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米国大統領選挙の情勢
市川 眞一
2023/12/26

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概要

2024年最大のイベントは11月5日の米国大統領選挙だろう。1月15日にはアイオワ州の共和党大会が開催され、候補者レースが正式に開始される。現段階において、共和党はドナルド・トランプ前大統領が独走状態だ。仮に同前大統領が再び選出された場合、日本に対して厳しい姿勢で臨む可能性は否定できない。1期目には、就任早々にTPP交渉、パリ協定からの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の改定や対EU、対韓国、対中国の厳しい通商政策など、多くの国・地域がトランプ前大統領に翻弄された。そうしたなか、日本だけがトランプ砲の被弾を免れたのは、安倍晋三元首相の外交力に負うところが大きい。同首相のいない日本が、「トランプ大統領」と渡り合うのは大きな困難を伴うだろう。一方、現職のジョー・バイデン大統領は、支持率の低迷に苦しんでいる。景気は底堅く、インフレも鎮静化しつつあるものの、81歳の年齢と中東問題がハンディとなっているようだ。もっとも、今回の大統領選挙は、独立系候補が勝敗の鍵を握ることも考えられよう。



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■ 今のところトランプ前大統領が独走

ファイブサーティエイトの集計によれば、共和党の候補者指名レースに関する最新の世論調査では、トランプ前大統領が60%以上の支持を得て独走状態にある。一時は拮抗していたフロリダ州のロン・ディサンティス知事、立候補表明当初は勢いのあった実業家のヴィヴェック・ラムスワミ氏は失速ぎみだ。トランプ前大統領への批判を避けていることで、差別化ができていないことが理由と推測される。



■ 序盤3州の動向が重要

共和党の候補者指名レースは、1月15日のアイオワ州党大会を皮切りに、同23日にニューハンプシャー州予備選、2月8日にはネバダ州とバージン諸島の党大会、24日にサウスカロライナ州予備選と進む。トランプ前大統領以外の候補が勝ち抜くためには、そこで上位を確保することが必須だ。2016年の大統領選挙において、本命でなかったトランプ前大統領は、序盤戦での勝利で勢いを付けた。



■ ニッキー・ヘイリー前国連大使に勢い

アイオワ、ニューハンプシャー両州の世論調査では、ニッキー・ヘイリー前国連大使が支持率を上げている。また、11月28日、コーク・インダストリーのオーナーである大富豪のチャールズ・コーク氏が設立した政治団体AFPが、同氏への支持を正式に発表した。これは、トランプ前大統領に危機感を持つ共和党内の穏健派が、ヘイリー氏を最有力の対立候補として支援する兆候と言えるかもしれない。



■ 資金力は候補の強さの有力な指標

9月の段階で共和党の各候補が集めた寄付金を比較すると、トランプ前大統領が6,052万ドル、ディサンティス知事3,165万ドル、ラムスワミ氏2,661万ドルで、ヘイリー氏は5番目の1,871万ドルだった。もっとも、AFPは2022年の中間選挙で7千万ドルを献金、豊富な資金力で知られている。米国の大統領選挙では、資金力は候補者の強さを示す重要なバロメーターだ。ヘイリー氏への今後の寄付金の動向が注目されよう。



■ バイデン大統領は現職の強み活かせず

本選がバイデン大統領対トランプ前大統領となった場合、現段階における有力世論調査の平均は、「現職大統領へ投票する」が41.0%、「前大統領へ投票する」が43.6%で概ね拮抗している。本来はアドバンテージがあるはずの現職大統領にとって、この状況を楽観視することはできない。逆に言えば、トランプ前大統領は岩盤支持層に加え、2016年同様、今のところ現状に不満を持つ有権者の心を掴んでいるようだ。



■ バイデン大統領の支持率は下降ぎみ

大統領選挙まで1年を切ったにも関わらず、ジョー・バイデン大統領の支持率が低迷を抜け出していない。ファイブサーティエイトの集計では、足下のバイデン大統領の支持率は40%を切っている。景気は底堅く推移、雇用が引き続き堅調で、物価は安定しつつある。しかし、経済面での好材料は政権の成果として評価されず、81歳の年齢、そしてウクライナ、パレスチナ情勢への対応が批判されているようだ。



■ 再選成功、失敗の両グループに経済的特徴

バイデン大統領にとっての頼みの綱は、戦後、再選を目指した大統領11名のなかで、中間選挙後の2年間、米国経済がプラス成長の場合、本選で負けた大統領がいないことだろう。バイデン大統領としては、2024年に巡航速度の成長を維持し、株価を上昇させることが再選への必須要件に他ならない。従って、FRBによる利下の可能性が高まっていることは、同大統領にとり追い風と言えそうだ。



■ 1992年はペロー氏が共和党表、2000年はネーダー氏が民主党票を奪う

大統領選挙の攪乱要因は、無所属での立候補が取りざたされる民主党系のロバート・ケネディ・ジュニア氏、共和党系ではリズ・チェイニー元下院共和党会議議長の存在だ。1992年は実業家のロス・ペロウ氏が共和党票、2000年は消費者運動家のラルフ・ネーダー氏が民主党票を食い、選挙に大きく影響した。特にチェイニー氏が立候補して共和党穏健派の票を得れば、トランプ前大統領の悪材料だろう。



■ 米国大統領選挙の情勢:まとめ

2024年の米国大統領選挙は、現段階ではバイデン大統領対トランプ前大統領による本選になりそうだ。ただし、共和党はヘイリー前国連大使が序盤で勢いを付けたれば、トランプ前大統領の有力な対抗馬になり得る。一方、ケネディ・ジュニア、チェイニー両氏が無所属で出馬する場合、当選の確率は限りなくゼロだが、選挙の鍵を握る可能性は否定できない。それが、選挙の帰趨を極めて読み難くしている要因だ。現職のバイデン大統領が再選されるためには、景気と株価の好調維持が必須の要件だろう。



 


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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