- Article Title
- 3月FOMCで発表されたQT減速の主なポイント
FRBは3月のFOMCで、バランスシート上の米国債などの資産を圧縮する量的引き締め(QT)のペースを4月から減速することを決定した。米国債の圧縮額を月250億ドルから50億ドルに引き下げる一方、住宅ローン担保証券(MBS)は月350億ドルに据え置いた。FRBは、債務上限問題に対応しつつ、コロナ禍で膨れ上がったバランスシートの正常化を進め、準備預金の適切な水準を模索する方針だ。
FRBは3月のFOMCでQTによる減額のペースを緩めることを決定した
米連邦準備制度理事会(FRB)は3月18-19日に開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)で、バランスシートに保有する米国債などの資産を圧縮する量的引き締め(QT)を4月から減速することを決定した。保有する証券のうち最大規模となる米国債について最大圧縮額を月250億ドルから月50億ドルに引き下げた一方で、住宅ローン担保証券(MBS)の最大圧縮額は月350億ドルとし、減額ペースを据え置いた(図表1参照)。
なお、今回のQT減速に対し、ウォラー理事は反対票を投じ、米国債の圧縮額を月250億ドルのまま維持するよう求めた。ウォラー理事は3月21日に反対の理由を説明する声明を発表した。
QT減額の内容は、将来のバランスシートの構成を反映か
FRBは前回(1月)のFOMC議事要旨で連邦債務上限問題を理由に、FRBのバランスシート縮小の一時停止か終了の議論があったことを示唆した。3月のFOMC後の記者会見で、FRBのパウエル議長はバランスシート圧縮のペースを減速(QT減速)は債務上限問題に対応のための一時的な措置かと問われ、「(1月の議事要旨にあるように)当初はそのように考えたが、QT減速のペースを落とすことが方針に沿う」と説明している。
パウエル議長はQT減速について多くを語らなかったが、認識は、FRBはコロナ禍に膨れ上がったバランスシートを静かに正常化させる(縮小)プロセス上にあり、足元、徐々に正常化終了に近づいてきている。そのためバランスシート縮小の手段であるQTのペースを緩めたに過ぎないというものだ。FRBはQTの反対であるQE(量的金融緩和)には金融政策の(非常時における)緩和手段という位置づけだが、QTにはQEほど積極的に金融政策としての意味を持たせていないようだ。パウエル議長はQT減速を単に飛行機の着陸にたとえた。
簡単にQTを振り返ろう。FRBのバランスシートで資産サイドを見ると足元は6.74兆ドル規模だ。大半はコロナ禍のQEで積みあがった米国債とMBSが占めている。現局面でのQT開始は22年6月からであり、9月からネット償還額の上限を米国債は月600億ドル、MBSは月350億ドル(6月~8月は約半額)とした。図表1にあるようにバランスシートは22年6月の9兆ドル弱をピークに、このQT開始により縮小し始めた。
24年6月にQTにおける米国債の償還額上限は月250億ドルに減額された(MBSは据え置き)。そして、25年3月のFOMCでは、4月から米国債の償還額上限が月50億ドルとさらに減額された。
米国債とMBSの償還額上限に差をつけた背景として、最近はMBSの早期償還が進まず、毎月の償還額が上限に満たないのが現状というテクニカルな理由に加え、FRBは将来の保有債券を米国債中心にする方針を反映するためと筆者は考えている。FRBは「正常化」としてバランスシート縮小を進めているが、そのゴールは保有証券をゼロとするものではない。ある程度の規模の証券を保有する見込みであるが、その時、保有証券の中心を米国債とする方針を維持しているようだ。
FRBは保有証券を削減しながら、適正な準備預金の水準を模索
ある程度の規模の証券保有(バランスシート)がどの水準になるか、筆者にはわからない。そこで、その目安を考えるうえで、今度はバランスシートの負債サイドに注目する(図表2参照)。
QTが開始されたころのFRBのバランスシートの主な負債項目は①預金(主に準備預金)と、②オーバーナイト・リバースレポ(ON RRP:FRBが保有する国債を担保に銀行から資金を借りて、翌日に一定の金利を付けて返す仕組み)と、③銀行券だ。
注目すべきは準備預金(残高)だろう。FRBがQEで国債などを購入すれば準備預金が増加し、(再投資を見送り償還させ)保有額を減少させれば準備預金は減少するのが基本だ。ただし、準備預金の変動要因は様々で、足元のようにQTを進めても準備預金が思うように減少しない場合などがある。
足元の準備預金の残高は3.4兆ドル弱だが、どの程度が適切な水準かについて、単純な基準が定まっているわけではない。市場の流動性の源泉は基本、準備預金と考えられるが、これまでの「潤沢」(過剰にある)から、これを「十分な」(適切な)水準に徐々に移行する段階にはあるようだ。
ただし、FRBのコンセンサスの形成に時間も必要だろう。3月のFOMCでQT減速に反対したウォラー理事が21日に発表した声明文では、3兆ドルを超える準備預金は「潤沢」で、「十分な」を意識してQTを減速させるべき水準でないと述べている。準備預金減少で流動性が縮小し、市場が思わぬ変動をした場合でもFRBは対応するツールを備えており、そちらで対応すべきと考えている。
FRBは「十分な」準備預金の水準の目安をいくつか示してはきている。準備預金の対GDP比率や準備預金の弾力性をベースにした指標などがその代表例だろう。ただし、どれも決め手というわけではなく、コンセンサスの形成に向け、今後も検討が続けられそうだ。
FRBはQTを減額してバランスシート正常化の終着点を探る展開だろう
なお、負債項目のON RRPはピーク時には2兆ドルを超えていたが足元では10分の1程度となっている。今から1年ほど前、ON RRPが減少する局面で、残高ゼロをXデーとして市中金利の変動を懸念する声もあったが、今のところ大事には至っていない。
この当時の状況を簡単に振り返る。コロナ後のQE政策に伴い増加した準備預金の受け皿は主にMMF(マネー・マーケット・ファンド)であった。MMFは通常Tビルなど米短期国債で運用することが多いが、当時Tビルが供給不足であったこともあり、MMFは資金運用先としてON RRPを選択した。最近FRBはMMFが投資先を決める要因についてのペーパーを発表したが、そのペーパーによると金利水準が決め手のようだ。民間のレポ市場レートと比べて、ON RRPが有利であった局面でON RRPが積みあがったことが示されている。反対に足元ではレート面でON RRPを利用する理由がなくなっている。
このように、過去に積みあげられた2兆ドルほどのON RRPは利用がなくなったとしても基本的に問題はないとFRBの一部のメンバーは考えているようだ。確かに少なくともこれまでのところ、ON RRPの縮小が問題を引き起こしてはいないようだ。
QTはペースを減額したうえで当面続けられそうだ。1月の議事要旨が発表された後、年内のどこか(夏頃)でQT停止もあるのではと筆者は考えていた。しかしどうやら当面はQTを減額したうえで継続し、将来のどこかの時点で停止するという方針をメインシナリオとした方がよさそうだ。いずれにせよ、今後の展開は準備預金残高を中心に推移を見守るべきだろう。
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。
手数料およびリスクについてはこちら
ディープ・インサイトの記事一覧
日付 | タイトル | タグ |
---|---|---|
日付
2025/03/28
|
タイトル インフレの行方 | タグ |
日付
2025/03/21
|
タイトル 34年ぶりの賃上げ率 春闘の読み方 | タグ |
日付
2025/03/18
|
タイトル 米個人のバランスシート悪化は“時限爆弾”となるのか | タグ |
日付
2025/03/14
|
タイトル 市場が鳴らすトランプ大統領への警鐘 | タグ |
日付
2025/03/12
|
タイトル なぜナスダック総合指数は急落したのか? | タグ |
日付
2025/03/07
|
タイトル 国際社会の不安定感が押し上げる金価格 | タグ |
日付
2025/03/06
|
タイトル 高いインフレ予想がもたらす物価のパラダイムシフト | タグ |
日付
2025/02/28
|
タイトル トランプ政権の政策に関する市場の懐疑論 | タグ |
日付
2025/02/21
|
タイトル 「資産運用立国」はなぜ重要なのか | タグ |
日付
2025/02/18
|
タイトル 知識としての暗号資産。今後の行方を考える | タグ |