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- ESG投資編(10)ESG投資の事例①〜ESGインテグレーション〜
近年、企業の市場価値を決定する要素として財務データの説明力が低下し、非財務データの影響力が強まってきていると言われており、ESGに配慮した経営を行うことで中長期的な企業価値は向上することが期待されます。また、ファンドにおける銘柄選択の際に、非財務データの一つであるESGに関するデータを、財務データと合わせて分析に用いる手法のことをESGインテグレーションと言います。ESGインテグレーションを行うことで、より実態に近い企業価値の分析を行うことができ、当該選定プロセスを行ったファンドは、当該選定プロセスを行わなかったファンドに比べて、中長期的に高いパフォーマンスが期待できると考えられます。
財務データの説明力の低下
近年、企業の市場価値を決定する要素として財務データの説明力が低下してきていると言われています。財務データの説明力とは、企業の市場価値を決定する際に財務データがどれだけ影響を与えているかということです。IntegratedReporting(IR)によると、1975年当時、S&P500の市場価値における財務データの影響力は83%ありましたが、2009年には19%まで低下しています(図表1)。これは、売上や利益、債務や自己資本といった財務データよりも、ブランド力や環境・社会への取り組みといった数値化することが難しい非財務データの方が企業の市場価値に影響を与えるようになってきているということを示唆しています。このように、ESGに配慮した経営を行うことで、中長期的に企業価値はより向上することが期待されています。より具体的に考えてみましょう。
図表1:S&P500の市場価値の要素
出所:Integrated Reporting TOWARDS INTEGRATED REPORTINGCommunicating Value in the 21st Centuryのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
ある企業が、①水資源を有効活用するなど環境に配慮して経営し(E:環境)、②性別や人種を問わず公平で多様性に富んだ採用を行い(S:社会)、③独立性の高い取締役会を設置した(G:ガバナンス)、とします。企業価値の算出は、その企業が将来生み出すキャッシュフロー(CF)を、投資家が求めるリターン(事業リスクの大きさ)で割り引いて現在価値を算出し、その合計とします。①は、短期的には設備投資などによりコストが上昇する可能性がありますが、中長期的には環境への負荷軽減に加え、公害を未然に防ぐといった社会的コストの低減につながり、将来的に企業のCFの増加や事業リスクの低減に繋がることが期待されます。②も、魅力的な人材の確保によって将来のCFの増加につながる可能性があります。③は、企業の意思決定の透明性が高まった結果、事業リスクが低下し、投資家の要求するリターンも低下するといったことが期待されます。このように、ESGに配慮した経営を行うことで中長期的な企業価値の向上が期待できます(図表2)。
図表2:ESGに配慮することで企業価値上昇が期待される
ここで、企業価値と市場価値(株価)の違いについて簡単にご説明したいと思います。企業価値は、一般的に、企業が生み出す利益やCF、保有する資産等から算出されます。一方、株価は、市場における需給で決定されます。短期的には、株価は需給の要因が強く、企業価値から乖離しているケースが多いですが、中長期的には企業価値に収斂していくと考えられています。
ESGインテグレーションの効果
最後にESGインテグレーションとその効果についてご説明します。ESGインテグレーションとは、ファンドにおける銘柄選定のための分析を行う際に、非財務データの一つであるESGに関するデータを財務情報と合わせて用いる手法のことをいいます。先ほどの例のように、企業の利益・CFや投資家が要求するリターンの大きさ(事業リスクの大きさ)等を算出する際に、財務データだけでなくESGデータも考慮することで、財務情報のみの分析では得られない、より実態に近い企業価値の分析が可能になります。その結果、現在の株価が企業価値と比較して、割安なのか、割高なのかの判断も、より精度が上がることが期待されます。したがって、銘柄選定にESGインテグレーションを組み込んだファンドは、当該選定プロセスを組み込まないファンドに比べて、中長期的に高いパフォーマンスが期待できると考えられます。
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