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- トランプ関税の読み方
ドナルド・トランプ大統領が就任した。初日にパリ協定、世界保健機構(WTO)から脱退する大統領令に署名、米国第一主義を貫く姿勢を示している。特に注目されるのは、関税と不法移民対策だ。トランプ大統領は関税を他国に払わせるとの主張を変えていないものの、関税は輸入国の事業者に納税義務があり、最終的には消費者が負担する。米国のインフレのリスクに注目すべきだろう。
■ ほとんどの重要政策が関税絡み
トランプ大統領の1期目、全輸入品に対する米国の関税率は加重平均で1.4%から3.0%へ上昇した(図表1)。中国などを狙い撃ちした関税が背景だ。就任前年の2016年度に348億ドルだった関税税収は、2021年には800億ドルへ急増した。
同大統領は2期目も関税を大胆に活用する姿勢を崩していない。選挙期間中、全輸入品に関して一律に10%、もしくは20%を課税する『基礎的関税』の導入を明言、これは共和党の政策綱領に採用された(図表2)。また、米国からの輸入品に関税を課している国・地域に同率を課税する『トランプ互恵通商法』も、党としての公約になっている。仮に実現した場合、日本のコメ、牛肉、豚肉などが対象となる可能性は否定できない。
大統領選挙の終盤には、メキシコからの輸入自動車に100%、ないし200%の関税を課税する方針を示した。また、選挙後、麻薬性鎮痛剤『フェンタニル』の違法輸入に関し、製造元とされる中国に10%の追加関税、輸入路であるメキシコ、カナダには全輸入品に25%の関税を課税すると語っている。このフェンタニル関連に関する制裁関税は、就任直後の大統領執務室における会見で、2月1日を目処に導入する方向性を示唆した。
さらに、デンマークに対してグリーンランドの譲渡を求め、応じない場合は関税を課すと明言している。これら全てを合わせると、トランプ大統領は6種類の新関税案を提示した。外交・通商面での重要政策のほとんどが関税絡みと言えるだろう。
■ 関税は米国のインフレ圧力
トランプ大統領は、基礎的関税などの導入について、連邦議会の立法ではなく、国際緊急経済権限法(IEEPA)による措置として検討している模様だ。その場合、国家緊急事態を宣言、連邦議会と事前協議を行った上で、大統領令によって課税を開始することになる(図表3)。
大統領就任式を6日後に控えた1月14日、同大統領は、自ら創業したSNS、トゥルースソーシャルへ、「貿易で我が国から金儲けをしている人々に米国は課税を開始し、彼らは終に公平な負担を始める」と投稿した。もっとも、関税は輸入国の輸入事業者が納税義務を負い、最終的には米国の消費者が負担することになろう。つまり、実質的には新たな連邦間接税が導入されることになる。
超党派の元連邦議会議員などによる『責任ある連邦予算委員会』は、10%の税率で基礎的関税が実施された場合、2024年度に814億ドルだった米国の関税税収は、2026年度に3,500億ドルへ増加するとの見通しを示した(図表4)。これが正しいとすれば、2,700億ドルの増税だ。米国の個人消費は年間20兆ドル程度であり、単純計算で消費者物価を1.0~1.3%程度押し上げる可能性が強い。不法入国者への対策が強化されると、米国の人手不足が深刻化、賃上げ率は高止まりするだろう。そうした他の分野も含め、トランプ政権の政策はインフレを加速させると見られる。
新たな関税の導入により物価上昇圧力が強まることから、米国の長期金利が上昇、ドル高・円安要因とされてきた。もっとも、為替の決定に大きく機能するのは、名目金利ではなく実質金利だろう。物価上昇により米国の実質金利が低下した場合、一定期間、ドル安・円高になる可能性がある。
ただし、その場合、FRBは積極的な利上げで物価の沈静化を図るのではないか。日銀が政策金利を引き上げるペースは極めて緩慢と想定され、結局、中長期的な基調はドル高・円安になりそうだ。
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