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- 高品質の再生プラスチックを世界のサプライチェーンに取り込む
Andrew Almac(アンドリュー・アルマック)がインドで設立したPlastics for Change(プラスチックス・フォー・チェンジ)は、ゴミを集めて生計を立てる人と世界的なブランド企業をつなぎ、プラスチック廃棄物の山を減らすと同時に、貧困層を支援しています。
「廃棄物が高品質のプラスチック製品ならば、適切な技術を使い、処理施設を整備することで、リサイクルが出来るはずです。」
アルマック氏は、利益を確保すると同時に、貧困や深刻な環境問題を緩和することが出来ると確信して起業しました。「私達が入りつつある資本主義の新しい局面では、世界で最も困難な課題が世界最大のビジネス・チャンスになり得ると考えた」からです。
アルマック氏が指摘する課題とは、南米、アフリカ、インド亜大陸、東南アジアの各地で急拡大する、都市に積み上がったプラスチック廃棄物の山のことであり、どの都市にも廃棄物処理に必要な施設や資金が不足していたということです。加えて、こうした都市には、気候変動に起因する洪水の被害を逃れる等の理由で、貧困に苦しむ周辺の農村地域からの流入者が急増していました。
資格を持たず、職業訓練も受けたことがないまま都市に流入した貧困層の多くは、まず、プラスチック廃棄物を拾うことで生計を立てています。出来る限りのプラスチックを集めて、廃棄物処理会社から需給動向によって大きく変動する、わずかな報酬を得るのです。カナダ出身のアルマック氏は、ケベック州のビショップ大学で海洋廃棄物のリサイクル事業の採算性を評価していた時に、「リサイクル事業の仕組みは、根本的に、新興国の貧困を前提として築かれている 」ことを認識しました。同氏は、「公平で効率的なリサイクル事業」の構築を決意し、インドを拠点に活動しています。
アルマック氏は、2012年、インドのベンガルール(バンガロール)で、非営利団体「プラスチックス・フォー・チェンジ」を立ち上げ1、その後、2015年に営利企業として再出発しました。また、2019年には、リサイクル業界で世界初のフェアトレード認証を受けています。同社は、プラスチック廃棄物の回収と流通を円滑に進められるよう、回収業者がスマホのアプリで売買取引を完結させるシステムを開発しました。取引の完了後は、プラスチックス・フォー・チェンジ社がプラスチック廃棄物を回収して同社の集積センターに運び、ブランド企業に一貫した品質が保証出来るよう、徹底的な分別を行います。プラスチックス・フォー・チェンジ社は、多国籍企業に高品質のプラスチック廃棄物を販売するために、完璧な分別および品質管理の工程を整備し、廃棄物収集者には公正な給与を保証しています。
プラスチックス・フォー・チェンジ社の主な収益源は以下の3つです。1つは、回収したプラスチックを再生プラスチックの原材料として消費者ブランドに販売する事業で、収益全体の70%程度を占めています。アルマック氏は、「第三者機関が検証した『責任あるサプライチェーン』のために、高品質の再生プラスチックを安定的に供給出来るよう、プラスチック廃棄物を回収しています」と述べています。2つ目の収益源は、再生プラスチックを使った再販用の完成品を、ブランド企業に直接販売する商品部門です。3つ目の収益源は、極めて革新的な事業で、カーボン・クレジット(炭素排出権)と同様の「プラスチック・クレジット」の売買によるものです。企業は、プラスチック・クレジットを購入することで、プラスチックの使用量を相殺することができ、また、リサイクルしにくい素材を再利用することで循環経済を支援します。
プラスチックス・フォー・チェンジ社の事業概念は、社会をよくするための活動から利益をあげること、また、そのために、同社の巨大な廃棄物回収センターを活用することです。プラスチック回収センターを新設する際の場所選びは、社会地理的ニーズ調査から始めます。「こうした調査は、地域社会でどのような開発が求められているのか、全体的なアプローチを理解するのに役立ちます。」アルマック氏は、さらにこう続けます。「まず第一に、貧困を解決しようとすることです。もしも誰かの銀行口座に毎月定期的に報酬を振込むことが出来れば、貧困を緩和する素晴らしい手段になり得えます」。プラスチックス・フォー・チェンジ社は、廃棄物回収者が住んでいる地域社会についても調査を行って、託児所や保育施設を設置し、医療へのアクセスを確保しています。
プラスチックス・フォー・チェンジ社と他社との極めて重要な差別化要因は、同社が持続可能性を重視していることです。(循環経済の推進を目的に2010年に設立された)エレン・マッカーサー財団は、プラスチック包装資材のうち再生プラスチックを使用しているのは僅か2%程度に過ぎない、という驚くべきデータを公表していますが、アルマック氏はこうした状況を積極的に改善しようとしているのです。同氏によれば、「ブランド企業が化石燃料由来のプラスチックの利用から再利用に移行するための鍵は、プラスチック廃棄物の品質を維持し、適切な分別工程を構築することです。廃棄物が高品質のプラスチック製品ならば、適切な技術を使い、処理施設を整備することで、リサイクルが出来るはずです。」
再生プラスチックに対する需要が強まっているのは、消費者が最も困難だと考えている課題を反映しているからです。プラスチックス・フォー・チェンジ社は、プラスチック廃棄物回収者の生活を確保することから始めるべきだと考えます。「価値の創出過程の各段階が利益を生み出し、リサイクル経済が実際に機能するように、サプライチェーン(供給網)を設計する必要があるのです」。同社は、このことに留意しつつ、東南アジアでの事業拡大を計画しており、フィリピンを皮切りに社会をよくするための活動を続けたいと考えています。
「消費者は、リサイクルを通じて社会的インパクトを生み出すブランド企業を選択することで、自分の意思を表明しているのです。プラスチック廃棄物が社会や環境にもたらす課題を解決することは、大きなビジネス・チャンスになると考えます。」
プラスチックス・フォー・チェンジ社について
2012年:プラスチックス・フォー・チェンジ設立
2018年:経済誌「フォーブス」主催のプロジェクト、「将来有望な30歳未満の30人」がアルマック氏を選出
2019年:プラスチックス・フォー・チェンジ社が、世界フェアトレード連盟*から認証を受ける。
*開発途上国の立場の弱い人々の自立と生活環境の改善を目指す世界中のフェアトレード組織が1989年に結成した国際的なネットワーク
1 https://www.plasticsforchange.org; https://www.recycling-magazine.com/2021/03/25/plastics-for-change-is-now-ocean-bound-plastic-certified-collector/
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