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- なぜナスダック総合指数は急落したのか?
3月10日のナスダック総合指数は前日比4.0%安となり、昨年12月16日の高値から13.4%下落した。この急落の原因はトランプ関税政策などによる米国の景気後退懸念が挙げられるが、そもそも景気後退懸念が高まるきっかけとなったアトランタ連銀のGDPナウは、実態を反映していない可能性がある。
ナスダック総合指数はスピード調整
3月10日のナスダック総合指数は前日比4.0%安の17,468.32ポイントで取引を終了し、昨年12月16日の高値(20,173.89ポイント)から13.4%下落した(図表1)。この急落の原因はトランプ政策にある。
市場関係者は当初、トランプ米大統領の関税政策を「ディール外交」として軽視していた。しかし、3月4日に対中国の追加関税を10%から20%へ引き上げ、カナダとメキシコに対しても25%の追加関税を課した(その後、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に適合する輸入品に対しては、相互関税が発表される4月2日まで追加関税を延期することが3月6日に決定された)。さらに、米国が輸入する鉄鋼やアルミニウム製品には、3月12日から25%の追加関税が適用されるため、市場関係者は景気への影響は避けられないと考えるようになった。
また、トランプ政権からは投資家を不安にさせる発言も相次いだ。ベッセント米財務長官は3月7日に「市場も経済も中毒になっていた。我々は政府支出に依存していた。この先はデトックス(解毒)の期間になる」とコメントした。さらに、3月9日のFOXニュースのテレビ・インタビューでトランプ大統領は米経済が過渡期にあると述べ、「相場を見てはいけない」と発言した。市場関係者はこれらの発言から、「トランプ・プット(株式市場を支える姿勢)」が消失したと解釈した。
アトランタ連銀GDPナウの大幅な下方修正が景気後退懸念を誘発
ナスダック総合指数が急落した理由は他にもある。トランプ大統領が前述のテレビ・インタビューで、米国の景気後退の可能性を明確に否定しなかったと報じられたことが、それが株式市場でリスク回避の動きを引き起こした。しかし、実際には市場ではすでに景気後退への懸念がくすぶっていた。
米アトランタ連銀が算出するGDPナウ(25年1-3月期米GDP成長率の予測値)は、2月28日時点で+2.3%から-1.5%へと3.8%ポイントも下方修正されていた(図表2)。これにより、堅調な経済成長を期待していた投資家は、突然の予測変更に不意を突かれる形となった。トランプ大統領のインタビューは、こうした景気後退懸念をさらに強めるきっかけに過ぎなかった。
しかし、このアトランタ連銀の予測には疑問符が付けられる。他の連銀、例えばNY連銀やセントルイス連銀が算出するGDPナウキャストは+2%以上を示しており、アトランタ連銀の予測が極端に低いことが分かる。
アトランタ連銀のGDP予測が下方された理由を詳しく見ると、純輸出(輸出から輸入を引いたもの)が-3.3%ポイントも予測を押し下げている(図表3)。これはトランプ関税を見越して米国の輸入が急増したためだが、その主な要因は金(ゴールド)の輸入だ。
金の輸入は2024年12月時点の132億ドルから、2025年1月には326億ドルまで約2.5倍に急増した(図表4)。これもトランプ関税を見越した取引と考えられるが、重要なのは、このような裁定取引に関わる金の輸入はGDPの算出に含まれないことだ。アトランタ連銀によると、金の輸入の影響を除いた場合、3月7日時点のGDP予測は+0.4%に上方修正されるため、株式市場における米景気後退懸念は過剰かもしれない。
米国企業の業績見通しは堅調
2025年3月10日時点における米国企業の市場予想EPS(1株当たり利益、12ヵ月先)の成長率を昨年末時点から比較すると、S&P500指数とナスダック総合指数はどちらもプラスの変化率を示しているが、市場予想PER(株価収益率、12ヵ月先)はマイナスの変化率となっている(図表5)。つまり、株価急落は業績見通しの悪化ではなく、バリュエーションの低下(不安心理や需給要因など)が原因ということになる。
個別企業のボトムアップ分析によるファンダメンタルズからも、市場で広がる景気後退懸念は過剰であることが示唆される。トランプ関税の「嵐」が過ぎ去った後には、絶好の買い場が訪れる可能性がある。
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