Article Title
ESG実践シリーズ:エフゲニア・モロトワが語るインパクトをともなう投資
2022/06/22

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

ピクテが運用する、ESGへの取り組みを実践する「ポジティブ・チェンジ投資戦略」の運用担当者エフゲニア・モロトワの、インパクト投資に関する考えをご紹介します。彼女の一見インパクト投資とは無縁にみえる業界での経験が、他とは異なる株式戦略であるポジティブ・チェンジのアイディアの源となりました。



Article Body Text

エネルギーなどの重工業は、引き続き世界経済にとって重要な部門である一方、大きな構造改革を必要としている

私は前職で、米国の大手化学メーカーの子会社が有する、モスクワの中心部にある工場で塗料を製造するなかで、工場の外に積もった雪が、使用される薬剤の影響によって様々な色に変化するのを目の当たりにしました。このような有毒な化学物質を扱う労働者には充分な健康保険制度は保障されておらず、仕事が減少した際の社会的セーフティネットもありませんでした。欧米では、環境汚染を引き起こす工業生産の多くを新興国に移すことで、社会問題や環境問題も海外に移転しようとしましたが、解決すべき課題自体は残ったままです。

その後、私は米国の金融機関で、石油やガス、エネルギーなどの景気循環株に投資する仕事に就き、世界で重工業に対する考え方が変化していく様子をみてきました。重工業はハイテク産業の黄金期を経て徐々に変化し、世界株価指数に占めるエネルギーセクターのウェイトは10年間で大きく低下しました。今日、エネルギー企業は依然として良好なキャッシュフローとリターンを生み出していますが、これらの企業への投資は下火となっています。

エネルギーを含む重工業は世界経済にとって不可欠な部門である一方、大きな変化を必要とする業種でもあります。 この構造改革には時間がかかるものとみられます。私たちはこれらの産業への投資を継続する必要がありますが、将来及ぼす影響を踏まえ、責任を持って行う必要があります。

 

投資を通して企業の社会や環境に配慮した解決策を見出すことができ、企業価値向上にもつながる

バリューチェーン(製品の製造や販売、それに付随するすべての企業活動を価値の連鎖として捉える考え方)全体を俯瞰し、プラスとマイナスの両方の側面を考慮する必要があります。電気自動車はバッテリーにリチウムやニッケル、コバルトなどの資源を必要としますし、エネルギー効率の高い新しい建物でもセメントや鉄を必要とします。ソーラーパネルに投資するのは環境保護の観点から良いことだと思われますが、実はその製造のため、中国で多くの石炭が燃やされています。

私はこの経験から、企業活動の環境への影響に関する問題を総合的に考えるようになりました。当運用チームは、クリーンエネルギー関連株やハイテク株のみへ投資を検討しているわけではありません。すでに環境に配慮したスキームへの移行を果たした企業や、その活動が環境にポジティブな影響を与える企業だけに投資することは、価値ある目標ですが、それだけでは問題全体を解決することはできません。本当に変化する必要のある、構造改革の遅れている企業と関わる機会を逃しています。

資本財や素材関連の企業は、一見環境に負荷を与える印象が強いことから、昨今の環境への配慮を重視した考えの広まりとともに軽視されていますが、社会にとって非常に重要な存在です。投資を通して企業の経営陣と関わることで、社会や環境に配慮し、利益にもつながる解決策を見出すことができます。また、企業が変革に成功すれば、企業価値も向上します。私はこの考え方のもと、インパクト投資の視点からすべてのセクターをみていきたいと考えています。

 

ESGへの取り組みについて重圧にさらされる中、企業はエンゲージメントを受け入れる傾向にある

現在、企業は、ESGへの取り組みについて消費者や政府、投資家などあらゆる方面から重圧にさらされています。消費者の購買習慣は変化しており、製品のリサイクル性や包装の環境への配慮に関心を持つことは、今や主流となっています。

政府もまた、政策や規制を変えようとしています。EUの2兆ユーロにのぼる新型コロナウイルス復興支援策は、環境保護に配慮したものであり、新興国を含む世界中の政府が、社会変革を推進するために企業に環境に関する制約を課しています。また、投資家もESG戦略を採用する企業への投資を選好するようになりました。

このような状況下、当運用チームがエンゲージメント(運用者・投資家と投資先企業が、投資先企業が抱えているESG課題の解決などについて、建設的な対話を行うこと)の中でアイデアを提示すれば、企業はそれに注目する傾向にあります。ピクテグループは、長期的な視点で責任を持つ資産運用会社として評価されており、当運用チームはその一員として、投資を通した企業の改善において重要な役目を担うことができます。

 

エンゲージメントを通して、企業は改善に向けて取り組み、その有益性が社会に還元される

すべての企業が変われるわけではありません。炭鉱が炭鉱であることに変わりはありませんし、変化できる産業であっても、経営陣はこれまでと同じようにやっていればいいという自己満足に陥っている場合もあります。しかし、多くの場合、改善の可能性があれば、経営陣は当運用チームのエンゲージメント目標を受け入れ、特にそれが価値を生むことを示せば、変革の一翼を担おうとすることが分かっています。

例えば、米国の大手コンタクトレンズメーカーと話した際、毎年約140億個の使い捨てコンタクトレンズが洗面台やトイレに流されているため、生分解性レンズの製造の可能性を探っていることが分かりました。他のコンタクトレンズメーカーにも実現可能性を確認し、この取り組みが消費者にも喜ばれ、会社にとっても価値を生むことができるものであると考えています。

当運用チームの活動が機能するためには、目標が現実的で、望ましく、企業にとって有益である必要があります。企業と投資家とのコミュニケーションの取り方については、米国よりも欧州の企業の方が上手く取り組んでいるように思われます。企業による情報開示の改善と規制当局の適切な働きかけがあれば、インパクト投資の効果をより明確に証明できるようになると考えています。我々は、5年後には有益な社会的または環境的影響を生み出すことに焦点を当てるのが、株式投資家の規範になるものと確信しています。

 

投資を通して、社会的および環境的に有益な影響を及ぼす

社会的な側面は、私にとって非常に重要です。私がロシアにいた頃、父は航空宇宙・防衛関係の仕事をしており、家族は裕福な生活をしていました。しかし、政権交代後、生活は困窮し、食べるものにも事欠くようになりました。この経験から、私は世界では膨大な数の人々が社会的弱者であり、国の支援を受けていないことを実感しました。

私は金融包摂、即ちすべての人々が、経済活動のチャンスを捉えるため、また経済的に不安定な状況を軽減するために必要とされる金融サービスにアクセスでき、またそれを利用できる状況の実現に情熱を注いでいます。現在、金融サービスのオンライン化が進み、スマートフォンを持っていれば金融にアクセスできるようになりました。オンラインバンクの中でも、特に金融サービスが行き届いていない層をターゲットにしている銀行もあります。一方、実店舗を持つ銀行は顧客獲得コストが高く、同じようなことをする余裕はないといえます。このような格差解消に向けた取り組みは、民間企業で行われてきましたが、現在では公的な分野でも行われるようになっています。また、保険業界の改革に関しても、大きなポテンシャルがあると考えています。例えば、中国では膨大な人口の中で、民間の医療保険に加入している人の割合は人口の2%に過ぎません。

当チームが運用するポジティブ・チェンジ投資戦略では、様々な社会問題に対して、投資を通して企業に働きかけ、社会的、環境的に有益な影響を与えていきたいと考えています。

個別の銘柄・企業については、あくまでも参考であり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。


●当資料はピクテ・グループの海外拠点からの情報提供に基づき、ピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集し、作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら




関連記事


2024年7月の新興国株式市場

持続可能で再生可能な未来に貢献する建物

中央銀行はなぜ金を保有するのか?

2024年6月の新興国株式市場

新興国市場:メキシコ初の女性大統領~選挙戦の後の株価調整は中長期的な投資機会とみる

イベント・ドリブン戦略に好機を提供するアジアの肥沃な土壌