Article Title
コロナショックで忍び寄る「信用収縮の連鎖」
田中 純平
2020/03/13

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー

概要

3月11日、IMF(国際通貨基金)のトビアス・エイドリアン金融資本市場局長はロイターのインタビューで、ハイイールド債やレバレッジドローンなど比較的流動性の低い資産を運用するファンドの流動性リスクについて指摘した。原油安やコロナショックで投資家が流動性の低い資産の売却を急いだ場合、ハイイールド債スプレッドがさらに拡大して信用収縮を引き起こすリスクがある。



Article Body Text

大幅にディスカウントされた米ハイイールド地方債ETF

原油安ショックと新型コロナウイルスに対する懸念が高まった3月9日以降、流動性が低いハイイールド債ETFやレバレッジドローンETFの市場価格はベンチマーク以上に値下がりした。中でも米ハイイールド地方債ETFの市場価格はNAV(基準価額)に対して3月12日時点で-19.4%と、突出して高いディスカウント率となった。大幅なディスカウント率は運用資産の流動性以上の解約が殺到した可能性が示唆される。

 

 

信用収縮の連鎖はすでに始まったか?

IMFのエイドリアン氏は現時点で広範な信用収縮は見られないとの認識を示しているが、原油安と新型コロナウイルスのパンデミック状態が長引き世界経済が低迷すれば、いずれはデフォルト(債務不履行)が増加し信用収縮を引き起こす可能性がある。ブルームバーグの報道によれば、すでにホテル運営会社のHILTON WORLDWIDE やWYNN RESORTSが与信枠から資金を引き出したとされ、プライベート・エクイティ会社のBLACKSTONE GROUPやCARLYLE GROUPが傘下の関連会社に与信枠の利用を促したと報じられた。信用収縮が起こっていないからこそ与信枠を確保することが可能だったわけだが、今後クレジット・リスクが高まれば金融機関も不良債権化を警戒して与信枠を縮小させる可能性がある。また、ハイイールド債スプレッドはさらに拡大すれば、特に信用リスクの高い発行体はプライマリー・マーケット(発行市場)でも資金調達することが困難になるため、デフォルトが急増しかねない。さらに、投資家も損失拡大を恐れてハイイールド債ファンドの解約を急げば、ハイイールド債スプレッドの拡大に拍車をかけ、信用収縮の連鎖が引き起こされる可能性がある。前述した米ハイイールド地方債ETFのNAVに対して市場価格が大幅にディスカウントされた状態は、来たる信用収縮の連鎖を示す予兆かもしれない。金融市場のストレスを示すUSD LIBOR/OISスプレッド(3カ月)は3月11日に0.53%まで急騰した。リーマンショック当時の水準には程遠いが、金融ストレスは徐々に高まりつつある。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞歴を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして、主に世界株式市場の投資戦略などを担当。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演。2023年より週刊エコノミスト「THE MARKET」に連載。日本経済新聞ではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


東京都知事選挙と岸田政権

フランス混乱の背景:極右政権で大丈夫なのか?

邦銀の今後の見通し:サイクルと構造変革

政策金利5%台でも軟着陸する米国経済

フランス総選挙 極右優勢で金融市場は警戒ムード

少子化対策としての資産所得