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リスク・リターンが魅力的になりつつある円
2022/07/19

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概要

年初来の日米金利差の拡大により、大幅な米ドル高/円安となりました。しかしながら、金利差による円安がさらに進む余地は限定的であると思われます。



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世界的なリスク選好度の低下にもかかわらず、ディフェンシブ通貨である日本円は年初来、先進国通貨の中で最もパフォーマンスが悪い通貨となりました。その主な要因は、日本銀行(日銀)が消費者物価上昇率を2%に到達させる目標を実現するため、金融緩和を継続させていることです。また、エネルギーの輸入価格の上昇に伴う日本の貿易収支の悪化も少なからず影響しています。2021年5月以降の米ドル高/円安の進行は、原油価格の上昇や投資家のリスク選好度の変化が主な要因となっているのではなく、日米10年国債の利回り差の拡大が最も大きく影響しています。日米の金利差がどのように推移するかが、今後の円相場の主な決定要因になる可能性が高いと考えられます。

米ドル高/円安の主要要因(2021年4月~)

出所:Pictet’s Wealth Management Division – CIO Office & MR, Refinitiv(2022年7月12日時点)

日銀のイールドカーブ・コントロール(YCC、長期金利をプライスマイナス0.25%程度に抑える)の金融緩和政策は、短期的に変化することはないでしょう。日銀は国債を購入するために、貨幣を印刷してそれを支払いにあてることができます。また、日銀の国債買い入れ額は政府の発行額を大きく下回っています。これは、日銀が年間80兆円の日本国債を購入するために十分な財源を捻出することが困難であった2016年とは対照的です。日銀が国債発行残高の約5割を保有することは、債券市場の正常な機能が損なわれる恐れがありますが、5月の日銀による月次調査に回答した金融機関は、この点について大きな懸念を示していません。5月のコア・インフレ率(生鮮食品とエネルギーを除く)は0.8%(年率)と、日銀が目標とする2%を大きく下回っており、持続的な賃金上昇がない限り、日銀が金融緩和の姿勢を変えることは考えられないでしょう。黒田東彦総裁のもとで金融緩和策が見直されることにより、大幅な円高となる局面も考えられますが、今後数ヶ月でこのシナリオが実現する可能性が最も高いとは言えないでしょう。

米国では、2023年第1四半期までに緩やかに景気後退が始まり、米10年国債利回りの上昇は抑えられると予想されます。しかしながら、米10年国債利回りは既に6月中旬の高値である3.5%から低下していますが、米ドル高/円安の潮流は変わっていません。これは、上述されていないその他の要因が影響していると思われます。

世界経済の先行きに対する懸念の高まりと、タカ派的な米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策が米ドル高進行の強い追い風となっています。円については、6月中旬以降、多くの景気循環通貨をアウトパフォームできなかったことから、国内要因が円の足かせになっていることがうかがえます。その理由の一つは、日本の年金基金や生命保険会社が、高い利回りを持つ外国債券を再び大量に購入したことや、日銀が国債の買い入れを強化しているため、日本国債が不足していることが考えられます。

このような日本国内の動きは、他の投資資金の流入がないことと相俟って、円安を加速させています。2011年の福島原発事故以来、国内の3分の2以上の原子炉が停止したことにより日本の経常収支は不安定になり、直近ではエネルギー価格の上昇により悪化しています。また、2010年以降対外直接投資が増加したため、資金の純流出が加速しています。

経済見通しの悪化は、世界的に金利の上昇を抑制し、低利回りの円にとってより有利な環境に転じる可能性があります。また、日本の家計が物価上昇を懸念するようになったことから、日銀の超金融緩和策による円安は政治的にも議論されています。当局が為替介入によって急激な円安に対処することも考えられますが、日銀が政治圧力を受けて超低金利の金融政策を見直す可能性も排除すべきではないでしょう。また、黒田総裁が来年4月に退任した後、日銀の消費者物価上昇率を2%に到達させる目標が見直される可能性についても注視する必要があります。


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