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米実質金利上昇でも株式に「投資妙味あり」か?
田中 純平
2021/03/08

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概要

米10年実質金利(米10年物価連動国債利回り)は、「経済の正常化期待」や「巨額の財政支出観測」等を背景に、今年1月4日時点の-1.12%から2月25日時点の-0.61%まで大きく上昇した。これが米国株のバリュエーションを押し下げるきっかけになったわけだが、米実質金利をS&P500指数の益利回りと比較すれば、依然として株式には「投資妙味」があると考えられる。



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実質金利の絶対水準が株式のバリュエーションを左右すると考えられているが…

実質金利は名目金利から期待インフレ率を差し引いて求められる指標で、長期的には潜在成長率に近似する。世界的に新型コロナワクチンの接種が開始されていることから、「経済の正常化」に対する期待感が高まっているほか、米バイデン政権による約1.9兆ドルの「財政支出」によって景気がさらに刺激されることを勘案すれば、マイナス金利状態にある米実質金利がゼロ%に向かって上昇したとしても、特段の違和感は無い。

株式市場においても、経済見通しが上方修正されていることを踏まえれば、実質金利の上昇は(本来であれば)歓迎されてしかるべき事象である。しかし、足元では実質金利の上昇が、バリュエーションの低下要因として株安を誘引している。たしかに、コロナ禍においては実質金利の低下とともに益利回りも低下(PERは上昇)してきたため、絶対水準で捉えれば実質金利の上昇は益利回りの上昇(PERの低下)をもたらしそうだ(図表1)。だが、実質金利と益利回りの相対水準で比較すると、景色は大きく異なって見える。

実際は実質金利との相対水準のほうが相場をうまく説明できる

株式市場のバリュエーション指標のひとつに「イールド・スプレッド」という投資尺度がある。これは、益利回りから米10年国債利回りを差し引いた「利回り差」から、株式が債券に対して割安か割高かを判断するものだ(通常は名目金利が使用されることが多いが、本レポートではいま市場で注目されている実質金利に置き換えて検証している)。このS&P500指数の益利回りから米10年実質金利(米10年物価連動国債利回り)を差し引いた「イールド・スプレッド」は直近5%台で推移しており、実はITバブル期における0%前後の水準と比較すると、足元は株式が相対的に割安であることが分かる(図表2)。

また、今回のように実質金利が大きく上昇した2013年5月22日以降の「テーパー・タントラム(バーナンキ元FRB議長が突如として量的緩和の縮小に言及したことで長期金利が上昇した)」時も、実質金利は2013年5月21日の-0.40%から同年9月5日まで+0.91%まで大幅に上昇したが、S&P500指数の益利回りはゆるやかに低下した(イールド・スプレッドは縮小した)ことから、イールド・スプレッドの相対的水準が株式市場の動向を左右する(株式が債券と比較して相対的に割安であれば株式は下がりづらい)ことが分かる。株式のほうが相対的に「投資妙味」があると考えられる理由がここにある。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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