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分散投資のすゝめ
市川 眞一
2023/07/11

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概要

2020年3月16日を底に米国主導で始まった世界的な大相場は、2021年末に概ね終了した。この大相場の背景は、新型コロナ禍の下での歴史的な金融緩和であったことに疑いの余地はない。リモート化の流れがIT主導の展開を形成する道標であったとは言え、株価収益率(PER)の拡大を伴う典型的な金融相場の様相を呈した。昨年3月以降、FRBが利上げを実施、ECB、BOE、スイス国立銀行、カナダ中央銀行など日銀を除く主な中央銀行が追随したことで、2022年の株式市場はバリュエーションの修正を迫られたと言える。また、インフレの定着が市場に影響する古くて新しいファクターになった。こうした難しい市場環境の下、改めて資産分散と時間分散の効果を見直す必要があるのではないか。金、東証株価指数(TOPIX)、S&P500、米国10年国債の4つの資産によるポートフォリオへの累積投資は、リスクを抑制し、安定的なパフォーマンスを挙げてきた。国際的に不透明な投資環境だからこそ、分散の効果が高まると考えられる。



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■現預金が依然として50%以上

日銀の資金循環勘定統計によれば、2023年3月末現在、家計の資産総額の内訳は2,042兆8千億円であり、現金が1,106兆7千億円で全体の54.2%に達した。昨年度はネットベースで21兆7千億円の資金流入があったのだが、その84.0%に相当する18兆2千億円が現預金になっている。日常の生活においてインフレを実感しつつも、家計の資産配分において現預金志向を変えるには至っていないようだ。

 

 

■日本経済はデフレ期からインフレ期へ転換

1991年12月に旧ソ連が崩壊して以降、米国主導のグローバリゼーションの下で新興国が工業化し、先進国の物価は安定した。日本の場合、米国などへの輸出市場を新興国に奪われたことで、供給超過による構造的なデフレに陥ったのである。しかしながら、国際社会による分断の影響で日本の物価も目立った上昇に転じた。日銀の大規模緩和が円を下落させ、それも物価を押し上げる要因と言えよう。

 

 

■日本の現金比率は突出

日本、米国、ユーロ圏の国々に関して個人金融資産のアロケーションを見ると、日本の現預金比率は突出して高い。投信が12.6%、株式が39.8%に達する米国とは対照的だ。一方、ユーロ圏の場合、現預金、投信・株式、保険・年金に概ね3分の1ずつが振り分けられている。公的社会保障制度が充実している国が多いことから、リスクを抑制しつつ、分散投資で安定運用を図ってきたのではないか。

 

 

■月末に1万円の投資により2023年6月末の資産総額は1,842万円

金、東証株価指数(TOPIX)、S&P500、米国10年国債の4つの資産を対象に、バブル崩壊期に当たる1990年以降、月末に1万円を積立投資した場合の運用成果を計算した。具体的には、各資産に円で毎月2,500円を等金額投資したと仮定している。結果は、2023年6月末の時点で資産総額が1,842万円になった。この間、1年物定期預金に毎月1万円ずつ累積積立預金をしていた場合、資産総額は413万円だ。

 

 

■S&P500は圧倒的にパフォーマンスが良いが・・・

各資産のパフォーマンスでは、S&P500が円建てで年率平均10.1%の上昇であり、当初に比べて26.9倍になった。その結果、月2,500円の累積投資により、今年6月末時点でのS&P500の投資分は資産額が962万円、4資産によるポートフォリオの時価総額の49.2%を占めている。もっとも、これはあくまで結果だ。資産と時間の分散をすることにより、金融資産のリスクを低下させ、パフォーマンスを安定する効果が期待できる。

 

 

■各資産の相関係数は低い=分散効果が高い

当該4資産における2資産毎の相関係数を見ると、高い相関関係が認められる組み合わせはなかった。つまり、資産分散の効果が認められる組み合わせと言えるだろう。特に金の場合、TOPIX、S&P500、米国10年国債のいずれに対しても相関係数は非常に低い水準になっている。金融資産のポートフォリオにおいて、金と他の資産の組み合わせは、リスクを分散する上で有効な戦略と考えて良いのではないか。

 

 

■ポートフォリオの分散効果でリスクを軽減

4資産のポートフォリオの月間平均リターンは0.54%であり、S&P500の0.80%には及ばない。ただし、リターンの標準偏差は3.59%、S&P500、金、TOPIXを下回った。1つの資産では、何等かの理由でそのパフォーマンスが悪化した場合、金融資産の時価が大きく変動しるリスクが高い。一方、ポートフォリオのリスクとリターンの関係は、相関係数の低い資産の組み合わせによる分散投資の効果を示している。

 

 

■リーマンショック期を除けばどの10年間もパフォーマンスは定期預金を上回る

4資産のポートフォリオについて、月毎に直近10年間の年平均リターンを見ると、リーマンショック後の2009年1月及び6月の2回、それまで10年間の運用による年平均利回りがマイナスになった。しかしながら、その時期以外は1年物定期預金に10年間預け入れをしたよりも高いリターンになっている。資産と時間を分散することで、リスクを適正化し、概ね良好なパフォーマンスが示されたと言えるだろう。

 

 

■分散投資のすゝめ:まとめ

4資産のポートフォリオによる累積投資の試算は、あくまで過去の実績に過ぎず、将来を約束しているわけではない。しかしながら、互いに相関関係の薄い4つの資産の等金額投資により、バランス型の運用と累積投資の組み合わせが、一定の効果を挙げる可能性を示したと言えるのではないか。特に様々な資産と相関が薄く、且つ歴史的にインフレに強い金の使い方が、ポートフォリオのパフォーマンスを安定させる鍵と考えられる。世界がインフレの時代に突入したとすれば、現預金の保有では資産価値を守れない。新NISAなどの手段を有効に活用、資産と時間の分散により資産価値を守ることが得策だろう。

 


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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