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インフレの行方
市川 眞一
2025/03/28

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概要

日本国内での物価上昇圧力は、当面、緩和される可能性がある。電力・ガスへの政府支援金は攪乱要因だが、円安が一服したことに加え、政府備蓄米の放出でコメの価格も下落が想定されるからだ。2025年後半の消費者物価上昇率は2%台前半へ減速するのではないか。もっとも、長期的に考えれば、円安は続く可能性が強い。「悪い円安」による「悪いインフレ」へ備えるべきだろう。



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■ 攪乱要因としての電力・ガス支援金

2月の消費者物価は、総合指数が前年度月比3.6%、生鮮食品を除くコア指数が同3.0%の上昇だった(図表1)。総合指数は1月と比べ0.4%ポイント、コア指数は0.2%ポイント、それぞれ上昇率が縮小している。それでも、日銀が「安定的な目標」とするコア指数で2%上昇を大きく上回っている状態に変化はない。これで35ヶ月連続してコア指数は2%以上の上昇になった。


攪乱要因は政府による電力・ガスへの支援金だ。ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー価格が高騰したことを受け、岸田政権(当時)が2023年1月使用分より導入した。その後も一時的な休止を交えつつ継続されている。電力やガスなど公共料金は逆進性が強く、低所得世帯には重い負担だ。一方、料金の上昇は、本来、化石燃料の使用抑制要因となるはずだが、そうした価格の持つ需給調整機能が阻害されてきたのではないか。


また、消費者物価に与える効果を考えると、確かに当初は上昇率を押し下げる(図表2)。しかしながら、例えば前年の支援金が電力1kWh当たり7.0円、ガス1㎥当たり30.0円、翌年がそれぞれ3.5円、15.0円に縮小された場合、巨額の国費を投入しているにも関わらず、消費者物価上昇率は0.5%程度押し上げられるだろう。



石破政権は、2025年1月から3月までの時限措置として支援金を復活させた。結果として、2026年4月まで、断続的に消費者物価を0.2~0.5%ポイント程度押し上げることになるだろう。


■ 注目される為替、そして米価

当面、物価上昇圧力を緩和する可能性があるのは、為替の動きだ。急速な円安に伴い、円の実質実効レートは2022年7月に前年同月比16.9%下落した(図表3)。それは、輸入価格を押し上げ、消費者物価に強いインパクトを与えたと考えられる。その後も円は対ドルで低下基調だったが、下落率は大きく縮小、3月には2021年3月以来、4年ぶりに僅かとは言え円高方向になりそうだ。


ドナルド・トランプ大統領による米国の関税政策は、米国のインフレ要因だろう。その場合、FRBが利上げを行うまで、米国の実質金利が低下、為替がドル安・円高傾向となる可能性は否定できない。


一方、2月の消費者物価統計において、コメ類の価格は前年同月比80.9%上昇した。主食であるコメの価格高騰は、社会的に大きな話題になっている。消費者物価全体への寄与度も0.5%ポイントのプラスで無視できない状況になった。


ただし、政府備蓄米の放出が実施され、価格が現在の水準で推移すれば、遅くとも今秋には消費者物価全体に与える影響はほぼなくなるだろう。さらに、国内消費、輸出とも大きく伸びているわけではないため、コメの在庫がどこかで相当に膨らんでいる可能性は否定できない。そうした在庫の放出が始まる場合、より早い段階で米価が下落に転じるシナリオも十分に考えられる。

2025年に関しては、円安の一段落を背景として、消費者物価上昇率は既にピークアウトしたのではないか。年後半にコア指数の上昇率が2%台前半へ落ち着くシナリオもあり得るだろう。

ただし、長期的に見れば、日本の財政問題、そして日銀の出口戦略の遅れから、円安の大きなトレンドが終わったとは言えない。つまり、2026年以降は、「悪い円安」による「好ましくない物価上昇」が再開するシナリオを想定しておく必要がある。インフレは、飽くまで小休止なのではないか。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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