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- 日本株をポートフォリオに組み入れる理由
世界の主要株式市場で乱高下が続いている。朝令暮改を繰り返すドナルド・トランプ大統領の関税政策により、金融市場は先行きの不透明感を強く意識せざるを得ないからだろう。その関税の影響が経済面で顕在化するのはこれからであり、まだ株価が底を打ったと確信が持てる状況ではない。歴史が証明しているのは、底値を正確に当てることが不可能である以上、こうした極めて不透明な環境下こそ、長期的な観点から時間分散が機能することだ。仮に段階的に投資を進めるとすれば、ファンダメンタルズに照らして、今は米国株よりも日本株の優先順位が高いのではないか。理由は1)バリュエーション、2)トランプ関税の影響度合い、そして3)バリュー・・・の3点だ。バリュエーションの評価に関して、1株利益を株価で割った値である株式益回り(=株価収益率PERの逆数)から10年国債の利回りを引いたイールドスプレッドを見ると、米国市場に比べ、日本株に割安感がある。ただし、バラマキ的な財政政策により、日本の長期金利が上昇するリスクには注意が必要だ。
■ 日本株の割高感はない
TOPIXのイールドスプレッドは、4月10日現在、5.99%になった。過去の平均は5.40%、標準偏差は1.25%ポイントだ。つまり、足下の株価は企業業績と金利の関係から平均的ゾーンに位置している。不透明要因は、米国の関税政策が日本企業の業績に与える影響だ。さらに、「物価対策」、「関税対策」として、バラマキ的な財政政策が実施された場合、長期金利が上昇して評価が変わる可能性がある。
■ 大幅調整も「割安」と言える状況ではない
S&P500のイールドスプレッドは0.73%だ。過去20年間の平均は3.03%、標準偏差は1.11%ポイントであり、2023年8月2日以降は平均から下方に2標準偏差以上乖離した状態になっていた。このところの株価の急落を受け、一時は乖離が2標準偏差の範囲内には収まったのだが、長期金利の上昇により再びその枠をはみ出した。利益水準の高い成長を織り込んだ水準と言えるだろう。
■ バリュエーションは平均的なゾーン近辺
NASDAQ市場の場合、足下のイールドスプレッドは▲0.20%だ。平均は1.38%、標準偏差は1.31%ポイントだった。2023年8月から平均を2標準偏差程度下回っていたものの、10日の時点では2標準偏差の範囲内へは戻っている。ただし、統計的に標準的なゾーンである平均±1標準偏差のゾーンに止まることはできていない。「割高」とまでは言えないが、利益成長と金利の安定を前提とした水準だ。
■ イールドスプレッドは利益成長と逆相関
株式益回りは株価収益率(PER)の逆数であり、成長株は低くなる傾向(PERは高くなる傾向)がある。従って、利益成長とイールドスプレッドも逆相関の関係が成り立つと考えて矛盾はない。つまり、各指数のイールドスプレッドは、指数間の相違を評価するよりも、個々の指数のトレンドに対する位置を評価の対象にすべきだろう。その前提に立てば、米国の2指数よりも、TOPIXの調整がより進んだと考えられる。
■ 世界の市場の位置関係は論理的に形成されている
世界の主要株式市場では、企業価値(≒株価純資産倍率:PBR)と株主資本利益率(ROE)の間に強い正の相関関係が見られる。日本株のPBRが低水準なのは、割安感を示すわけではなく、低ROEが要因だ。しかし、株式持ち合いや政策投資の縮減が進むなか、内外企業による戦略的買収提案が見られるようになった。上場企業の経営者は、資本リターンの向上を急がざるを得ないだろう。
■ 日本株をポートフォリオに組み入れる理由:まとめ
歴史が証明しているのは、米国の上場企業の環境への順応速度の速さ、そして大胆な新陳代謝に他ならない。1990年代初頭の資産バブル崩壊期や、2008~12年のリーマンショック期に直面した際、予想以上のスピードで危機を乗り切った米国株式市場は力強い上昇に転じ、高値を更新してきた。ただし、現段階において、朝令暮改を繰り返すトランプ政権は、マーケットにとり明らかな不確実性の要因だ。その政策に対する警戒感を解くことは難しい。また、関税を武器とした通商政策により、最も痛手を被るのが米国経済・企業である可能性は否定できない。従って、多角的な観点から考えた場合、米国偏重のポートフォリオを修正し、時間分散による投資対象に日本株を加える必要があるのではないか。特にアリマンタションクシュタールによるセブンアイホールディングスの買収提案だけでなく、富士ソフト買収を巡るベインキャピタルとKKRの競合、牧野フライス製作所へのニデックによる敵対的TOBなど、従来は稀なケースであった上場企業の戦略的買収が起こりつつある。これは、長期的に考えた場合、上場企業の経営に変革を促し、結果として企業価値が向上する大きな原動力になるのではないか。
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