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トランプ氏の勝利は市場に何をもたらすのでしょうか?
2024/11/12

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概要

ドナルド・トランプ氏の大統領就任は、米ドルと米国株式にとっては良いニュースとなるかもしれませんが、米国債や新興国市場にとってはそれほどプラスには働かないでしょう。



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ドナルド・トランプ氏の米国大統領選での圧倒的な勝利に驚いた人もいるかもしれませんが、世界の金融市場の反応は予想通りでした。米国株式、米ドル、ビットコインは上昇し、その一方で、米国債は減税、規制緩和、インフレ上昇等を懸念して下落しました。

これらの動きは、選挙の数日から数週間前に、投資家がすでに共和党候補の大統領就任を想定して投資行動を起こした結果と言えます。リスク資産の上昇は、最悪のシナリオであった、選挙結果に関して争いが生じる状況が回避されたことに対する安堵感も反映しています。

今後の見通しについて過去の選挙を分析した結果、通常、資産価格への影響は数か月後には薄れ始めることがわかりました。長期的には政治ではなく、経済のファンダメンタルズが市場の方向性を決定づける傾向があり、この点においては、米国経済がソフトランディングへ向かうとの見方に変更はありません。

ただし、トランプ氏の政策が、より長期的な影響を与え得る分野もあります。中国や、その他の国からの輸入品に対する関税の引き上げは、米国の企業利益に7%程度の影響を与えると思われますが、一部は潜在的な税制改革によって相殺される可能性もあります。すべてのセクターが均等に影響を受けるのではなく、一般消費財、生活必需品や資本財ではその影響が2倍になると試算しています。

関税と貿易摩擦は新興国市場にとって好ましくはありませんが、最終的には、景気後退をともなわない緩和サイクルは新興国市場にとって魅力的なマクロ環境になるでしょう。さらに、中国は米国の新たな貿易障壁に備えて、経済を活性化させるために財政刺激策を強化すると見られます。

トランプ氏が市場へ与える影響の程度は、共和党が議会の主導権を確保できるかどうかにも左右されます。以下に、2つのシナリオを示します。

穏やかな米国例外主義(議会が分裂した場合)

これは経済成長にとっておおむね中立的で、株式市場にとってはわずかにプラスの影響を与えると思われます。トランプ氏は米国第一主義を掲げており、特に中国に対する保護主義的な関税を政策の柱に据え、議会で共和党が過半数を占めなければ大規模な財政政策の実施は難しくなるでしょう。全体として、貿易と移民政策の組み合わせは、米国経済に刺激を与えるものではなく、インフレをもたらすことになるでしょう。したがって債券にはわずかにマイナスに影響することになります。この結果に対しては、米国株式、特に減税と国内企業を優遇する幅広い政策アジェンタから恩恵を受ける、小型株式への投資が有利になると考えます。新興国市場の資産のほとんどは苦境に立たされるでしょう。しかし、対中政策の影響を受けないインドのような内需中心の成長ストーリーに期待が持てます。

許容範囲を超えた過激な政策運営(共和党が議会を支配)

このシナリオでは、トランプ氏はより過激な政策を実施する権限を持ちます。連邦債務は急速に増加し、責任ある連邦予算委員会の試算によると、カマラ・ハリス政権であった場合に想定された2倍の増加額になると見込まれます。これに加えて、10%の税率引き上げを含む厳しい関税が課される可能性があり、米国債にとって大きくマイナスの影響をもたらすと見ています。また、トランプ氏は米国の石油・ガス生産を大いに支持しており、再生可能エネルギーには反対していますが、国内エネルギー供給を拡大しようとしても価格が大幅に下落することはなく、石油の需要は長期間強いままでしょう。その結果、インフレ率が上昇し、社債スプレッドが拡大、イールドカーブのスティープ化につながる可能性があります。これは、米国株式と米ドルに有利であり、米国以外の株式および債券市場、特に新興国の債券市場にはマイナスの影響を与えます。株式市場では、債券利回りの上昇と規制緩和の可能性の両方から恩恵を受ける銀行が最も有利になると見ています。



 


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