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- 人工知能(AI)とクォンツ運用 - 美しい友情の始まりか?-
生成AIとChatGPTには想像力がかきたてられますが、資産運用会社も動向を注視しています。
機械学習(ML)が、銘柄選択のより優れた手段としてもてはやされていますが、機械学習と人工知能(AI)をポートフォリオ構築に活用することのメリットは、幾つかの異なる形で表れてくると思われます。機械学習とAIの活用は、クォンツ運用の長期的な進化のプロセスにおいて、最も新しい局面であると言えます。
🔷本稿の要点
資産運用会社は、なぜ、AIを活用すべきか?
AIは、様々なデータソースからシグナルやパターンを抽出するために使うことが可能であり、従来よりも精度の高い投資の予測を可能にします。また、その応用範囲は銘柄選択に留まらず、リスク管理、取引コストの削減、ポジションの最適化等にも及びます。
AIの利用に伴って生じる課題をどう克服するか?
投資家がAIをブラックボックスとして受け入れるとの前提は、もはや成立しません。ピクテが、これまで超過収益の綿密な分析を通じて行ってきた、銘柄特性、ポジション、リスク、パフォーマンス等を分解する必要があるからです。
AIは何を必要とするか?
AIの利用に伴って生じる課題の克服には、機械学習やAIの堅固な基盤(プラットフォーム)が不可欠です。また、プラットフォームは、再現性、バージョン管理、拡張性、コンプライアンス等を担保するための特殊なツールを備えていなければなりません。
ポートフォリオ構築におけるAIの応用例
世界経済のデジタル化によって、利用出来るデータは爆発的に増加しています。データには、企業が公表する財務データ等の体系的なデータと、テキスト、ビデオファイル、画像等の非体系的なデータが含まれます。大規模モデルを用いて、2種類のデータをどのように統合し分析するか、という問題は、クォンツ運用に携わるポートフォリオ・マネージャーにとっての課題である一方で、投資の好機をもたらすものであることが明らかになりつつあります。
1. AIは、様々なデータソースからシグナルやパターンを抽出するために使うことが可能である。
例えば、自然言語処理(NLP)に基づいた機械学習は、ニュース記事、証券会社のアナリスト・レポート、決算説明会の議事録等に含まれる、企業に対するセンチメントの分析に利用することが可能です。株式アナリストとは違い、企業役員との面談を行う機会が少なく、従って、株価を左右し得る軽微なシグナルを見逃すリスクに晒されている、クォンツ運用のポートフォリオ・マネージャーにとっては、特に有効です。
決算説明会の議事録の分析に用いられる自然言語処理技術は、適切に用いれば、公開情報には含まれていない重要な運用関連情報を特定出来ることが少なくありません。
2. AIは、より精度の高い投資予測を可能にする。
AIの進化は、従来型のファクター投資よりも精度の高い個別銘柄予測を可能にします。従来型のファクター投資は、経済理論に基づき、実証研究に裏付けされた投資のシグナル、即ち、リスク・プレミアム、を抽出するよう設計されています。最先端の機械学習を活用した「クォンツ2.0(Quant 2.0)」は、こうしたリスク・プレミアムに留まらない、様々なアノマリーの特定を可能にします。AIを活用したピクテの銘柄選択モデルでは、こうしたプロセスを、ポートフォリオ構築の各段階で行われる従来型のリスク・プレミアム分析とは区別して扱っており、ピクテの手法の重要な「イノベーション」の一つとなっています。アノマリーが、比較的短期間(例えば1ヶ月以内)で特定されることが多いのは、短期投資では、マクロ経済動向や企業ファンダメンタルズよりも、投資家のポジショニングや市場動向が株価に強力な影響を及ぼすからです。多様なデータソースは、投資態度の変更を促す指針を示すことが少なくありません。AIは、何百もの特性を統合し、異なるデータ間の相関関係や相互作用を捉えて、より精度の高いリターン予測を可能にします。
3. AIの応用は、銘柄選択に留まらない
新しい機械学習は、銘柄選択以外にも広く応用することが可能であり、ポートフォリオのリスク管理、取引執行コストの削減、ポートフォリオのポジショニングの最適化等を目的に、複数の投資期間を想定しています。詳細については、「Quantitative Finance」に掲載された、ピクテのクォンツ運用マネージャー、ティボルト・ジェイソン(Thibault Jaisson)の研究レポート(Deep differentiable reinforcement learning and optimal trading.)をご参照下さい。
機械学習を投資に活用する際には透明性が鍵となる
最近発表された研究論文の多くが、機械学習モデルの優れた株価リターン予測能力を証明しています。
一方、AIモデルを投資に組み込むことには、複雑性とリスクが伴います。投資家がAIをブラックボックスとして受け入れるとの前提は、もはや成立しません。銘柄特性、ポジション、リスク、パフォーマンス等を分解し、分析する必要があるからです。ピクテのクォンツ運用チームは、The Journal of Finance and Data Science 誌に掲載された論文(「機械学習を用いた株価リターン予測の要因分析( Performance attribution of machine learning methods for stock returns prediction)」で、透明性の重要性を考察しています。
ピクテが行ってきたリターンの分解分析からは何が得られたか?
一つは、AIモデルによる運用が創出した超過リターンの一部が、「リターン・リバーサル」戦略(リターンの特定のパターンによって、株価が反転するという経験則に基づいた戦略)や「短期モメンタム」戦略(株価が足元の基調を継続するという経験則に基づいた戦略)等から得られるということです。どちらも、伝統的な戦略の一つである統計裁定取引で使われます。
AIモデル運用では、従来型のクォンツ・モデルよりも遥かに多くの特性を効果的に活用することからも、超過収益が得られます。従来型のモデルが、通常、数十個の特性を分析するのに対して、AIモデルは、数百個の特性を処理することが出来る上に、リターンに最も大きなプラスの影響を及ぼす特性に対して、高いウェイトを付与することが可能だからです。
更に、分析の一部を構成する特性間の相互作用効果からも超過リターンが得られます。例えば、アナリスト評価の高い銘柄や空売り残が少ない銘柄は、そうではない銘柄とは異なる動きをします。
AIの導入には、今なお、人間の判断が不可欠である。
信頼性が高く、スピードが速く、正確で、かつ、継続的なモニタリングと長期の応用が可能な機械学習モデルを構築するには、複雑な作業と時間を要します。機械学習モデルは大量のデータに依存することから、ポートフォリオ・マネージャーやアナリストが各自でモニタリングを行うことは容易ではありません。
「一人のポートフォリオ・マネージャーでは足りません。また、機械学習やAIを投資に活用するには、堅固なプラットフォームが必要です。」
ー ステファン・ダウル(Stéphane Daul) シニア・クォンツ・アナリスト
ML/AI モデルについて
・機械学習やAIを使う際には、ポートフォリオ・マネージャーの微調整が必要です。細かな変更がポートフォリオの成果に大きな違いをもたらすことから、継続的な調整の効果は、常に、評価されるべきです。
・また、機械学習やAIは、予測を行う際に現実世界のデータに依存しているため、データに変化があった場合には、モデルも変更する必要があります。ポートフォリオ・マネージャーはデータの変化を常に把握している必要があり、モデルがデータの変化に応じて学習しているかどうかを確認しなければならないということです。
こうした課題を克服するには、機械学習のための堅固なオペレーション・プラットフォームが不可欠です。プラットフォームは、再現性、バージョン管理、拡張性、コンプライアンス等を担保するための特殊なツールを備えていなければなりません。
ポートフォリオ構築に機械学習やAIを組み込むには、エンジニア、データ・サイエンティスト、ファンド・マネージャー間の継続的な共同作業が必要ですが、全ては、超過収益(アルファ)の創出を可能にする透明な意思決定プロセスの構築を目的としたものです。
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