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出口戦略の難しさを再確認させた日銀の中間決算
市川 眞一
2022/12/02

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概要

日銀の9月中間決算は、保有国債の評価損に注目が集まったが、それは本質的な問題ではない。イールドカーブ・コントロールから出口戦略へ移行する際、1)意図せざる量的緩和となりかねないこと、2)付利金利の引き上げで日銀の損益が急激に悪化する可能性があること・・・の2点が大きなリスクだろう。国債費の急増を招くことも考えられ、金融政策の変更には課題山積だ。



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第1の課題:意図せざる量的緩和のリスク

日銀が11月28日に発表した2022年度9月中間決算において、保有する国債に8,749億円の評価損が生じたことが大きく報じられた(図表1)。

 



ただし、それが金融政策へのダメージになるとは考え難い。日銀が保有する長期国債は償却減価方式で評価され、原則として満期まで保有されるため、市場金利の変動により一時的に評価損が膨らんでも、日銀のキャッシュフローに影響を及ぼすことはないからだ。従って、国債の評価損に関し市場が神経質になる必要はないだろう。
もっとも、イールドカーブ・コントロール(YCC)は、中央銀行にとり極めてリスクの高い政策と考えられる。理由は、出口戦略へ移行するのが非常に難しいことだ。

第1の問題は、出口戦略として10年国債の目標利回りを引き上げた場合、国債の大量売りを誘発しかねないことである。例えばターゲットを「0.5%±0.25%」とする場合、市場は次に「1%±0.25%」になることを織り込むのではないか。価格下落リスクに晒される既発債の保有者は、日銀が0.75%のラインで連続指値オペをしている間に、保有する長期国債の売却を急ぐと想定される。

さらに、この攻防の大きな問題点は、日銀が連続指値オペで目標レンジを守ろうとする結果、日銀の保有する長期国債が急増すると同時に、当座預金の超過準備も連動して膨れ上がることだろう。中央銀行の当座預金はマネタリーべースなので、出口戦略への移行により意図せざる量的緩和を誘発しかねないことになる。それでは本末転倒だろう。

 


第2の課題:損益が大きく悪化する可能性

第2の問題は、日銀の損益が急速に悪化するリスクだ。マネタリーベースが市中で循環し、想定外の円安や物価上昇の背景となるリスクを抑制する上で、最も効果的な方法は当座預金に対する付利金利の引き上げだ。9月中間期における付利対象当座預金の残高は473兆7,470億円であり、仮に付利金利を1%とすれば、利払い費は5兆円近くに達する。

一方、日銀の経常収益を見ると、この9月中間期は、為替差益が1兆5,064億円に達し利益を大きく押し上げた(図表2)。


 

もっとも、そうした一過性の要因を除けば、概ね安定しているのは国債の利息収入約1兆円、ETFの受け取り配当金約2兆円、合わせて年間3兆円程度だろう。つまり、付利金利が1%になれば、日銀は巨額の赤字に陥る可能性がある。
さらに、YCCの対象を10年国債から5年国債に変更した場合、10年国債の利回りが急上昇、政府の利払い費が大幅に増加し、財政を圧迫することになりそうだ。これも、YCCからの出口戦略による副作用のリスクに他ならない。

YCCの変更は容易ではないだろう。国債の評価損が大きな問題とは思えないが、中間決算は出口戦略の難しさを改めて浮き彫りにした。それは、誰が総裁でも同じことではないか。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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