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トランプ相互関税でS&P500指数が上昇した理由
田中 純平
2025/02/14

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概要

トランプ米大統領は、これまで全ての輸入品に対して10~20%の関税を課す「一律関税」を公約として掲げてきた。しかし、2月13日に発表されたのは、米国の貿易相手国が米国に対して課す関税率と同水準まで引き上げる「相互関税」だった。米国株式市場は、トランプ米政権の関税に関する方針の変化を敏感に察知した可能性がある。



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トランプ政権の「相互関税」とは?

トランプ米大統領は2月13日、米国の貿易相手国が米国に対して課す関税率と同水準まで引き上げる「相互関税」の導入を指示する覚書に署名した。対象には欧州連合(EU)や中国、日本などが含まれる見通しだ。トランプ氏が昨年の米大統領選の時から主張してきた全ての輸入品に対する「一律関税」とは異なり、例えばEUの付加価値税や政府補助金、為替政策なども非関税障壁(実質的な関税)として考慮する方針が示された。ラトニック次期米商務長官は、一連の貿易取引の調査を今年4月1日までに完了させる見通しを示した。

同日発表されたホワイトハウスのファクトシートでは、ブラジルのエタノール(米国の関税2.5%、ブラジルの関税18%)やインドのオートバイ(米国の関税2.4%、インドの関税100%)、EUの自動車(米国の関税2.5%、EUの関税10%)などが具体例として示された(日本は言及なし)。

S&P500指数は最高値目前

トランプ氏の「相互関税」に関する報道を受けて、米国株式市場は上昇する展開となり、S&P500指数は前日比1.04%高の6,115.07ポイントをつけ、ザラ場で最高値をつけた今年1月24日の6,128.18ポイントに迫った(図表1)。

なぜ米国株式市場は上昇したのか?理由は2つ挙げられる。

1つ目は「相互関税」が発動される「タイミング」だ。株式市場では「相互関税」が即日で発動されることを警戒していたが、実際は4月1日と時間的猶予が設けられたことから、貿易相手国との交渉によって関税率が引き下げられる可能性が高まったと評価された可能性がある。

2つ目は「一律関税」から「相互関税」への「方針転換」だ。トランプ氏は全輸入品に対して10~20%の関税を課す「一律関税」をこれまで公約として掲げてきたが、先週の段階で「相互関税」を重視する傾向があるとトランプ氏自身が述べていた。ホワイトハウスは「一律関税」の発動を否定しないものの、市場が身構えていたほど関税の影響が広がらない可能性も高まったと考えられる。

米国のインフレ率は再加速か?

それでは米国のインフレ率への影響はどう想定すべきなのか。4月1日までに貿易相手国との交渉が進み、最終的な結果が出るまでは見通せない部分が大きいが、少なくとも米国10年期待インフレ率(米10年ブレーク・イーブン)の低下を見ると、債券市場では(見切り発車的に)相互関税によるインフレへの影響を限定的と判断した可能性がある。

ただし、トランプ氏も会見で述べていたように、米国物価への短期的な影響について否定はできない。特に2月12日に発表された2025年1月の米国消費者物価指数(CPI)が市場予想を上回ったことを考えれば、なおさらだろう(図表2)。

米国CPIの内訳をヒートマップ上で見ると、コアサービスの高止まり傾向が続いており、直近では再加速している(図表3)。

また、基調的なインフレ率を補足するための指標であるクリーブランド連銀の米国CPI中央値や、アトランタ連銀の米国スティッキー(粘着質な)CPIを見ても、いずれも鈍化傾向を示すものの、高止まりの状態が続いている(図表4)。今年は米国の物価動向から目が離せない状況が続くだろう。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
投資戦略部長

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞歴を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。日経CNBC「朝エクスプレス」、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」、BSテレビ東京「NIKKEI NEWS NEXT」に出演。週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載中。日本経済新聞やブルームバーグではコメント多数引用。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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