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- トランプ関税の読み方 part II
ドナルド・トランプ大統領の就任から3週間が経とうとしている。グリーンランドの買収やガザ地区の領有に言及するなど、領土拡大への強い意欲は、現代の西側のリーダーとしては異例だ。一方、看板の関税政策は、輸入品へ一律に課税する基礎的関税よりも、対象国、対象品を絞る手法を優先する姿勢を示しつつある。つまり、これまでのところ、関税は交渉の手段と言えるのではないか。
■ 巨額の貿易赤字がもたらすメリット
トランプ大統領は、米国の貿易収支の赤字を強く問題視してきた。そこで、米国の純輸出対GDP比率を見ると、1990年以降で最もマイナスが大きかったのは2022年の▲4.7%だ(図表1)。この年、米国の実質成長率は2.5%であり、巡航速度と言われる2%を上回っている。個人消費の寄与度が2.5%ポインに達し、米国経済全体を牽引した。この強過ぎる個人消費こそが、輸入超過額が拡大した最大の理由と言えよう。
また、2023年までの10年間、米国の経常収支は5兆8,106億ドルの赤字だった(図表2)。一方、金融収支を見ると、5兆2,721億ドルの流入超過である。米国は、稼ぐ以上に消費して豊かな暮らしを享受し、その資金を基軸通貨ドルによる国外からの借金で賄っているわけだ。
米国が世界から莫大な量の輸入を継続するからこそ、決済手段としてドルは基軸通貨になったのである。つまり、米国の貿易赤字は、豊かな暮らしを享受しつつ、世界経済に大きな影響力、発言力を持つ力を反映していると言えるだろう。
■ 基礎的関税から個別関税へシフト
2月3日、トランプ大統領は、メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領、カナダのジャスティン・トルドー首相と電話で個別に会談、翌日に予定されていた両国に対する25%の関税課税を30日間延期した。両国が米国における麻薬性鎮痛剤『フェンタニル』の違法輸入、不法入国者問題へ対策を講じると約束したことが理由とされた。
もっとも、別の背景もあるのではないか。昨年1-11月、米国はメキシコから4,666億ドルを輸入した一方で、3,094億ドルを輸出している(図表3)。対カナダも輸入額3,772億ドルに対し、輸出額は3,224億ドルに達していた。両国が米国からの輸入品に報復関税を課した場合、米国の産業が被るデメリットも甚大になると想定される。
また、トランプ大統領は、1月27日、マイアミで行われた共和党下院議員の集会で演説、半導体、医薬品、鉄鋼、アルミニウム、銅、そして米国の国防に必要な物品に新たな関税を課す方針を示した。その直後、共和党のマイク・ジョンソン下院議長は、「国全体や業界全体に一律の関税が課されることはないと考えている」と語っている。
こうしたトランプ大統領を含む政権中枢の発言は、米国が全輸入品に一律の基礎的関税よりも、特定の国、特定の産業・製品へ関税を課す方向へ傾いたことを示すだろう。基礎的関税は物価の押し上げ圧力であると共に、実質的な間接税として大衆課税になる可能性が強い。また、全輸入品に一律の課税となれば、トランプ大統領が得意とする2国間の”deal(取引)”には使えないだろう。
2016年の大統領選挙で、同大統領は中国と共に日本への批判を繰り返した。貿易収支の不均衡に加え、防衛費、在日米軍駐留経費の負担が対象だったと言える。しかし、今回の大統領選挙期間、選挙後、そして就任後、同大統領は日本について殆ど言及していない。今のところ、対日個別関税も用意してはいないようだ。
そうしたなか、米国東部標準時7日には石破茂首相とトランプ大統領による初の首脳会談が行われる。税制上の措置でペーパーカンパニーの多いオランダを除けば、日本は最大の対米直接投資残高を有している。そうした点を上手くアピールし、半導体、鉄鋼など個別品目への関税を回避できるか、石破首相の外交手腕が問われるところだ。
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