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- 人工知能(AI)はあなたの仕事を奪うか?
人口知能(AI)が多くの人を失業させるのではないかという懸念が強まっていますが、こうした懸念は行き過ぎだと、オックスフォード大学の学者で、「米国の仕事の約47%は自動化のリスクにさらされている」と予測したことで知られるカール・フレイ(Carl Frey)教授は主張しています。
人工知能(AI)に対する脅威は、ハリウッド映画の脚本家からトラックの運転手に至る、多くの人に共有されています。技術(テクノロジー)の急速な進化に伴って、生成AIが私達の仕事や地域社会との交流、ひいては世界全体に影響を及ぼしていることに対して不安が高まっているからです。機械が出来ない仕事はあるのでしょうか?
私は研究仲間と共に、過去10年間、AIの影響を徹底的に調査・分析してきました。また、10年前にはオックスフォード大学のマイケル・オズボーン(Michael Osborne)教授と共同論文を執筆し、AIや 移動ロボット工学がコンピューターのこなす仕事の範囲を広げたことを踏まえて、米国の仕事のほぼ47%は、理論上、自動化される可能性があると予測しました。
予測の根拠となったのは、当時の技術の進化にかかわらず、3つの重要な分野、即ち、創造性、複雑な社会的相互作用、家庭内等の組織化されていない環境での行動、では人間が優位を保っていたとの確信です。
もっとも、こうした分野においてさえ、大きな進化があったことは認めざるを得ません。GPT-4等の大規模言語モデル(LLM)は、多種多様なプロンプトに対して人間が書いたかのような文章を作成します。生成AIの時代には、機械が心のこもったラブレターを書いてくれるかもしれないのです。
しかし、10年前に私達が特定した、自動化を阻む障壁はいまだに解決されていません。例えば、GPT-4があなたに代わってラブレターを書いたとしたら、対面で会うことの意義が一層増すことになるでしょう。問題の核心は、デジタルな社会関与とアルゴリズムとのかかわりが増すに連れて、機械にはまだ真似の出来ない対面交流の価値が増すということなのです。
AIが、シェークスピアのように表現豊かな手紙を書けるかもしれないのは、学習に使われる既存のシェークスピア作品の表現を引用しているからです。AIは、概して、ゲーム・スコアの最適化やシェークスピアの散文の模倣等、明確なデータや目的によって定義された課題をこなすことに優れています。では、既に確立されたアイディアを繰り返すのではなく、独創的なコンテンツを創る場合には、何を基準とすればよいのでしょう?的確な目標の設定には、人間の創造性が発揮されることが多いように思われます。
更に、2013年の論文でも指摘した通り、多くの仕事は自動化出来ません。生成AIは様々なAIの一形態であり、厳密な意味で自動化ツールとして機能するわけではありません。使用開始時のインプット、その後の調整、事実確認、作成物の編集等に人間の関与を必要とするからです。
また、生成AIが作成するコンテンツの質は、学習データの質を反映したものにしかなりません。「ごみを入れれば、ごみが出てくる」という古い格言は正しいのです。通常、こうしたアルゴリズムは、専門家が慎重に編集したデータセットではなく、インターネット上の様々な記述を網羅することによって得られた膨大なデータセットに依存しています。従ってLLMには極めて優れたコンテンツではなく、ネット上に掲載されたありきたりのコンテンツや、平均的なコンテンツを反映したテキストを作成する傾向があるのです。オズボーン教授と私がエコノミスト誌の記事で主張した通り、原則は単純明快で、「平均的なデータは平均的な結果を生む」ということです。
AIは人間を必要とする
こうしたことは、どのような雇用の未来を予告しているのでしょうか?
最初に挙げられるのは、AIの最も新しい波が、常に、人間の監視を必要とすることです。興味深いことに、専門的なスキルを持っていない人は、AIを使って「平均的な」基準を満たすコンテンツを作成することが出来るため、自分自身が有利な立場にあると感じるかもしれません。
重要な問題は、今後のAIの進化が、近いうちにこうした状況を変え、独創性や社会性の領域においても自動化を可能にするかどうかということですが、よほど画期的な技術革新が生まれない限り、実現は疑わしいように思われます。第一の理由は、LLMが既に消費したデータは、インターネット上の記述がかなりの部分を占めている可能性が高いということです。従って、今後何年かで学習用データを十分に増やすことが出来るかどうかを巡って、懐疑的な見方が出てきています。また、劣悪なAIが生成したコンテンツが拡散されることで、インターネットの全体的な質が悪化し、学習データの材料としての信頼性が失われる可能性があるかもしれません。
2点目はテクノロジー業界が、「ムーアの法則」(集積回路上のトランジスター数が、ほぼ2年毎に倍増するとの経験則)によって予測される、持続的な進化を期待してきたのに対し、これまでの進化のペースは物理的な限界によって2025年頃に頭打ちになるのではないか、との見方が増えていることです。
3点目は、GPT-4の開発に要するエネルギー消費が、エネルギー価格急騰前の試算でさえ1億米ドル前後と、学習コストの大半を占めていたと考えられことです。気候変動を巡る喫緊の課題を勘案すると、このような状況が続くことには厳しい視線が注がれるように思われます。
求められているのは、量よりも質を重視して専門家が編集した、より簡潔なデータセットから学ぶことが出来るAIなのですが、そのように画期的なAIの到来を予測することは困難だと思われます。ですから、私達が踏むべき現実的なステップは、データ効率の高い技術革新(イノベーション)を促す環境を整えることなのです。
歴史的な観点からの考察
20世紀初頭には、当時、台頭しつつあった自動車産業の覇権を巡って、電気自動車と内燃エンジン車が熾烈な競争を繰り広げました。当初は互角の戦いのようにも思われましたが、大規模油田の発見が相次いだことから、間もなく、後者に有利な状況が展開されました。当時、石油税が導入されていたとしたら、電気自動車が優位に立って、二酸化炭素排出量が劇的に削減されていたかもしれません。また同様に、今、データ税が導入されるとしたら、データ消費の観点から、AIの開発プロセスを非常に効率的なものとするための取り組みに拍車がかかるかもしれません。
過去の論文でも議論してきた通り、多くの仕事が自動化される運命にありますが、近年の生成AIの台頭だけがその原因ではないように思われます。画期的なイノベーションが生まれなければ、2013年の論文で浮き彫りになった課題は解決されず、自動化の範囲は今後何年も限定されることになるでしょう。
投資のためのインサイト
ピクテ・アセット・マネジメント、テーマ株式運用チーム、シニア・クライアント・ポートフォリオ・マネージャー、アンジャリ・バスティアンピライ(Anjali Bastianpillai)によると
ブルームバーク・インテリジェンスによれば、生成AI市場は、2022年の400億米ドルから、今後10年で1.3兆米ドル規模に拡大することが予想されます。
マッキンゼーは、16の業務機能に関連する63件の生成AIの使用例を特定し、年間、2.6兆米ドルから4.4兆米ドルの経済効果を生む可能性があると試算しています。
新世代型AIシステムのそれぞれが、演算処理能力の劇的な拡大を必要としています。最新型AIシステムの一つであるグーグルの大規模言語モデル(PaLM2)は、3,400億個のパラメーター(入力データが望ましい結果に変換されるよう、学習中に調整される変数)を搭載し、2.7兆個のデータポイントから成る学習用データセットを使用しています。また、必要とされる演算処理能力は73.4億ペタ・フロップです(petaFLOP、 Petaは1,000兆、FLOPSは、1秒間に処理可能な浮動小数点演算の回数を表す単位)。一方、「データに見る私達の世界(Our World in Data)」によれば、2019年当時のOpenAI5(人工知能の研究・開発を行う非営利団体のOpenAIが開発したビデオゲーム用のAIシステム)は、搭載したパラメーターが1億5,900万個、使用したデータポイントが4,540億個に留まり、演算処理能力は6,700万ペタ・フロップでした。
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