- Article Title
- ヘッジファンド:アルファの追求
不透明な金融政策の局面が終わろうとしており、世界の金利の道筋は明確さを増しています。アルファ(超過収益)を追求するヘッジファンドには、特に朗報です。
ヘッジファンドにとって、足元の金利環境は何を意味するか?
世界経済は、金利サイクルの新しい局面に入ろうとしています。積極的な利上げの局面は終わりを迎え、世界の主要中央銀行の殆どが金融緩和に乗り出そうとしています。
金利の先行きが、より明確になるにつれて資産クラス間のリターンにはばらつきが現れ始めています。こうした環境は、投資家が活用出来るレラティブ・バリュー(相対価値)戦略の機会を増やします。
また、金利は低下し始めているとはいえ、グローバル金融危機後のゼロ金利やマイナス金利の局面より、確実に高い水準に留まる公算が大きいと思われます。こうした環境は企業間の格差を広げることにつながり、結果として、企業のファンダメンタルズ(基礎的条件)に基づく株式選択の機会が増えます。注目されるのは、過去の4%以上の高金利局面の特徴として、ヘッジファンドの高いリターンとアルファの創出があげられることです1。
金利が頭打ちとなれば、企業は中長期の戦略が実行しやすくなり、ここ数年、激減していた新規株式公開(IPO)や合併・買収(M&A)が徐々に増え始めることが予想されます。実際に、2024年の世界のM&A案件は、前年比約50%の増加が見込まれています2。こうした環境はIPOやM&Aを活用し、リターンの最大化を図ることの出来るヘッジファンドの活躍の場を広げます。
以上の理由から、企業ファンダメンタルズに着目する投資家には、アルファ獲得の可能性が増していると考えます。市場が金利動向等のマクロ経済の変化よりも、銘柄固有の要因に敏感に反応することが予想されるからです。
金利が依然として高い現状では、リスク調整後のベースで債券の方が魅力的ではありませんか?
利下げが近付いているとはいえ、大幅な利下げや急速な利下げが行われる可能性が極めて低いことは事実です。また、インフレが従来の想定以上に根強く残る可能性も否めず、従って、金利は比較的高い水準で留まることが予想されます。これ以上、利回りが上昇する(債券価格が下落する)リスクが限定される高金利局面では、債券投資によって魅力的な利回りを確定するのが得策だとの見方もあるかもしれませんが、高金利の恩恵を受けるのは債券だけではありません。
高水準の短期金利は、株式ロング・ショート戦略、特に、市場に対する中立性を達成するためにショート・ポジションが重要な役割を果たす、マーケット・ニュートラル戦略の絶対リターンにとっても追い風です。
理由は次の通りです。ヘッジファンドがショート・ポジションを構築するためには、株式を借り、借りた株式を売却して得た現金を株式の貸し手に担保(証拠金)として預けなければなりません。ヘッジファンドは、株式を借りている間、受け取った配当を株式の貸し手に払わなければなりませんが、一方で、「空売りリベート(short rebate)」と呼ばれる証拠金の利息を受け取ります。足元、短期金利はグローバル金融危機以降、最も高い水準で推移しているため、空売りリベートに適用される金利も高止まりしています(図表1)。当該金利が高いほど、ショート・ポジションを維持するためのコストが抑えられるため、マーケット・ニュートラル戦略の絶対リターンには構造的な追い風が吹いているのです。アルファの創出にも有利な環境で、空売りリベート金利が追加的な魅力となっています。
マーケット・ニュートラル戦略は、株式市場の変動に対してポートフォリオを中立化するため、ロング・ポジションとショート・ポジションの均衡を図って構築されますが、これはポートフォリオの全額を現金で保有し、スプレッド控除後の利息を受け取るのとほぼ同じことです。この他に期待されるのは、ロング・ポジションとショート・ポジションに内在する追加的なリターンや、高いリターンの可能性、即ちロング・ショート・パフォーマンス・スプレッドまたはアルファです。
空売りリベートによる追い風は、向こう数ヵ月、レラティブ・バリュー戦略に有利な環境が提供されると考える理由の一つに過ぎません。ゼロ金利またはマイナス金利に逆戻りすることがない限り、金利環境は、過去10年に比べて良好な状況が続くことが予想されます。従って、保守的なリスク・リターン特性を持ったマーケット・ニュートラル戦略は、当該戦略と同様に相対的な高金利から自動的に恩恵を受ける債券配分を補完することが可能です。
更に、イールドカーブ(利回り曲線)の形状は、米国、欧州の双方において、潤沢な現金を保有し、翌日物金利で利息を受け取るヘッジファンドが、利回りの観点から国債よりも優位な立場にあることを意味します。
ヘッジファンドは投資家にどのような恩恵を提供するか?
ヘッジファンドが投資家に提供する主なメリットの一つは、ポートフォリオの分散です。
伝統的に、投資家は投資資金の一部を債券に配分することで、株式のアンダーパフォーマンス・リスクに備えてきましたが、近年では株式と債券の相関関係が変化しており、こうした戦略だけでは十分な分散効果が得られないことが明らかになっています。これは、株式と債券の逆相関が薄れる一方で、期待インフレの影響が極めて大きくなっているからです(図表2)。
一方、株式市場の変動からも、債券市場の変動からも独立した、高い実績を持つヘッジファンドも散見されます。
分散効果は投資家が選択したヘッジファンドの種類によって、主に二つの経路で入手することが可能です。一つはヘッジファンドが分散機能を担う戦略で、リターンには、株式のリターンとも債券のリターンとも、殆ど、あるいは全く、相関関係が見られません。ここには、マルチ・ストラテジー戦略やマーケット・ニュートラル戦略が含まれます。
もう一つは、ヘッジファンドが補完機能を果たす戦略で、ポートフォリオの株式部分にヘッジファンドを置き換えて、リスク・リターン特性の向上を図る戦略です。市場の方向性がリターンに及ぼす影響を注視する株式ロング・ショート・ディレクショナル戦略がここに含まれるのは、ボラティリティ(変動率)を低く抑え、ドローダウン(下落率)を限定しつつ、株式に類似したリターンの実現を図る戦略だからです。保守的なリスク・リターン特性を持ったマーケット・ニュートラル戦略やマルチ・ストラテジー戦略は、ポートフォリオの債券部分のリスク・リターン特性の改善にも用いることが可能です。
ポートフォリオの分散化は、今後、過去10年にも増して、投資家の重要な検討事項になると考えます(「Secular Outlook 2023:ピクテの長期展望」ご参照)。株式や債券との相関性を排除し、市場の下落の影響からポートフォリオを守る能力を有するヘッジファンドは、グローバル投資の資産配分において、引き続き、重要な役割を果たしていくものと考えます。
ヘッジファンド戦略は、投資機会をどのように活用するか?
投資家はベンチマークの縛りのないグローバル投資を行うことで、様々なロング・ポジションとショート・ポジションを組み合わせ、世界中の異なる景気循環を活用することが可能になります。
足元では欧州経済が低迷しており、決算発表時の業績格差が示唆する通り、株価に大きなばらつきが見られます。こうした環境では、銘柄選択投資が報われる傾向が強まります。
アジアの株式市場も、個別株投資に絶好の投資機会を提供しています。
東京証券取引所による株価純資産倍率(PBR)の改善要請等、日本の企業ガバナンス改革の進展は、潤沢な現金を保有し借入の少ない企業に対して、配当の実施や増配ならびに自社株買いを促しています。株主は利益率の改善につながり得る施策に、これまで以上に注力するよう、企業を促すことに成功していますが、日本企業は、M&A、特定の事業部門又は子会社を切り離して独立させるスピンオフ、企業の経営陣が自社株式を買い取るマネジメント・バイアウト(MBO)、ジョイント・ベンチャー等による戦略的かつ活発な企業活動からの恩恵が期待される特異な立場にあると考えます。企業のガバナンス改革は、優遇税制、低金利、豊富なプライベート投資家の資金等が生み出した、既に良好な環境にある企業に非中核事業や子会社の処分を促しています。
また、東南アジアやオーストラリアでも、積極的な企業活動が続いています。前者は、底堅い経済成長や中国からの資金流出、規制環境の改善等の恩恵を享受しており、後者は、再生可能エネルギー源への転換を図る、エネルギー移行に不可欠の資源産業における優位性を活用しています。
一方、中国は、デフレ圧力や不動産市場の低迷を背景に、過去3年間、厳しい投資環境に置かれてきましたが、個人の消費性向の変化や技術の進展をけん引役に、豊富なボトムアップ投資の機会を提供しており、こうした環境に企業が機敏に対応する様子が窺えます。従って、判断力があり、実利を重んじる消費者の動向や海外の経済成長の恩恵に浴する企業を選好する一方で、供給過剰や値下げ圧力に晒される資本財関連企業には慎重な見方を変えていません。向こう数年は、旺盛な人工知能(AI)需要を背景に、設備投資の拡大が予想されることから、半導体やテクノロジー)・セクターには引き続き、強気です。配当性向の引き上げや自社株買いの実施を通じて株主還元策の強化に転じた企業も注目されます。また、株価の反応を見て、同様の戦略を検討する企業も、多数、散見されます。
市場環境の変動は、ポートフォリオ構築に際し、従来以上に機敏に行動することを投資家に促すことから、ヘッジファンド戦略は、これまでにないほど有望です。ヘッジファンドは、株式と債券の分散ポートフォリオの一部として、景気循環を通じ、リスク調整後リターンの改善に寄与する可能性を秘めています。ヘッジファンドは、中央銀行による利下げが進むに連れて徐々に人気が薄れつつあるマネーマーケット・ファンドの代替としての魅力を増すのみならず、市場の振れが増す環境では、資本の保全にも寄与し得るものと考えます。
[1] Goldman Sachs Prime Brokerage
[2] Morgan Stanley Research
ピクテのトータル・リターン・インベストメント・チーム
独立性と専門性
当チームはピクテが世界の各拠点に構築した投資基盤を活用することが出来る、自立した専門性の高いメンバーで構成されています。
資産規模と業界経験
約77億米ドルの資産を株式や債券で運用しています。ジュネーブ、ロンドン、東京、シンガポール、香港、ニューヨークを拠点に、60名を超えるプロフェッショナル要員が運用にあたっています。
厳格なリスク管理
借入の利用には慎重な姿勢で臨み、流動性のミスマッチの回避に重点を置いた、資産保全重視の文化を継承しています。
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・グループの海外拠点からの情報提供に基づき、ピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集し、作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。