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- 新興国市場モニター:新興国の小売の落ち込みに注意
新興国の小売売上高は、この半年伸びが鈍化しています。これは注意すべきでしょうか?
新興国の小売売上高指数の伸び率は、過去6ヵ月で、6%から4%に落ち込んでいます(図表1をご参照下さい)。
図表1:過去6ヵ月、新興国の小売売上高が急減:新興国と先進国の小売売上高
(赤線:新興国、赤破線:新興国2000年以降の平均、青線:先進国、青破線:先進国2000年以降の平均、販売量、%、前年比、3ヵ月移動平均)
※期間:先進国:2011年~2018年11月、新興国:2011年~2018年12月
出所:ピクテ・グループ
この小売売上高の急速な伸び悩みの背景には何があるのかを分析します。
中国、トルコ、アルゼンチンが指数を下押し
小売売上高指数の主要項目である自動車販売台数の2018年11月の伸び率は、前年同月比-5.4%と10年ぶりに最低記録を更新しました(図表2をご参照下さい)。
図表2:新興国の自動車販売:トンネルの先に明かりは見えるか
(青線:新興国、赤線:新興国(除く中国)、赤破線:新興国(除く中国、アルゼンチン、トルコ)、販売台数、%、前年比、3ヵ月移動平均)
※期間:2011年~2018年12月31日
出所:ピクテ・グループ
もっとも、中国、トルコ、アルゼンチンを除いた新興国の自動車販売は同+9.7%と極めて好調で、3ヵ国の売上不振の影響がいかに大きかったかを示唆しています。
3ヵ国(中国、トルコ、アルゼンチン)の影響をさほど懸念する必要がないと考える理由
中国では、個人所得税減税に加え、付加価値税の税率が(製造業は16%から13%に、一部サービス業は10%から9%に)引き下げられています1。その他の景気刺激策と合わせて、消費を支えています。また、中国の2019年1月の、自動車販売を除く小売売上高は前年同月比+10.4%と反発しています2。
アルゼンチンおよびトルコでは、自動車販売がほぼマイナス50%と激減しましたが、これは両国政府がインフレ制御に失敗し、大幅な利上げを行ったためです。ほぼ両国に限られた状況であり、新興国全体に波及するリスクは極めて低いと考えます。
実際のところ、自動車販売は既に改善基調を示しており、3ヵ国を除いた小売売上高指数の2018年12月の伸び率は+11%となっています。
3ヵ国を除いた新興国の内需の先行き
個人消費との密接な相関を示す労働市場の動向には、新興国全般について、明るい兆しが散見されます。図表3Aの通り、新興国の失業率は低位に留まります。
新興国の労働市場の強さと、インフレ率が低下する状況での実質賃金の上昇
図表3A:新興国の個人消費と失業率
(緑線:新興国の個人消費、左軸、%、前年比、緑破線:新興国の個人消費の2000年からの平均、左軸、%、前年比、灰色:新興国の失業率、右軸(逆軸)、変化幅(パーセントポイント))
※期間:個人消費は1992年~2018年8月、失業率は1992年~2018年12月
出所:ピクテ・グループ
唯一懸念されるのが実質賃金の伸びで、2012年6月の6.8%から2018年11月には3.3%に落ち込んでいることです(図表3Bをご参照下さい)。
図表3B:新興国の個人消費と実質賃金
(緑線:新興国の個人消費、左軸、%、前年比、緑破線:新興国の個人消費の2000年からの平均、左軸、%、前年比、灰色:新興国の実質賃金、右軸、%、前年比)
※期間:個人消費は1992年~2018年8月、実質賃金は1992年~2018年11月
出所:ピクテ・グループ
通貨安に起因するインフレの高止まりが賃金を圧迫していましたが、インフレのトレンドは反転し始めており、実質賃金の伸び悩みが一時的なショックに過ぎず、再び上昇に転じる可能性があることを示唆しています。そうなれば、家計の支出も改善するはずです。
ピクテの自社開発モデルで用いる消費関数(個人消費見通し)もこのような見方を支持するものとなっており、新興国の個人消費の中期的な改善を予測しています(図表4をご参照下さい)。
図表4:新興国の個人消費の見通し
(緑線:新興国の個人消費、灰色:新興国の個人消費の中期的見通し、%、前年比)
※中期的な指標は、消費者信頼感指数、失業率、実質賃金より算出、個人消費:1990年~2018年8月、個人消費見通し:1990年~2020年12月)
出所:ピクテ・グループ
結論として、
小売売上高は一時的に低迷していても、新興国経済の回復力には、これまで通り確信が持てると見られます。自動車販売の落ち込みに起因する小売売上高の不振は、ほぼ3ヵ国(トルコ、アルゼンチン、とりわけ中国)に限られた現象です。トルコとアルゼンチンの苦境が新興国全体に波及するシステミック・リスクとなる可能性は低く、米中の貿易交渉の成果が得られる可能性を勘案すると、中国のハードランディング(経済の急激な失速)も予想されないと見られます。2018年12月以降、確認されている新興国の個人消費の改善基調は、今後も続くと考えます。
1. 出所:2019年3月5日 2019 Government Report
2. 出所:2019年3月 ピクテ・アセットマネジメント
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