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ユーロ圏の賃金
2024/09/05

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概要

第2四半期の賃金上昇率の減速が、ユーロ圏の政策金利の引き下げに影響を及ぼすかもしれません。



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◆概要

・ユーロ圏における妥結賃金の上昇率は、2024年第1四半期の前年同期比4.7%から第2四半期には3.6%に減速しました。この減速の主な要因はドイツです。今後を展望すると、ドイツにおける労働組合の高い要求により、2024年下半期に賃金上昇率が再び加速する可能性は否定できませんが、第1四半期がピークであったと見ています。

・全体として、妥結賃金の上昇率は依然として高い水準にありますが、ディスインフレのプロセスは確実に進行中です。短期的には、生産性の向上と利益の減少により、労働コストがユーロ圏の物価上昇圧力を緩和すると見ています。2025年には妥結賃金の上昇率が鈍化し、ユーロ圏のさらなるインフレ緩和の主な要因となるでしょう。

・「賃金、生産性、利益」のストーリーが続く限り、妥結賃金の上昇率の再加速が見られる可能性があるため、ECB(欧州中央銀行)は特定のデータをそれほど重視しないかもしれません。したがって、ECBが年内に政策金利を複数回引き下げる可能性を視野に入れています。


賃金上昇率は第2四半期に減速したが、第3四半期には再加速する可能性がある

ユーロ圏における労使交渉による妥結賃金の上昇率は、2024年第1四半期の前年同期比4.7%から第2四半期には3.6%に減速しました。国ごとの動向は第1四半期から第2四半期にかけてまちまちでしたが、この減速の大部分は主にドイツによるものでした(図1参照)。フランス、オランダ、オーストリアでも賃金上昇率は低下しましたが、後者の2国では依然として高い水準にあります。イタリアとベルギーでは賃金上昇率が加速し(ベルギーでは低い水準からの増加)、スペインではほぼ横ばいでした。



ユーロ圏全体でのこの減速は、一時的なものである可能性が高いと考えます。ドイツでは月次データが、すでに第3四半期に妥結賃金の上昇率が加速する可能性を示唆しています。さらに、2024年後半には重要な労働組合の交渉が予定されています。ドイツ連邦銀行(Bundesbank)は、7月の報告書で、今後の賃金協定に対する労働組合の要求が依然として非常に高いことを強調しており、過去数年間に蓄積された実質賃金の減少に対する持続的な補償を求める労働組合によって、サービスセクターにおける賃金要求が際立っているとしています。

ドイツの妥結賃金上昇率の加速によって、2024年後半のユーロ圏全体の賃金上昇率が押し上げられる可能性があるとしても、第1四半期が上昇率のピークであった可能性が高いと考えています。この点で、企業調査による賃金や物価の予想などのタイムリーな指標は心強いシグナルとなります。


賃金上昇率は第2四半期に減速したが、第3四半期には再加速する可能性がある

妥結賃金の高い上昇率が継続していることは、ECB(欧州中央銀行)が注視している、ユーロ圏内の物価動向の緩慢さを疑問視するものではありません。これは、全体的なディスインフレのプロセスにおいて重要な要素です。ユーロ圏の物価は、ラガルドECB総裁が7月の記者会見で「WPP」と呼んだ、賃金(wage)、生産性(productivity)、利益(profit)によって左右されます。生産性の向上により、高い賃金上昇が労働コストやユーロ圏の物価に与える上昇圧力を緩和します。また、利益成長率の減少は労働コストの上昇を吸収し、ユーロ圏の物価上昇圧力を抑えます。

6月のECBスタッフによるマクロ経済予測では、生産性の向上と利益成長率の減少の組み合わせが、ユーロ圏の物価上昇圧力を和らげている主要な要因であるとしていました。また、成長の回復と雇用の減速により、生産性は過去2年間の低下局面から回復を見せるはずです。一方、2年間の持続的なインフレーションの後、需要が弱まり、企業の価格設定力が低下したため利益成長率は減少し、さらにはマイナスになる可能性があります。

今後について考えると、2025年に賃金上昇率が大幅に減速し、それがユーロ圏の物価下落圧力の主な要因となることについて、ECBは自信を深めているようです。ラガルドECB総裁は6月の記者会見で、ECBの賃金トラッカー1について言及し、このトラッカーが、2025年の賃金上昇率はかなり低いことを示していると述べました。また、7月の記者会見では、6月の企業向け金融アクセス調査(Survey on Access to Finance for Enterprises:SAFE)にも触れました。この調査によると、企業は今後12カ月間の賃金上昇率を3.3%と予測しており、2024年3月の3.8%から低下しています。



前提として、ECBスタッフによる予測に「WPP(賃金、生産性、利益)」のストーリーを組み込む限りは、外的なショックが発生する場合などを除いて、ユーロ圏の物価上昇圧力が緩和し続ける、と理事会は確信していると思われます。これは、ディスインフレのプロセスにおいて最大の障害となっている、サービスセクターの物価上昇率が低下することと一致し、さらなる利下げのための重要な条件です。特に、2024年後半には妥結賃金上昇率が再び加速することも考えられるため、ECB理事会が特定のデータを重要視しない可能性も否定できません。ECBは最近、インフレ見通しの評価において、多くの市場参加者が考えるよりも先見性を持ち、データ依存度が低くなっていることも考えられるからです。このことから、ECBは年内に複数回の政策金利の引き下げを行う可能性もあると考えます。


 

[1]ユーロ圏の賃金協定に基づく将来の妥結賃金上昇の動向を示す先行指標


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