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- 中国の的を絞った景気対策が、新型コロナウイルスによる経済への打撃を和らげる
シンガポールの有力紙、ストレーツ・タイムズに掲載されたパトリック・ツヴァイフェル(ピクテ・アセット・マネジメント、チーフ・エコノミスト)、スティーブ・ドンゼ(同、シニア・マクロストラテジスト)両氏の署名入り記事(以下に翻訳文を掲載)は、中国政府の新型コロナウイルスとの闘いがどのように展開していくかを予測する手掛かりになるでしょう。中国は、国内経済への下押し圧力を緩和するために総花的な景気対策を打つのではなく、金融政策と財政政策を併用する的を絞った手段を選ぶことが予想され、その結果、V字型の急回復が見込まれる、と二人は解説しています。
中国の景気対策はどのように展開するか?
中国政府は、新型コロナウイルスに因る国内経済への下押し圧力を緩和するために多数の手段を持ちながら、これを温存し、最も脆弱な企業に資金が供給されるような施策を講じる、灌漑に例えるなら、「越流灌漑」ではなく「精密灌漑」を行う、と考えます。
世界2位の規模を誇る中国経済は、新型コロナウイルス対応に必要な費用の見積もりに着手することさえ出来ない状況です。春節(旧正月)休暇延長後もオフィスや工場が閉鎖され、従業員の職場復帰がままならないからです。また、移動の規制や自宅待機の措置が講じられたまま、未だに厳重封鎖の状況にある都市も散見されます。
従って、新型コロナウイルスの発生が中国経済に甚大な影響を及ぼす状況を想定するのは妥当だと考えます。交通・運輸、小売、ならびに旅行・娯楽業界は、中国のGDP(国内総生産)の18%を占め、新型コロナウイルス発生の最も大きな打撃を受けることが予想されます。
その結果、中国の1~3月期のGDP成長率は-0.2%と、1976年以降初のマイナス成長が見込まれます。経済の低迷がその後数ヵ月間続く可能性はありますが、それ以上の期間に及んで長引く公算は低く、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の場合と同様、経済の急激な落ち込みの後には急速な回復が見込まれます。
急速な回復を予想する根拠に挙げられるのは、中国政府が金融政策と財政政策を併用する公算が高いということです。
実際に、2月月初以降、銀行システムには、既に、ネットベースで1兆元の資金が供給され、2018年後半以降の極めて大胆な金融緩和策の一環として、リバース・レポ金利の引き下げが行われています。
もっとも、中国人民銀行(中央銀行)には、追加緩和の余地が残されています。ここ数か月間は、過去2年間のどの時点よりも引き締め気味の政策が講じられてきたからです。例えば、中銀預金準備率の200ベーシスポイント(2%)の引き下げは、GDPの3%に相当する4,600億米ドルの資金供給と同様の効果があると考えられます。中国人民銀行は、新型コロナウイルスの打撃を受けた企業を支援するため、現行の変動金利ローンの金利設定のための新しい指標として導入された最優遇貸出金利(ローン・プライム・レート)の引き下げも行うものと思われます。
しかしながら、中国人民銀行の易綱総裁が、「越流灌漑」型の景気支援は行わない旨を説明しようと腐心していることから、政府の支援策は慎重かつ的を絞ったものとなることが予想されます。
足元では、1年物および5年物の指標金利(最優遇貸出金利)が、それぞれ、10ベーシスポイント(0.1%)および5ベーシスポイント(0.05%)引き下げられた他、中期ローン金利の引き下げも行われています。
中国政府は財政支援策も講じる公算が高いと考えます。新型コロナウイルスの発生前から財政拡張策を講じていたからです。米中の貿易摩擦の悪化を受け、中国の2019年のGDP成長率は6.1%と30年ぶりの低水準に沈んでいます。
中国政府は2019年に限って見ても、個人所得税減税や製造、建設、交通・運輸の各セクターを対象とした増値税の税率引き下げに加え、GDPの1.6%に相当する包括的な法人税減税を行っています。
追加減税も予想されますが、中国政府は、慎重な対応を迫られています。年間の財政赤字が既にGDPの5%にまで膨らんでおり、対GDP比の財政赤字のこれ以上の拡大は避けたいと考えているからです。
特定企業を対象とした税控除あるいは期間限定の増値税の税率引き下げ等を通じ、年内は、従来以上に的を絞った支援策が講じられると考える根拠はこのような状況にあるのです。
上海市や広東省等の地方政府が足元講じた施策の幾つかも、今後の展開の手掛かりとなりそうです。最も脆弱な中小企業を対象とする支援策には、オフィス賃貸料の引き下げ、各種管理費用の免除、納税申告の期限延期、新規の企業融資に係る支払利子の補填、社会保険料の還付等が含まれます。
こうした各種の施策の効果が相俟って、中国の2020年のGDP成長率は、従来予想を僅か0.3%下回る前年比5.6%に達することが予想されます。また、更に重要なことは、(5.6%成長が実現されれば、)2020年までの10年間でGDPと(国民一人当たりの)所得を倍増するとの中国共産党の目標が実現できるということです。
中国政府は、所得倍増計画を断固実現するとの決意をもって、金融政策ならびに財政政策を総動員する覚悟だと思われます。ただし、国内経済全域への資金供給は予想されにくいことには注意が必要です。
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