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円反転?円安?為替の行方
市川 眞一
2022/11/15

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概要

10月の米国消費者物価統計は、総合指数、コア指数共にマーケットの事前予想を下回った。これを受け、米国市場では、株価、債券、為替が大きく反応している。それだけ、インフレに対する警戒感が強かったのだろう。FRBによる利上げの減速観測に加え、日本では来年4月の日銀総裁交代後における金融政策変更の見方が強まっており、円のボトムアウトを指摘する声は少なくないようだ。もっとも、米国においては、物価を押し上げる主役が、エネルギー関連からサービスに交代しつつある。原油価格の高値安定を受け、エネルギーが物価にもたらすインパクトが中立になるため、2023年初頭にもコア消費者物価上昇率は4%台へと低下する可能性が強い。一方、逼迫した労働需給を背景とした賃上げにより、サービスの価格上昇は続く見通しであり、コア個人消費支出物価はFRBが長期目標とする2%まで低下するのは難しいだろう。FRBの利上げは今年内に峠を越えると見られるものの、当分、FFレートは4%台で維持されるのではないか。国債市況への影響を考えた場合、日銀の出口戦略は簡単ではない。日米短期金利差は大きな状態が続くとすれば、円安が収束したと判断するのは時期尚早だろう。



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円が急落したのは、3月15、16日のFOMCにおいて、FRBが25bpの利上げをしたことが起点だった。G7各国通貨の対ドルレートに関し、円の下落率が最も大きくなっているのは、日銀のみが政策金利を据え置いていることが主な理由と考えられる。従って、円/ドル相場における最大の決定要因は、現在のところ両国の政策金利の動きと言えるだろう。

 


2021年に入って以降、エネルギー価格が急騰、米国の消費者物価を押し上げてきた。もっとも、WTI原油先物価格は1bbl=80~90ドルを中心に高止まり状態だが、前年の同じ時期と比べた場合、足下は若干のマイナスだ。原油価格は3~6カ月程度のタイムラグで消費者物価に反映される傾向があり、エネルギーが米国のインフレに与える影響は中立的になりつつある。

 


消費者物価を押し上げる主役は、エネルギーからサービス全般へとシフトした。サービスはコストに占める労務費のウェートが高く、賃金の動向が価格に反映され易い。高賃金のIT系産業や金融業界に雇用削減の動きがあっても、移民の流入減少で全般的な米国の労働市場は逼迫しており、賃金上昇率は高止まりするだろう。サービス価格の上昇は続くのではないか。

 


求人数から失業者数(≒求職者数)を引いた純求職者数は、賃金に連動する傾向がある。エネルギー価格の高値安定により、コア消費者物価上昇率は段階的に低下、2023年前半に4%台となる可能性は否定できない。他方、サービス価格の上昇率が高止まりすることで、コア個人消費者支出(PCE)物価は、FRBが長期的な目標とする2%へは下がらないだろう。

 


米国景気の方向を概ね正確に反映すると言われる製造業景況感指数(PMI)は、10月、節目となる50割れ寸前の50.2となった。OECDの景気先行指数も下向きであり、米国経済が減速局面にあることは間違いなさそうだ。ただし、この両指数は景気の方向性を示すものであり、強さ、弱さの度合いを示すものでないことには注意が必要ではないか。

 


2022年前半、米国は2四半期連続で前期比年率の実質成長率がマイナスになった。しかしながら、名目成長率は高水準を維持している。この名目と実質の大きなギャップは、当然、物価上昇率で説明されなければならない。GDPデフレーターの伸びが鈍化した7-9月期、実質成長率は2.6%のプラスになった。物価が米国経済の鍵を握ると言って良いだろう。

 


名目ベースでGDPの成長率寄与度を見ると、新型コロナ禍前と比べて高いレベルを維持している。雇用の需給逼迫で賃上げ率が高く、消費者は財布の紐を絞ってはいないようだ。もっとも、インフレが急速に進んだことで、実質ベースでは消費が景気の足を引っ張ってきた。消費者物価上昇率が賃上げ率を下回れば、景気は拡大基調となるのではないか。

 


2023年4月に黒田東彦総裁が交代すれば、日銀の金融政策が出口へ向かうとの観測は少なくない。しかし、10年国債の利回り目標を引き上げた場合、既発債の価格下落リスクから強い売り圧力が国債市場に圧し掛かるだろう。イールドカーブ・コントロール下での金融政策変更は容易ではない。結果として、日米間の政策金利差は大きく開いた状態が続く可能性がある。

 


一部の邦銀は、ドル1年物定期預金の利率を3.8%としている。為替変動がなければ、為替手数料を除いても3%程度の利回りが確保でき、国内金利と比べて魅力的だ。足下、米国の物価、日米の金融政策に不透明感が強く、ドルを買う動きが鈍る可能性は強い。しかし、年末から年明けに向け、少なくともFRBの政策の方向性は明確になるだろう。利上げは峠を越えるものの、当面、利下げもないとの観測が強まれば、金利差に着目して円からドルへの資金の流れは再拡大することが想定される。また、2023年の景気を重視するジョー・バイデン政権は、強いドルを歓迎するだろう。円安・ドル高の局面が終わったと考えるのは時期尚早ではないか。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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