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気候変動との闘いに影響を及ぼす個人の力 
2022/10/12

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概要

気候変動への不安が広がっていますが、私達は個人の決断と、所属するコミュニティでの行動を通じて社会に好影響をもたらし、社会が直面する課題の解決に貢献出来ることを認識すべきだと、ピクテ・グループ ESG&スチュワードシップ・オフィスのマリー・ヌヴーは考えます。



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2021年、世界のほぼすべての国の政府1が、世界有数の何百人もの科学者の合意に基づいた宣言を批准しました。このことは、人間活動の直接的な結果として、気候変動が起こっていることが確認されたことを意味します2。こうした現状を認識し、私達に課せられた行動を起こすことの責務を考えると、気が遠くなるような思いに駆られ、無力感に襲われても不思議ではありません。講じるべき無数の対策に優先順位を付けることさえ困難な場合もあり、課題の困難さに圧倒されて、「エコ不安症」とも呼ばれる症状に見舞われる可能性さえ否定出来ません。

私の世代3には、課題を解決する責任は重過ぎて負えない上に、そもそも気候変動危機を招く行動を取った前の世代が責任を負うべきである、との見方をする人もいます。

「私達に課せられた行動を起こすことの責務を考えると、気が遠くなるような思いに駆られ、無力感に襲われても不思議ではありません。」

一方、私はこうした現実に希望を見いだしています。私達の行動が気候変動に貢献出来るとしたら、私達の世代に責任があるかどうかは別として、それを食い止める力を持っているということになるからです。個人のレベルでは、より持続可能なライフスタイルを送ることで、現在の環境においても一人当たりの炭素排出量を最大25%削減することが可能です4が、個人の力を合わせて効果を高めることで、脱炭素化社会に向けた本格的な転換を促すことが可能です。これは、個人の行動の最大の強みが、周囲に影響を及ぼすことだからであり、そうすることで、組織、地域社会、社会全体など、私達を取り巻く広範なシステムに変化を促すことが可能だからです。

主に前世代の行動のお陰で、私達の経済が既に変化を遂げつつあることには意を強くさせられます。低炭素化ソリューション関連業界は、総じて好調です。私はパリ協定の目標達成期限までに、低炭素電力網を構築出来ると確信しています。核融合5 の研究者が2022年年初に画期的な成果を上げたことが報道されましたが、再生可能エネルギー電力の送電網の実現に資する送電網安定化技術にも進展が見られます6。この他、「ゼロ・ウェイスト・ブレード・リサーチ」コンソーシアムが世界初の100%リサイクル可能な風力タービン・ブレードを試作する等、小粒ながら重要なイノベーション(技術革新)も注目されます。

自然の素材を用いたソリューション(解決策)も極めて有望です。バハマに拠点を置く非営利団体「Beneath the Waves」は、炭素の巨大な貯留所である世界最大の海草床7を発見し、バハマ政府と協力してその保護に取り組んでいます。海草床は炭素排出権の売買が可能となる公算が大きいことに加えて、気候変動が悪化させる可能性の高い異常気象8の影響を軽減することから、経済的にも魅力的です。自然の素材を用いたソリューションは、情報技術(IT)を従来以上に組み込んだ低炭素化のためのイノベーションを促進することにもつながります。最近の例では、炭素排出量の多いセメントの脱炭素化を加速させることが期待される藻類プロジェクトの進展が挙げられます。藻類を利用した初のコンクリート・レンガ(コンクリートに砂等を混ぜた資材)は、2023年中の発売が予定されており9、自然の素材を用いた解決策が炭素排出量を削減し、生態系(エコシステム)を保護しつつ、食品、エネルギー、建設等の各業界に代替品を提供する能力を持つことを示す好例です。

「私達の行動が気候変動に貢献出来るとしたら、私達も気候変動を食い止める力を持っているということになります。」

消費者の好みの変化は経済の変化に大きな影響を与えており、多くの買い物客が、環境に及ぼす直接的な影響を最小限に抑えようと努めています。一例に、交通機関の炭素排出量の削減に寄与する航空機が挙げられます。私達の多くは、空の旅の楽しさと便利さを諦めたくないと思いつつ、飛行機の利用回数を減らしていますが、幸いなことに、脱炭素化に苦戦する航空業界自身が、画期的な新技術を開発しています。航空機の利用を減らすことが重要であることに変わりはありませんが、今後は、1度海外旅行に出かけたからといって、1年間の脱炭素に向けた試みの効果が帳消しになることはないはずです。早ければ2028年にも、最初の電気飛行機の商用化が見込まれているからです10。もっとも、電気飛行機が長距離移動に適しているかどうかについては、疑問が残ります11

水素にも検討の余地がありそうですが、実際に、大手航空会社が水素燃焼の実験のためのプラットホーム(基盤)を構築し、2026年に最初の飛行試験を行って2035年までに商業運航を開始する計画を立てています12。再生可能エネルギー由来のグリーン水素の製造コストが急落していることから、当該企業の「賭け」ともいえるプロジェクトの魅力が一層増しています。この間、一部の航空会社は、プレミアム料金を払えば、バイオ燃料と呼ばれる「持続可能な航空燃料(SAF)」を搭載した飛行機に搭乗出来るオプションを旅客に提供しています。

SAFは、化石燃料(ジェット燃料)に比べて排出量を最大80%削減することが可能だと考えられています。また、エンジンを改造することなく、燃料の50%をSAFに替えて飛行することは、既に可能です13が、SAFの生産コストが採算の取れる水準に下がるには、時間がかかりそうです。

「個人投資家として、自分のお金を誰に託し、それを実体経済の脱炭素化にまわすよう、どう説得するかが行動の重要な鍵となります。」

こうした心躍るソリューションに資金を提供するためには、金融市場のイノベーションが欠かせません。個人投資家として、自分のお金を誰に託し、それを実体経済の脱炭素化にまわすようどう説得するかが行動の重要な鍵となります。例えば、プライベート・エクイティ市場、特に、起業から日の浅い企業を投資対象とする「アーリー・ステージ」市場は、低炭素化ソリューションの促進役として重要な役割を担っています。オルタナティブ特化の運用会社の一部は、環境の持続可能性を提案する専用商品を既に提供しています。また、官民共同の連携融資(「ブレンデッド・ファイナンス」)の仕組みも注目されます。こうした仕組みを通じて、低炭素プロジェクトのリスクが軽減され、投資家から必要な資金を集めることが出来るからです。こうした手法は、新興国市場において、或いは先進国市場において低炭素技術を導入する際に、特に威力を発揮する可能性が高いと考えます14

私達は、消費者や個人投資家として社会に変革をもたらすだけでなく、個人同士が互いに影響し合う力、或いは、組織や政府機関に影響を与える力を持っています。例えば、環境に対する若い世代の信念が、既に、年配者の購買習慣を変えるきっかけになっていることを示唆する研究が発表されています15。こうした状況は、食生活等のように、排出削減の過程が個人の行動と強く結びついている分野で特に威力を発揮することを明らかにすると思われます。人間の活動が招いた炭素排出量の14.5%が食肉生産に起因するものであるため16 、私の世代の75%は既に肉の消費を控えており、今後、友人や家族の習慣にも影響が及んでいくことが予想されます。その結果、様々な代替肉の入手が容易になり、植物由来の食品を多く含む食生活への移行が促進されると思われます。消費者需要の変化による経済の変化の多くは、このようなネットワーク効果によって増幅されます。

「私達は、個人よりも多くの温室効果ガスを排出する学校や仕事場等の組織内で行動する力も持っています。」

また、私達は、個人よりも多くの温室効果ガスを排出する学校や仕事場等の組織内で行動する力も持っています。私個人の場合は、同僚のピエール・ド・ラ・ブルドネイの行動に刺激を受けています。彼は、元は視聴覚機器部門のスペシャリストだったのですが、会社の環境を損なう排出物を削減するための戦略を提案して実行に移し、素晴らしい成果を上げています。ピクテは、彼が提案した取り組みを通じて、2018年以降、使い捨てプラスチックの消費量を90%削減することに成功しました。私がピエールから受けた最も強力なアドバイスは、課題に臨機応変に対応することで迅速に勝利をつかみ、より大きな変化が確認出来るまで小さな勝利を続ければよいという楽観的な考え方を持つということです。現在、ピエールはピクテが取り組んでいる脱炭素化のけん引役であり、自分の職場でも脱炭素化への移行を促したいと考える多くの人々を刺激し続けています。ピエールがピクテで行ったことは、誰でも、それぞれが属する組織やコミュニティで再現することが可能です。一人の人間の行動は、具体的かつ持続的なプラスのインパクトを生むことが可能であり、経営陣が最初の一歩を踏み出すのを待つ必要はないのです。

成功の秘訣は、気候変動の複雑性を認識し、教育を続けることにあるのかもしれません。そうすることで、ほとんどの人が個人の炭素排出量は、主に以下の4つの分野 で発生していることを理解するからです。4つの分野とは、移動(通勤や飛行機等による移動)、家庭でのエネルギー使用、食事、モノの購入、です。成功の鍵は、一度に一つずつ変化を起こすことから始めて、それが習慣となるまで続けることです。日常生活の中で始めることが自然かもしれませんが、ピエールのように、私たちも起業家精神を発揮して、自分のまわりのシステムを変えていくべきだと考えます。このような個人的な取り組みが重要なのは、短期間で効果が現れるからです。長期的には、有望な技術発展が私達の排出量削減能力を向上させると考えますが、この間、私達が消費者として行う選択が、技術開発のスピードに影響を与えることが出来るのです。マハトマ・ガンジーの名言の通り、「あなたが見たいと希望する世界になること、換言すると、先ずは自分が変わること」で友人や家族に留まらず、より広いコミュニティに影響を与えることが可能なのです。そうすることで、私達を取り巻くシステムの脱炭素化への移行を、協働を通じて実現し、大きな変化をもたらすことが出来るからです。私はどれも実現出来るとの希望を抱いています。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                         

「一人の人間の行動は、具体的かつ持続的な好影響を生むことが可能であり、経営陣が最初の一歩を踏み出すのを待つ必要はないのです。」

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        

                                                                                                                                                                                                                                                                

1 世界195ヵ国が気候変動に関する政府間パネル(IPCC)に加盟

2 出所: IPCC AR6 WG1

3 Z世代, 1997年~ 2010年生まれ

4 出所: The Guardian, 2022

5 核融合は、核分裂とは異なり、放射性廃棄物を出さずに低炭素エネルギーを提供する 出所: BBC, 2022

6 出所: Economist, 2022

7 水中に適応し、葉で酸素と二酸化炭素を交換する花を咲かせる植物

8 出所: Ecosystems, 2020

9 出所: Time, 2022

10 出所: Scientific American, 2022

11 出所: Wired, 2022

12 出所: Airbus, 2022

13 出所: IATA

14 出所 : World Economic Forum, 2022

15 出所 : businesswire, 2021

16 出所:  Food and AgricultureOrganization of the United Nations,2013、及びForbes, 2019

 

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