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- 生成AIがもたらすデジタル革命
生成AI(人工知能)の台頭により、世界はデジタル革命の黎明期を迎えています。AIの普及が、クラウドインフラプロバイダー、半導体企業、ソフトウェア企業など、様々な分野に多くの恩恵をもたらしています。
生成AI は、私たちの生活様式や仕事の仕方を変える可能性があり、この先、テクノロジー銘柄への投資動向を大きく変えることが予測されます。ロンドンの金融街の賑やかな通りでも、高校の騒がしい教室でも、AIの台頭が想像力をかきたてます。大きな脚光を浴びているAIを取り巻く実態はどのようなものなのでしょうか。また、それは投資家に何をもたらすのでしょうか。
すでに導き出された一つの結論は、AIが明らかに新しい、よりダイナミックな発展段階に入ったということです。大規模なデータセット、クラウドアーキテクチャ、新しい強力な半導体の出現など、AIが新たな領域に進出するための条件が整ったと言えます。
ITサービス会社のインターナショナル・データ・コーポレーションでは、今後ハードウェア、ソフトウェア、サービスを含む世界のAI市場は、毎年19%近く成長し、2026年には9000億米ドルに達すると予想されています(図1参照)。今後の成長予測はこれに留まらず、ゴールドマン・サックスは、AIがもたらす生産性の向上などから、今後10年間で世界経済に約7兆米ドルのプラスをもたらすと予測しています。
(図1)世界のAI市場規模の実績と予測
単位:10億米ドル
出所:IDC、2022年7月
従来のAIは、機械学習(ML)を使い、結果を予測してデータ分類などを行うものでしたが、生成AIの特徴は、人間が生成できるものとほとんど区別がつかない、まったく新しいコンテンツを作り出すことです。オンラインゲームのキャラクターやストーリーを作成したり、財務報告書を作成するなど、複雑化する顧客サービスの質問にも対応することができます。このように、生成AIは、私たちの生活や働き方を一変させる可能性を秘めていると言えます。
ソフトウェア会社のマイクロソフトを主要株主とする企業、OpenAIが開発したAIチャットボットであるChatGPTは、この技術の最も有名な例であり、その潜在的な可能性を示しています。GPTはGenerative Pre-trained Transformerを略したもので、大規模な非構造化データセットで訓練された大規模言語モデル(LLM)の一形態です。このAIチャットボットは、トランスフォーマーという斬新な深層学習プロセスを用いて、ユーザーのテキスト入力に対して一見人間のように見える回答を提供することができます。OpenAIは、画像生成ツールのDALL-E 2と音声生成ツールのWhisperも開発しています。
しかし、これらの新しい技術は、何もないところから生まれたわけではありません。AIシステムは過去20年間で、膨大な計算能力、強力なマイクロプロセッサの開発、メモリストレージの進歩により、急成長を遂げました。
AI機能のマネタイズ
ピクテ・アセット・マネジメントのデジタル、ロボティクス、セキュリティ戦略の投資マネージャーは、LLMの商業利用への急速な普及を期待しています。どの企業がAIから最も恩恵を受けるかについて、明確な見解を述べるのは時期尚早であるものの、最初のチャンスは主に3つのテクノロジー分野で事業を行う企業に訪れると言えます。
第一に、クラウドインフラプロバイダーです。データ中心の生成型AIは、ハイパースケーラーと呼ばれる大規模なクラウドプラットフォームが提供する強力なクラウドインフラを必要とします。AWS(アマゾンウェブサービス)、GCP(グーグルクラウドプラットフォーム)、Microsoft Azure(マイクロソフトアジュール)などがそれにあたります。 これらを合わせると、世界のクラウド容量の約78%を占めています(図2参照)。2023年1~3月期のクラウドインフラサービスの売上高は、前年同期比100億米ドル増の637億米ドルに達しており、今後も力強い成長が期待されます。
(図2)2023年第1四半期における主要クラウドインフラプロバイダーの世界市場シェア(%)
出所:シナジーリサーチグループ、2023年
第二に、半導体企業も大きな利益を得る可能性があります。AI/MLの計算能力は、主にGPU(Graphical Processing Unit)の開発によってもたらされます。GPUは生成的なAIモデルの実行に必要で、高速な並列処理能力により大規模データセット、即ちLLMの学習を最適化することができます。また、GPUに限らず、より多くのコンピューティング、メモリ、ネットワークソリューションが必要となることから半導体需要が増加し、半導体および半導体装置メーカー全般は、生成AIの大きな受益者になると考えています。さらに、これらの複雑化する半導体を作るには、これまで以上に高度な設備が必要です。2022年に半導体製造装置の売上高が1000億米ドルを突破し、新たな記録を打ち立てたのは偶然ではなく、この傾向は今後も続くと予想されます。
半導体メーカーのエヌビディアは、ChatGPTのようなAIアルゴリズムに必要な計算量の増加の恩恵を受けています。このアルゴリズムは、A100や新しいH100といった同社のハイエンドデータセンターアクセラレーターチップ(AIのモデル推論処理を高速に行うためのハードウェア)の上で動作します。こうした半導体は、現在、エヌビディアの収益の半分以上を占めています。
しかし、コンピュータの機能の大半は、より一般的なコア・プロセッシング・ユニット(CPU)によって実行されています。ここでは、半導体メーカーのインテルが依然として市場をリードしていますが、近年、カリフォルニアに拠点を置くAMDが大きくシェアを伸ばしています。
CPU、GPUのいずれにしても、より高度なチップへの需要は高まっています。しかし、チップをより小さく、より賢く、より安く作ることは難しくなってきています。実際、新しい最先端チップを設計するには、今や数億米ドルのコストがかかります。皮肉なことに、シノプシスやケイデンス・デザイン・システムズなどの企業が開発した電子設計自動化(EDA)ツールを使用することで、AIはこうした新しい半導体の製造を後押しすることができます。シノプシスは、EDAツールのAIスイート全体を発売しており、すでに200以上の新しい半導体を設計しています。
第三に、他のソフトウェア企業も、生成AI時代の勝者として台頭する可能性があります。自社製品にAIを組み込むことに成功した企業は、競争優位性を高めることができます。マイクロソフトのGitHub Copilotは、今日のソフトウェアにおけるAIの最もスケール感のある例です。 マイクロソフトが発表した調査では、GitHub Copilotを使ってコーディングした開発者の生産性が向上し、55%短い時間でより良い成果物を提供することができました。このモデルは、1億7500万枚の著作権フリーのストック画像で学習され、同社の製品群全体で著作権に準拠した画像生成を可能にしています。
サイバーセキュリティ・ソフトウェアに関しては、他の機械が書いた悪意のあるコードからの潜在的な脅威に対抗するために、業界は生成AIを使用するように適応しなければならない可能性があります。AIは、攻撃の検出と対応をより迅速に行うことを可能にすると見込まれます。クラウドストライクとパルアルトネットワークスは、すでにサイバーセキュリティ・プラットフォームにAIの力を取り入れている企業です。サイバーセキュリティは、やがてAIアプリケーションが使用するデータを保護し、そのデータの品質を確保するという大きな役割も担うようになると予測されます。AIがサイバーセキュリティ企業やビジネスユーザーに与える影響で最も可能性が高いのは、効率性の向上(攻撃の検出と対応に要する時間の短縮)だと考えています。生成AIは、サイバーセキュリティ担当者が日常業務で直面するルーティーンワークの多くを補強したり、完全に排除したりする上で、大きな役割を果たすことになると考えられます。
AIが抱える課題解決に向けて
さらに、ChatGPTのようなサービスは、大手検索エンジンに対するセキュリティ上の潜在的な問題点に関する議論を促進する一方で、データの正確性、著作権、プライバシー、独占禁止法に関する懸念も提起しています。一部の問題では、AIは実際に自己警告を行うことができます。例えば、コンテンツがそのサイトにとって適切な状態であることを実現するモデレーションでは、悪影響を防ぐために、事前に訓練されたAIモデルがすでに使用されています。時間の経過とともに、このようなモデルやユースケース(システムのアクションを把握するための技法)はより多く開発されると見込まれています。
このようなテクノロジーに対する公式な規制も重要であり、政府と企業の両方が積極的に取り組んでいます。OpenAIの共同設立者は、国際原子力機関と同等の組織を設立し「システムの検査、監査、安全基準への準拠のテスト、及びシステム展開とセキュリティレベルの制限」を行うことを求めています。
黎明期にあるデジタル革命
しかし、技術の発展とともに、解決策が見つかることが期待できます。様々なリスクがあるものの、今日のAIは、15年以上前にiPhoneの登場によってスマートフォンとモバイルアプリケーションの利用が始まり、AWSが最初のクラウドプロバイダーとして台頭した時と似た状況にあります。今、AI技術は次世代の技術系スタートアップに革命を起こしています。
ChatGPTのようなソフトウェアは、まだ始まりに過ぎません。私たちは、この先10年、AIが困難を乗り越えながら業務の効率化を促進し、既存のビジネスモデルから脱却し、より戦略的なビジネスモデルを構築すると確信しています。アナリティクス、自動化、人工知能の力をもってすれば、デジタル変革はまだ初期段階に過ぎないと言えます。
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