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モジュラー建築の発展-投資機会につながるか
2022/07/27

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概要

環境にやさしく、建物の建設を効率化するモジュラー建築について、ピクテが紹介します。



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モジュラー建築は新しい建築方法ではありません。19世紀には、イギリス人がプレハブ住宅を移住先であるオーストラリアに輸送し、アメリカではカリフォルニアのゴールドラッシュ時に急増した宿泊施設の需要に対応するために使用されました。その後、第二次世界大戦後の復興、特に1970年代から1980年代にかけての建築ラッシュで重要な役割を果たしました。しかしながら、これらの建物は必ずしも耐久性や外観のデザインに優れていたわけではなく、多く建物にはモジュールを取り付けた跡が残っています。

一方で、技術の発展は建築の可能性を大きく広げました。私たちは、モジュラー建築2.0、あるいは3.0の時代の到来に直面しているのです。例えば、外壁タイルを建築現場で貼り付けることができるようになったことで、従来のモジュラー建築と比べ、モジュールを取り付けた跡を残さないことが可能になるなど、さまざまな進歩が見られています。

まず、モジュラー建築は環境にやさしいという特徴を持っています。EU域内で発生しているセメント、レンガ、木材、ガラス、金属、プラスチックなどの廃棄物の約3分の1は、建物の建設と解体の過程で発生しています。モジュラー建築は、工場で正確な計画に基づき、必要な材料のみを使用することで、このような廃棄物をほぼ出さないことが可能です。また、余分な材料は次の建設で使用できます。

また、モジュラー建築は、環境にやさしい素材である木材との相性も抜群です。もっとも、木材を使用したモジュラー建築は、サブセグメントとして成長中であるものの、規模は大きくありません。

次に、モジュラー建築は建設現場での所要期間を大幅に短縮することができます。通常の場合、6〜15ヶ月間現場で作業することが必要ですが、モジュラー建築は3週間程度で建物を組み立てることを可能にしました。キッチンや床、テレビなど、あらゆるものを工場内で各モジュールに組み入れることができます。現場での作業は、土台を作り、モジュールを組み立てるだけです。最新の技術により、組み立ての精度は大幅に向上しています。また、木材などの軽い素材を使うことで、基礎の深さやセメントの使用量も抑えることができます。

さらに、建設時の騒音や建設資材の輸送による環境への悪影響を低減することもできます。モジュラー式の建設現場では、建設資材を異なる場所からその都度搬入する必要がなくなるため、従来の建設現場と比べて輸送量が最大70%減少します。

図1:オフサイト住宅建設のシェア

出所:KPMG, *Scaling modular construction*(2019年9月)

モジュラー建築でも、工場での作業には発注から通常2〜4ヶ月程度、時間がかかります。また、計画や設計に必要な期間は、どのような建築方法でもほぼ同じです。しかしながら、モジュラー建築の方が総工期がより短く、建設を効率化することができます。マッキンゼーによれば、モジュラー建築は通常の総工期を20〜50%短縮することが可能です。

経験上、フルモジュラー建築(すべての工程をモジュラー建築で行う)は住宅、ホテル、学生寮など、小さなモジュールによって構築される建物の建設に適しています。最終段階では陸路輸送となるため、すべてのモジュールがトラックに収まる必要があるからです。つまり、モジュールの最大幅は4〜5メートル、長さは10〜12メートルで、大きなモジュールを必要とするオフィスや物流倉庫の建設にはあまり適していません。

その一方で、壁などの個々の部品を組み立てる必要がある部分でモジュラー建築を部分的に取り入れる方法は、より幅広く活用されるでしょう。例えばイギリスでは、鉄道の駅に利用できるフラットパックキット(部品に分解し、隙間なく梱包し、開封後に組み立てるもの)の開発が検討されています。

しかしながら、モジュラー建築のコスト面での優位性は高くないと思われます。マッキンゼーの調査によると、従来の建築方法に比べて最大20%のコスト削減が可能とされていますが、これは主に人件費の削減に起因するものです。一方、輸送や材料にかかる費用の増加によって、上記削減分の約半分が相殺される可能性があります。また、コスト削減の可能性は、実際の状況を考慮した上で考える必要があります。工場で作業員を雇用したものの、稼働率が低い場合、建設費用はさらに高くなります。そのため、新しく設立された多くの小規模モジュラー建築事業者にとって、長期的な工場運営能力が重要となります。

時間の経過とともに、モジュラー建築の市場で業界再編が進み、建築量が増加し、規模の経済が可能になるにつれて、コスト削減効果が高まることが予想されます。また、より人件費が安価な地域に工場を置き、モジュールを作成することも考えられます。例えば、建設コストの高いスウェーデンで使用するモジュールを、イタリアやさらに遠い地域の工場で作成し、完成品を輸送することなどが考えられます。

環境にやさしいことや、建設を効率化できることはすでに実証されており、今後はさらに建設コストの削減が進む可能性があります。住宅建設においてモジュラー建築がより主流になっていくことが期待されます。


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