- Article Title
- 新興国金融市場の自由化
一国の経済発展を左右する主な要因の1つとして挙げられるのが、金融セクターの自由化を成功裏に導く能力です。自由化への円滑な移行を実現する万能薬のような解決法はありませんが、移行の過程に必須の要件と、順序だてて踏むべき段階があることは明らかです。
このことを掘り下げて調べる前に考えておくべきことは、金融の自由化が、何故、新興国の持続的な成長に必要なのかということです。国は、任意の時点で、国内に一定の金融資本を有しており、こうした資本(或いはマネー)を、個人、企業および政府が保有する広義のマネーサプライ(現金及び預金)と定義することが出来ます。経済成長を実現し、金融システム内の富を増やすためには、「こうした資本の価値の総額」が増加する必要があります。
閉鎖された(或いは自由化されていない)金融システム(図表1)においては、主に、政府が銀行を保有し、従って、民間企業および公共企業の資金調達に充てられるシステム内の余剰資本を保有しています。もっとも、こうした状況は、政府がシステム内の資本の源泉を保有すると同時に管理していることから、資本の配分の観点で障害を引き起こします。また、政府に、収益の水準よりも経済の安定性を重視しようとする誘因があることから、資本の提供が、債務不履行(デフォルト)リスクが最も低い個人や企業に偏る傾向が認められます。
その結果、システム内の資本利益率は低位に抑えられ、高い収益が見込まれる一方でリスクの水準が上昇する可能性のある投資案件に充てられる資金が不足することとなります。このような状況は、個人年金を、国の保証を裏付けとする国債に全額投資するようなものです。国債は安全資産であっても、平均的な投資家に、効率的な水準の収益をもたらさないからです。
図表1:金融システムの自由化前の状況
出所:ピクテ・グループ
図表2の通り、新興国の金融改革および金融の自由化は先進国に出遅れており、投資の好機の可能性を提供しています。
図表2:IMF金融自由化インデックス(地域別)の推移
期間:1973年~1995年
出所:IMF(国際通貨基金)
金融自由化の第一段階
金融自由化の第一段階では、主に、政府が銀行システムの自由化を行います。従って、責任の分離が可能となり、政府が、政策およびシステムの監視を通じて、金融制度全般の安定性の確保に努める一方で、銀行はシステム内の資本利益率の最大化に注力することが可能となります。
銀行セクターの自由化に着手する前に満たされなければならない必須要件には、以下が含まれます。
1. 安定的な経済環境
2. 物価および金利動向の管理に必須の健全な財政政策及び金融政策
3. システムの監視に必要な規制の枠組みの整備
4. 信用査定(借手のリスクの正確な評価)のための水準の設定
更に、公的部門から民間部門への債務の移転、ならびに、かかる移転に起因して生じる可能性のある全ての不良債権の処理計画を策定し、不良債権に関連する過去の判断の責任を民間銀行に負わせないことです。
図表3:金融システムの自由化後の状況
出所:ピクテ・グループ
金融自由化の第二段階
市場の完全自由化の最終段階は、通常、国際市場との間の資金の流出入の開放を伴います。こうした状況は、グローバル規模の資金配分を可能とする一方で、通貨の変動等、資本逃避に伴って生じるリスクをもたらす可能性があります。
投資循環を通じた民間資本の移動の増加に伴って金融市場の厚みが増すに連れ、洗練さを増した金融商品や手法が開発されます。ここに含まれるのは、以下の通りです。
1 証券化(及び証券化商品)
2 未上場のクレジット商品および当該金融商品の発行
環境・社会・ガバナンス(ESG)に対するプラスの影響
金融の自由化は、成長目標の実現の他、環境・社会・ガバナンス(ESG)にもプラスの影響を与えます。金融市場の開放は、従来よりも広い範囲での富の創出の機会をもたらします。住宅ローンや投資のために資金を調達する個人や民間企業が増えるにつれて、所得の増加や生活の質の改善がもたらされ、社会構造における個人の社会的地位の移動を指す社会移動が生まれます。社会移動の増加は、国民の健康状態を改善し、寿命を延ばす等、直接的な効果をもたらします。
図表4:IMF金融自由化インデックス(歳入別)の推移
期間:1973年~1995年
出所:IMF(国際通貨基金)
更に、資本の入手に係る透明性と、投資可能な資産が増すに連れて、企業ガバナンスが向上し、腐敗の程度が低下、改善しています。
政府がシステム内の信用の管理役からシステムの監視役に軸足を移すことによって、ヘルスケア、教育、ソーシャル・ファンディング等の戦略的意思決定に、従来以上に集中できる態勢が整えられるという恩恵ももたらされます。
金融自由化の追い風と向かい風
※当資料はピクテ・グループの海外拠点が作成したレポートをピクテ投信投資顧問が翻訳・編集したものです。
個別の銘柄・企業については、あくまでも参考であり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・グループの海外拠点からの情報提供に基づき、ピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集し、作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。
手数料およびリスクについてはこちら
MSCI指数は、MSCIが開発した指数です。同指数に対する著作権、知的所有権その他一切の権利はMSCIに帰属します。またMSCIは、同指数の内容を変更する権利および公表を停止する権利を有しています。