ベルタレリ財団との海洋保全

海を守る

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二酸化炭素の蓄積や私たちへの食糧供給など、海洋生態系は地球上の生命にとって不可欠なものです。海洋生態系を守るために、私たちはもっと努力しなければならない、とドナ・ベルタレリ氏は主張します。




ヨットによる世界一周を世界最速で成し遂げた女性であるドナ・ベルタレリ氏は、海のことを誰よりもよく知っています。2016年にマキシトリマラン(船体と2つのフロートから構成される多胴式ヨット)のレース「Spindrift」でヘルムスマン・トリマー(舵取り役)として47日間の過酷な航海を終えた彼女は、現在、国連貿易開発会議(UNCTAD)のブルーエコノミー特別顧問として、海を守るという、世界一周のヨットレースにも劣らず挑戦的な旅に出ています。

(2015年の)パリ協定では海洋生態系の健全性確保の重要性が指摘され、当時23カ国が「Because the Ocean」の誓約に署名するなど、海洋保護の必要性に対する認識は高まっていますが、進捗状況は比較的ゆっくりとしたものになっています。2020年までに191カ国が、国連のSDGs(持続可能な開発目標)の14「海の豊かさを守ろう」で定められたターゲット5「沿岸域及び海域の10パーセントを保全する」という目標を達成できませんでした。


ベルタレリ財団の共同議長でもあるベルタレリ氏は、「各国政府は、効果的な海洋保護区を設置するための十分な公約を結んでおらず、公約が締結された箇所も、海洋保護区の実施には時間がかかっています」と語ります。

ベルタレリ氏の父、ファビオ氏の功績を称え設立されたこの慈善団体は、主に海洋保護、海洋科学、生命科学研究を行っています。これまでに、世界中で270万平方キロメートル以上の海洋の保護と環境保全を支援してきました。


しかし、ベルタレリ氏が指摘するように、本当の仕事はまだ始まったばかりです。最も重要な課題のひとつは、世界の人々の海に対する見方を変えることです。

「海を資産と考える場合、これまでは伝統的に、資源を採取した後の価値を考えていました。海の生物多様性や生態系がそのまま残されていれば、酸素の供給や二酸化炭素の吸収など、海が地球上の生物に提供している多くの "無償 "のサービスを評価することはほとんどありませんでした」

要するに、「保護と生産のバランスをうまくとる必要がある」ということです。現在のバランスの悪さを最も端的に表しているのが漁業で、ベルタレリ氏は「野生動物を大規模に捕獲できる最後の産業」と指摘します。

ベルタレリ氏は、日本の愛知県で開催された第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)で合意された愛知目標について、「2020年までに持続可能な漁業を行うという目標6の達成に失敗しただけでなく、10年前に合意された時よりも状況が悪化している」と指摘した上で、「これは主に先進国が引き起こしている問題だ」と説明しています。

海の生物を破壊するような漁業を不当に支援し、沿岸地域とは対照的に産業用漁船を支援する有害な漁業補助金は、その大きな原因となっています。漁業補助金の約87%は先進国の漁船を支援していますが、漁業者の90%は開発途上国に住んでいます(推定では、世界の30億人が食料と生活を海に頼っていると言われています)。

「想像してみてください。この数十億ドルが、持続可能なブルーエコノミーの発展と多様化のために再投資されたら、どんなことができるでしょうか。各国政府は、"網にかかった魚ではなく、生きている魚にはどんな価値があるのか "と自問を始める必要があります」

 


進展が止まっているにもかかわらず、ベルタレリ氏は楽観的な理由を数多く見出しています。分かりにくいかもしれませんが、新型コロナウイルス感染症の大流行もそのひとつです。「このパンデミックは、自然と人間の健康とのバランスがいかに脆弱であるかを示しています。人獣共通感染症は、私たちが動物を扱い、土地や海の資源を利用することで発生するのです」

パンデミックの影響で、多くの個人だけでなく、各国政府も優先順位を見直すことになりました。2030年までに世界の陸と海の少なくとも30%を保護することを中心的な目標とする、政府間グループ「The High Ambition Coalition for Nature and People(HAC)」に見られるように、新たなリーダーシップが生まれています。2021年初頭に発足したばかりですが、本稿執筆時にはすでに70カ国が加盟しています。

ポスト・コロナの復興に向けて、経済を再構築する機会もあるでしょう。その中には、漁業、観光、海運、エネルギーの4つの主要セクターを含む「ブルーエコノミー(海洋における環境に配慮した持続可能な経済)」も含まれます。

「ブルーエコノミーの分野を多様化して、より持続可能な活動を取り入れ、これらの4つの主要分野が海洋に与える影響を軽減することが、ポスト・コロナでのチャンスです」とベルタレリは言います。沿岸の生態系による自然な二酸化炭素の吸収促進や、海洋を利用した持続可能な再生可能エネルギーの開発など、さまざまな可能性があります。

「これを達成すれば、経済生産と海洋保護を両立させ、食糧安全保障を向上させ、生活手段を維持するだけでなく、新たな生活手段を生み出すことができ、同時に気候変動を緩和するという海洋の役割を支援することができる、というポジティブな結果が得られると思います」とも彼女は述べています。

 



最後に、新型コロナウイルス感染症は、新しい種類のパートナーシップや資金調達モデルを生み出しました。例えば、観光収入がない中で、ベルタレリ氏は債務の再編に取り組んできました。これにより、環境保護のための地元の投資が可能になり、マングローブ、干潟、海草などの炭素を蓄える海洋生態系を支援することで、二酸化炭素の排出量を相殺する自主的な取り組みが促進されました。

「また、環境保全における変化と革新を推進するための官民のパートナーシップが全体的に増加していると思います」と彼女は述べています。

しかし、ベルタレリ氏が楽観的な見方をする最大の理由は、気候変動や生物多様性、自然保護の必要性を強く意識して、今まさに困難に立ち向かおうとしている次世代の台頭にあるのかもしれません。「私の子供たちのような次世代の若者たちは、私たちがその年齢だった頃よりも、情報に精通しています。彼らは私たちに、より良い遺産を求めている。その点に、私は希望を感じているのです」




ドナ・ベルタレリ

国連貿易開発会議(UNCTAD)のブルーエコノミー特別顧問




本ページは2021年10月にピクテ・アセット・マネジメントが作成した記事をピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集したものです。



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