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米半導体株に忍び寄る「米中貿易戦争」の影
田中 純平
2024/11/19

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概要

米大統領選でトランプ氏が勝利し、上下両院とも共和党が過半数を獲得する「レッド・ウェーブ(赤い波)」が押し寄せた米国株式市場では、半導体株が急落する展開となった。トランプ次期政権メンバーのサプライズ人事をきっかけに、対中規制強化への警戒感が高まったことがその背景と見られるが、米半導体産業の「リショアリング(製造拠点の米国内回帰)」への期待も同時に高まっている点は注目に値する。



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米半導体株はトランプ次期政権メンバーのサプライズ人事が嫌気される

米大統領選でトランプ氏が勝利し、上下両院とも共和党が過半数を獲得する「レッド・ウェーブ(赤い波)」が押し寄せた米国株式市場では、半導体株が急落する展開となっている(図表1)。きっかけはトランプ次期政権メンバーのサプライズ人事だ。

対中強硬派として知られるマルコ・アントニオ・ルビオ氏(フロリダ州上院議員)が国務長官に指名されたほか、マイケル・ジョージ・グレン・ウォルツ氏(フロリダ州下院議員)が国家安全保障担当補佐官に指名された。

極め付きは、ピーター・ブライアン・ヘグセス氏の国防長官への起用だ。トランプ氏寄りの米保守系FOXニュースの司会者だったヘグセス氏は、政府や軍の要職に就いた経験がなく、過去に暴行疑惑で捜査を受けたこともある。

市場参加者が警戒するのは、「お構いなし」の対中規制強化だろう。半導体産業では米中の覇権争いが激化しており、トランプ次期政権が矢継ぎ早に自国産業保護を打ち出すと見られている。中国向けに半導体ビジネスを行う米半導体企業は、経営戦略の再考を迫られる可能性がある。

SOX(半導体株)指数には米中対立の激化を見越した物色が見られる

SOX(半導体株)指数の構成銘柄における月初来騰落率ランキングを見ると、市場参加者の思惑が垣間見れる。大半の半導体株が下落する中で、逆行高となっているのがインテルやグローバル・ファウンドリーズなどだ(図表2)。

このランキング上位2銘柄は米国内でもファウンドリー(半導体受託製造)事業等を行う米国企業であり、トランプ氏の保護主義的な政策による恩恵を享受することが期待されている。すでに超党派の合意で2022年に成立したCHIPS・科学法(米国内の半導体製造支援策)によって、インテルは約115億ドル(セキュア・エンクレーブ含む)、グローバル・ファウンドリーズは15億ドルの補助金を得ることが決まっており、米半導体産業の「リショアリング(製造拠点の米国内回帰)」への期待がかかっている(図表3)。

台湾のTSMCや韓国のサムスン電子も、CHIPS・科学法による補助金で米国内に半導体工場を建設する計画だが、トランプ次期政権の方針は定かではない。一部報道では、CHIPSプラス法による補助金がいまだ支払われていないため、政権移行を前に半導体企業に焦りが出始めているという。

米半導体産業の「リショアリング」が一筋縄ではいかない理由

ファウンドリー事業で世界をリードするTSMCのプロセスノード(半導体の微細化を示す数値)は最先端技術で3nm(ナノメートル=10億分の1メートル)であり、その売上高比率は約20%にもなる(図表4)。

一方、グローバル・ファウンドリーズの最先端技術は12-14nmであり、全出荷量に占める割合も約17%に過ぎない(図表5)。

インテルはプロセス・ノードごとの売上高や出荷量を開示していないが、最先端技術で5nm相当(Intel 3)とも言われている。

米国のファウンドリー企業は、技術面で台湾・韓国勢に対抗する術に乏しいため、米中対立の激化を見越した足元の物色動向(リショアリング関連銘柄の買い上げ)にはやや違和感が残る。台湾・韓国勢との技術的な差を縮められない限り、最先端技術を有するアジア勢に依拠した生産体制が当面の現実解ではなかろうか。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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