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- 米国「解放の日」のその後
米国「解放の日」による金融市場への影響と今後の投資環境について考察しました。
ピクテでは、3週間前、米国の成長減速への懸念が過剰であると判断し、株式に対して建設的な見方を示しました。しかし、その判断は間違っていました。
当時、マクロ経済見通しがほぼ変わらないという前提で、S&P 500指数が5,350ポイントまで下落した際に再エントリー(株式投資の積み増し)をする機会があると考えていました。言うまでもなく、その機会に乗ることは得策ではありませんでした。
現在では、今の世界経済の回復力だけでは、「解放の日」の相互関税ショックの全ての影響を吸収するには不十分だと考えています。
私たちの予想に対し、下記の2点が大きくマイナスの影響を与えました。
1. 関税の水準が平均20%と、市場の予想10%を大きく上回ったこと
2. 貿易障壁の公平性ではなく、貿易赤字削減に焦点が当てられており、また、米国からの輸入品への現行関税が計算に全く含まれていないこと。そして、貿易相手国から期待される見返りが何であるかについての詳細が見えないこと。
最も可能性の高いシナリオは、さらにエスカレートした後、混乱を伴いながら長期化する緩和プロセスです。これは、経済の仕組みに関する集合的な知恵が有効であり、世界の他の国々がトランプ大統領に譲歩するか、少なくとも彼が勝利を宣言できるだけの譲歩をするという前提に基づいています。
この場合、私たちの従来のベースケースよりも悪い成長・インフレ環境になると予想されます。仮に数ヶ月以内に各国の譲歩等が進み、緊張緩和が実現したとしても、被害は既に発生しています。個人消費と設備投資への影響により、米国の年間成長率は1.5%、年末のインフレ率は3.5%程度になると見込まれます。この場合、過去の米国株式の実質金利、過剰流動性、大型株の割安度との関係から、S&P500の底値は4,800ポイントと予想しています。
同様に、関税が現在の水準で長期化するか、景気減速が進む中で景況感の悪化が深刻化すれば、米国が景気後退に陥る可能性も高いと考えています。つまり、単なるテクニカル的な景気後退ではなく、失業率が急上昇する浅いながらも本格的な景気後退になる可能性があります。この時点で、米国は金融・財政両面で景気対策の余地が乏しい状況にあると考えています。
その一方で、欧州や新興国は対策余地が残されているとみています。このため、今回は米国中心のショックとなり、米国の政策当局が欧州や新興国よりも景気対策の弾薬を持たない異例の事態となります。この場合、米国の年間成長率は0~0.5%、年末のインフレ率は2.5%になると見込まれます。景気後退局面では、S&P500の底値は4,400ポイントと予想しています(この時点では、予想される企業利益の12~15%の減少について、3分の1程度しか織り込まれていないと想定)。
一方、トランプ大統領が撤退するか、あるいは米連邦準備制度理事会(FRB)による株価下支え策が発動される可能性は低いと考えています。FRBは、当初のインフレ上昇が一時的であり、既にディスインフレ傾向が止まっている状況では、先手を打つ可能性は低いと思われます。また、理論上FRBは株価にはあまり関心がなく、信用市場に深刻なストレスが生じた場合にのみ対応すると考えられます。
さらに、FRBは、「ウォール街からメインストリートへ」というストーリーを米政権が強硬に追求するという、最悪のシナリオについては検討していません。政策発表や、ベッセント米財務長官やラトニック商務長官らによる発言などを見る限り、いわゆる洗練されたはずの大計画(相互関税)は、根本的な部分で脆弱であり、矛盾に満ちていると確信しています。現時点では、このシナリオは、空想的な話を語る人々を取り巻く「ハロー効果」によって支えられています。しかし、傲慢さと国内の深刻な分断によってこの計画が試行され、失敗に終わる可能性も否定できません。
このシナリオを無視することはできません。その影響は、通常の景気循環を超えるものとなるでしょう。その中核には、ドイツ連邦銀行(および同行の影響下にある機関)が、ワイマール時代(1919~33年までのドイツ共和国)のハイパーインフレの経験から債券保有者の保護を優先してきたのに対し、米国政権は大恐慌の影響から株主の保護に重きを置いてきたという構図があります。そして今や、その構図が逆転しつつあります。
これは、戦略チームの統一見解ではなく、単なる議論の素材に過ぎません。株式市場はそれだけ難解な様相を呈しています。
なお、米国株式は、モメンタムやテクニカルの観点から完全に売られ過ぎの状態にあるとみており、一時的な反発が期待できると考えています。
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