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- エネルギー転換を追跡する
再生可能エネルギーは、投資の機会を提供すると同時に、複雑な課題を浮き彫りにしています。
目次
1:化石燃料に見切りをつける
2:重要鉱物
3:豊富な投資機会とそれに付随するリスク
エネルギー転換に関連するすべての課題を完全に理解するには、スイスの時計職人並みのスキルが必要です。
化石燃料の産出量は2030年までにピークを迎えることが予想されます。その主な理由は電気自動車(EV)の普及です。ガソリン車からEVへの移行は、電力需要の大幅な増加を引き起こします。そして、電力を大量に消費する人工知能(AI)の急成長、新興国の急速な経済発展、世界人口の増加も同様に電力需要を押し上げると思われます。気候変動への懸念から、この電力需要は化石燃料ではなく、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーと、場合によっては原子力発電により、賄われなければならないことを意味します。また、これに伴い、特にバッテリーを中心とした電力貯蔵システムが大幅に拡大し、金属と鉱物の採掘量が大幅に増加することが予想されます。
エネルギー転換に関連するすべての要素の経済的影響を追跡することは、今後5年から10年、そしてそれ以降も、投資家が直面する最も重要な課題の一つになるでしょう。
1:化石燃料に見切りをつける
化石燃料の需要ピークが間近に迫る中、EVはすでに石油の消費量に影響を及ぼし始めています。交通・運輸関連は、世界の石油需要のおよそ45%を占めていますが、その大部分が自動車関連需要です。ガソリン車とディーゼル車をあわせた販売台数が2017年にピークを迎えた一方で、EVの販売は、2020年の約300万台から2023年には約2,000万台に急増しています。こうした傾向は、トラックの電動化の急速な進展を受け、今後も継続することが予想されます。また、世界の鉄道は半数以上がすでに電化されており、その割合はさらに増加しています。
天然ガスの需要も減少傾向にあり、ガスボイラーから、ヒートポンプ1へ置き換えられるケースが増えています。しかし、ネットゼロ2の目標を達成するために化石燃料の使用を十分に削減することが極めて困難なのは、エネルギー消費全体に占める、工業(約38%)、建設(約30%)、交通・運輸(28%)などの割合が圧倒的に高いからです。
多くの産業、特に鉄鋼、化学、ガラス、製紙などは操業に超高温を必要とするため、依然として化石燃料に頼っています。このことが大きな課題であるのは、新興国の経済発展の過程においては、化石燃料を大量に消費する重工業が必要だからです。
また、石炭も工業用途や発電所の主要燃料として使われ続けています。石炭が、電力需要の急増時や太陽光発電、風力発電による電力不足時の代替燃料として使われていることは良い兆候ですが、新興国では依然として主要なエネルギー源であり、こうした状況が中国を除く国や地域では、今後数十年にわたって続くと予想されています。
2:重要鉱物
電化への移行は容赦のない勢いで進行しており、2023年には世界の再生可能エネルギーによる発電は、500ギガワット(GW)を上回ったと試算されています。 1GWは約70万世帯、あるいは約1億個のLED電球の消費電力を賄うことが可能です。現在、再生可能エネルギーは世界の総発電量の40%程度を占めています。これに加えて、電力貯蔵の需要の増加が発電機、モーター、送電系統連携機器、蓄電池等に必要な資源需要を急増させています。
エネルギー分野で使用される重要鉱物の市場規模は、2022年までの5年間で倍増し、3,200億米ドルに達しました。この間、リチウムの需要が3倍に拡大したほか、コバルトとニッケルの需要もそれぞれ70%、40%と急増しています。気候変動目標を達成するには、再生可能エネルギーの設備容量を2030年までに現行の3倍に拡大する必要があると国際エネルギー機関(IEA)は予測しています。これは、重要鉱物に対する需要が3倍以上に拡大することを意味します。
3:豊富な投資機会とそれに付随するリスク
投資家にとって、再生可能エネルギーと電化への移行は、大きな投資の機会をもたらしますが、同時にリスクも伴います。重要鉱物の採掘と生産には大規模な資本投入が必要ですが、レアアース(希土類)、リチウム、プラチナの約90%、コバルトの約80%、ニッケルの約60%がわずか3ヵ国によって産出されており、地理的な偏りが懸念されています。上位産出国は新興国に偏在する傾向が強く、プラチナの約70%が南アフリカ、コバルトの約70%がコンゴ民主共和国、天然黒鉛の約60%が中国で産出されています。供給の非弾力性によって、需要の比較的軽微な変動でも大幅な価格変動につながりやすい状況になっています。
一方、再生可能エネルギーへの移行プロセスには、新興国の発展を加速させる可能性が秘められています。これらの国々は豊富な太陽光に恵まれていることが多く、輸入石油への依存を低減することが可能だと考えられます。ペルーとチリの例に見られるように、鉱物資源需要が増すことで政府の財源が潤うため、貧困撲滅の可能性が生まれます。2003年から2008年にかけての両国の実質賃金は、ペルーが30%、チリが45%と急増し、雇用の伸びにも拍車がかかりました。
再生可能エネルギーへの移行の道のりは険しく、気候変動の目標を達成できないリスクも小さくはありませんが、技術革新が移行の進展を加速させる可能性もあります。スペインの大手電力会社イベルドローラ(Iberdrola)のイグナシオ・サンチェス・ガラン(Ignacio Sánchez Galán)会長は、ピクテ・ウェルス・マネジメントの最高投資責任者(CIO)セザール・ペレス・ルイス(Cesar Perez Ruiz)との対談の中で、電力会社がエネルギー転換の推進を図って導入した、重要な技術革新の幾つかを説明しています。また、ピクテ・アセット・マネジメントのインベストメント・マネージャー、ケイティ・セルフ(Katie Self)は、壮大な解決策を追求する過程において、漸進的な変化を見落とさないことの重要性について言及しています。小さな変化は、積み重なれば、極めて重要な変化となり得ます。二酸化炭素排出量を大幅に削減する航空バイオ燃料の利用は、その一例と言えるかもしれません。
再生可能エネルギーは、資本を投入すべき重要な分野の一つに過ぎません。生物多様性も同様に重要な分野です。気候変動は広範囲の生物を絶滅の危機に晒していますが、その結果、私たちが生きる環境にも大きな変化を引き起こしています。
[1] 低温の場所から高温の場所へ熱を移動させる装置。冷暖房や給湯に利用されることが多い。
[2] 温室効果ガスの排出量と、吸収量や除去量とを差し引きゼロにすること
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