緊急事態の効果と言うよりも、忘年会など年末特有のイベントが一巡、感染機会が減少した結果だろう。ただし、医療の逼迫が続いていることから、菅首相は栃木県を除く10都府県について、緊急事態の1ヶ月延長を決定した。
この判断の背景には、ワクチンの接種開始にメドが立ったとの事情があるのではないか。昨夏の感染第2波は、感染者数の増加から見て8月7日がピークだった。強い懸念や批判があったにも関わらず、安倍政権(当時)が7月22日から「GoToトラベル」の実施を決めたのは、新型コロナの感染収束が見通せないなか、経済の活性化を迫られたからだ。
一方、菅首相は、2月2日の会見で、医療関係者へのワクチン接種を2月中旬から始めるとの見通しを示している。結果として、感染収束への期間がある程度は予測可能になった。その間であれば、明確な計算の下で売上や所得の減少に苦しむ個人、企業を財政的に支援できるだろう。
米国などの先行例を見ると、ワクチン接種には様々な問題が起こり、計画通りには進まない可能性が強い。菅政権にとっては、政治的正念場が続きそうだ。ただし、ワクチン接種を前提とした緊急事態の延長は、出口の見えない状況とは大きく異なる。ポジティブな変化と言えるだろう。
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