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- 当面「円高」、長期「円安」のシナリオ
ドナルド・トランプ大統領は、4月2日、全輸入品への『基礎的関税』10%、特定国に対しての『相互関税』を発表した。日本の関税率は加重平均で3.7%だが、非関税障壁を含めて対米関税率は46%と算定され、4月9日より24%の相互関税が課される方向だ。この決定を受け、世界のマーケットが動揺しているが、最も大きな打撃を被るのは米国の国民だろう。関税は輸入国の輸入事業者が納税義務を負い、価格転嫁を通じて消費者物価を押し上げることが想定される。また、対象国が報復措置を講じれば、米国の輸出産業への影響も避けられない。結果として、米国経済が今年後半にもスタグフレーションに陥る確率が高まった。物価上昇は、米国の実質金利を引き下げることで、ドル安要因になるだろう。ドルの下落は米国のインフレをさらに加速させることになるのではないか。2025年末から2026年前半に掛け、FRBが利上げを検討することも想定される。また、日本の公的債務は深刻な問題であり、長期的な円安のシナリオが崩れたわけではない。
■ ドルが米国長期金利と連動しているのは2021年以降のみ
FRBによる政策金利のコントロールを先取りする長期金利は、物価と金融政策への市場の見方を反映する鏡だ。利上げ観測の下、長期金利が上昇すればドルが買われ、利下げ観測が強い時には売られる・・・この4年間はそうしたメカニズムが機能してきた。ただし、2020年以前に関しては、ドル相場と長期金利の間に明確な関係は見られない。今後、長期金利とドルは再び連動性が薄れる可能性がある。
■ 為替は基本的に実質短期金利差に連動
過去30年間、円/ドルレートを支配してきたのは日米の実質短期金利差だった。細かな違いはあるものの、中期的なトレンドは概ね一致しており、それは円とドルの関係が極めて合理的に決まっていることを示している。2022年以降のドル高・円安は、FRBがインフレ抑制のため急速且つ大幅な利上げを行う一方、物価上昇圧力が強まるなか、日銀の出口戦略のペースが緩慢だったことが要因と言えるだろう。
■ トランプ大統領の関税政策で米国の期待インフレ率は上昇
トランプ大統領による過激な関税政策により、市場が織り込む米国の期待インフレ率は上昇している。2年国債とインフレ連動債の利回りから算出した期待インフレ率は、足下、3%を大きく超えた。一方、日本の期待インフレ率は2%前後で足踏み状態だ。インフレ圧力と景気後退懸念の板挟みで、当面、FRBは政策金利を据え置くのではないか。期待インフレ率の日米ギャップは、円高・ドル安要因と考えられる。
■ 関税は米国の消費者が負担へ
第2次政権発足以降、トランプ大統領は次々と関税政策を打ち出した。19世紀後半、米国の税収の50%程度が関税税収であり、一連の強硬策は所得税率の大幅な引き下げを意図している模様だ。ただし、輸入国の輸入事業者が納税義務者である関税は、最終的に米国で売られる製品に転嫁される。実質的な担税者は米国の消費者であり、物価は上昇せざるを得ないだろう。それは、ドル安要因だ。
■ 日本の政府純債務はG7で経済規模に対し最も大きい
日本経済における構造的な問題の一つは、政府債務残高ではないか。金利が上昇する場合、新たに発行される国債の表面利率が上昇し、利払い費の拡大が財政をさらに圧迫する可能性は否定できない。少子高齢化で税、社会保障の国民負担の担い手が減少傾向にあるなか、巨額の財政赤字が続く場合、それは円の信認に関わる問題になるだろう。長期的には円安傾向が続くと想定される。
■ 当面「円高」、長期「円安」のシナリオ:まとめ
18世紀後半の米国では、関税が税収の50%程度を占めていた。現在は所得税収が50%弱に達している。トランプ大統領は、所得税の依存度を下げ、その分を関税で補うことを目指している模様だ。ただし、それは極めてインフレ的な政策である。米国の実質金利が低下し、ドル安が進むことで、さらに物価に上昇圧力が生じることは想像に難くない。また、労働市場が逼迫しているため、重い関税に直面しても、米国への生産シフト加速は難しいだろう。工場を建設し、そこで働く労働者がおらず、無理に確保しようとすれば労働コストが大幅に上がりかねないからだ。日銀が利上げを急ぐことは考え難いものの、当面、為替市場は米国の実質金利低下に焦点を当てるのではないか。もっとも、長期的に考えると、日本の構造問題は円安要因と言える。さらに、巨大に膨れ上がった日銀のバランスシートを正常化するにも長い時間が必要だろう。結局、マネタリーベースの過剰供給状態が続き、長期的には円安傾向となるものと想定される。ドル安がドル高に反転するとすれば、それはFRBによる金融政策が鍵となりそうだ。
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