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- 米長期金利の上昇で米国株はどうなる?
米国のインフレ再燃リスクなどを背景に、S&P500指数は年初から軟調な展開が続いている。米インフレ圧力の高まりにより米長期金利が上昇し、米国株の割高感が一段と際立っている。特に注目されるのは、米10年国債利回りが心理的節目である5.0%を超えるかどうかだ。これは今後の市場動向を左右しかねない重要なターニングポイントになるだろう。
年初来のS&P500指数は軟調な展開
年明けのS&P500指数は低調なパフォーマンスとなっている(図表1)。その要因のひとつとして挙げられるのが、米国のインフレ再燃リスクだ。
昨年12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で発表されたFOMCメンバーの政策金利見通しでは、利下げペースの鈍化が示されたことが市場のサプライズとなった。パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長はFOMC後の記者会見でインフレ予測の不確実性について言及したほか、1月8日に発表されたFOMC議事要旨からは、多数の参加者がトランプ次期政権の政策による影響(インフレ圧力)を、経済予測に織り込んだことが明らかとなった。
もはやインフレ率の上振れリスクは、『if(もし)』ではなく『when(いつ発現するか)』にフェーズが変わったようだ。
米10年国債利回りの上昇はターム・プレミアムの上昇が主因
このような状況を如実に表しているのが米国債市場だ。米10年国債利回りは12月のFOMC後に上昇に弾みがついており、足元では23年10月19日に記録した5.01%に近づきつつある。
この米長期金利上昇の主因がターム・プレミアムの上昇だ(図表2)。
ターム・プレミアムとは、長期債を保有することで得られる上乗せ金利のことであり、今回のようにインフレ見通しが上方修正される局面では、ターム・プレミアムも上昇する傾向がある。このターム・プレミアムは、FRBが過去に行った量的緩和(米国債等を買い付ける)政策の余波によってマイナスの値が定常化するというイレギュラーな状態が続いていたが、直近数カ月ではマイナス圏から脱却し、正常化しつつあった。
好調な米労働市場が米長期金利の上昇に拍車をかけた
米長期金利の上昇にさらに拍車をかけたのが好調な米労働市場だ。1月10日に発表された24年12月の米非農業部門雇用者数は前月比25.6万人増となり、市場予想の同16.5万人増を大幅に上回った(図表3)。
この結果、市場参加者が織り込むFRBの利下げ見通しも年内2回から1回へ下方修正され、米10年国債利回りはさらに上昇する展開となった(図表4)。インフレ指標のひとつである時間当たり賃金こそ上振れなかったが、好調な労働市場が将来的な賃金インフレをもたらす可能性を想起させるには十分な内容だったと言えよう。
米国株は米国債と比較して割高水準
1月13日時点のS&P500指数の市場予想PER(株価収益率)は、生成AI(人工知能)ブームやFRBの金融緩和政策などを背景に21.5倍まで拡大している。市場予想PERの逆数である益利回りは4.65%であり、最も安全とされる米10年国債の利回り4.78%を下回る状況だ。
この益利回りから米10年国債利回りを差し引いたイールド・スプレッドは、過去20年間で最低水準(米国株が割高)となっている(図表5)。
市場参加者が米国株を割高(米長期金利上昇のリスクに対して米国株のリスクが見合わない)と判断すれば、米国株の調整局面はもうしばらく続くことになるかもしれない。目先は、米10年国債利回りが心理的節目である5.0%を超えるかどうかが「分水嶺」となるだろう。
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