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ITバブル期のシグナル点灯?株式運用はどう対処すべきか? 
田中 純平
2021/06/28

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概要

S&P500ピュアバリュー株指数とS&P500ピュアグロース株指数との相関係数が、足元でITバブル期並みに急低下している。はたして、これはITバブル期に見られたグロース株からバリュー株への転換を示唆するシグナルなのか?そして、株式運用はどのように対処すべきなのか?



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バリュー株指数とグロース株指数との相関がITバブル期並みに急低下

S&P500ピュアバリュー株指数とS&P500ピュアグロース株指数との相関係数が約20年8ヶ月ぶりの水準まで大きく低下している。これは米国の大型バリュー株指数と大型グロース株指数における値動きの連動性が低下していることを意味するわけだが、それがITバブル期に見られた極端な水準まで低下しているため、にわかに注目を集めている(図表1)。

この相関係数がITバブル期において最も低下した日は2000年10月10日だった。この辺りからS&Pピュアグロース株指数が下落し始めたため、この相関係数の急低下がグロース株からバリュー株への転換を示す「シグナル」ではないかと捉える見方が一部であるようだ。

しかし、別の株価指数であるMSCI先進国バリュー株指数とMSCI先進国グロース株指数との相関係数で比較すると、足元の水準はITバブル期の「底」を突き抜けてさらに低下していることが分かる(図表2)。もはや「シグナル」としての役割を十分果たしていない可能性がある。

グロース株からバリュー株への転換を示唆する可能性は低い?

ある指標で「当てはまり」が良かったシグナルが、別の指標で「当てはまり」が悪くなるケースは往々にしてある。このような誤解は、サンプル数が少ない偏った情報を過大評価してしまう「少数の法則」という認知バイアスが影響している可能性がある。この「少数の法則」は、ノーベル経済学者ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴァスキーが1971年の共同論文で提唱したものだ。ある傾向を見出すには、本来であれば十分なサンプル数をもとに検証しなければならないが、「少数の法則」はわずかなサンプル数で結論を導いてしまう人間の非合理的な行動を説明している。

今回の相関係数の事例で言えば、サンプル数はたったの1回(ITバブル期)だけだ。これだけでグロース株からバリュー株への転換を示すことには無理がある。今回のバリュー株指数とグロース株指数における極端な相関係数の低下は、コロナ禍における極端なグロース株物色と、その後の経済正常化を見越したバリュー株への極端な反動(今月のFOMC後は再びグロース株優位の展開)が相関係数の低下に寄与したと考えるべきだ(図表3)。このような認知バイアスに惑わされないためにも、株式運用は引き続きバリュー株やグロース株にも投資するスタイル分散が望ましいだろう。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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