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- 34年ぶりの賃上げ率 春闘の読み方
春闘が佳境を迎え、賃上げ率は34年ぶりの高水準になる可能性が高まった。ただし、日本労働組合総連合(連合)の組織率は11%程度であり、春闘の結果は目安に過ぎない。「賃上げと物価の好循環」実現には、中小企業を軸に生産性の改善が必須だろう。雇用制度改革に加え、利上げや最低賃金の引き上げが必要ではないか。現在の政治状況では、そこまでの変化は見込み難い。
■ 春闘が全体を示すわけではない
連合は、3月14日、今春闘の第1回回答集計を発表した。それによれば、賃上げ率は平均5.46%である(図表1)。34年ぶりの高水準だ。
もっとも、この数字はマクロの賃上げ率として必ずしも適切ではないだろう。年功序列により年次が上がれば引き上げられる定期昇給を含んでいるからだ。給与水準の高いシニア層が定年退職や役職定年により実質的な減給になるため、一般に定昇によって企業の人件費総額が増えるわけではない。本質的な賃上げはベースアップ分だ。
賃上げの内訳を明確に区分している649組合(全体の85.4%)で見た場合、今春闘の第1回集計におけるベースアップは3.64%である。
過去のデータを振り返ると、春闘の賃上げ率と一般労働者の賃金上昇率の間には常にギャップが生じていた(図表2)。理由は、1)春闘の賃上げ率が定昇分を含むこと、2)春闘のカバレッジが極めて限定的であること・・・の二つではないか。
厚労省の労使関係総合調査によれば、昨年、雇用者総数は6,139万人だった。一方、労組の組合員は総計985万人であり、組織率は16.1%に止まる(図表3)。連合の場合、傘下の組合員は682万人で、全雇用者の11%程度に過ぎない。
春闘は連合に加盟する労組が企業と交渉した結果だ。連合が労組のナショナルセンターであることに疑問の余地はなく、連合傘下の組合がある企業の賃上げ率は、人材確保の観点から組合のない企業にも影響を及ぼすだろう。
ただし、賃上げに関する連合の集計が一定の傾向を示すとは言え、日本全体の雇用者の賃金状況を的確に反映しているわけではない。数的に見れば、連合傘下の労働組合に加盟していない9割の動向が重要なのである。
■ 鍵を握る生産性
賃金は基本的に労働生産性に依存するが、財務省の法人企業統計によれば、2023年度における従業員1人当たりの年間付加価値は、資本金10億円以上の企業が1,589万円なのに対し、1千万円未満だと3分の1以下の503万円だった(図表4)。つまり、生産性は企業規模に比例している。
賃金の底上げを図るには、雇用制度の改革で連合に加盟する組合を持つ大企業の生産性を改善すると同時に、組合のない中小零細企業の生産性も大きく向上させることが必要だろう。日本の場合、長年に亘る超低金利状態により、労働生産性の低い低収益・赤字企業が数多く生き残ってきたことで、賃上げ率が低迷している可能性は否定できない。言い換えれば、低金利が過剰供給の温床であり、低賃金、デフレを助長してきたわけだ。
日銀が出口戦略を進めることで、金利上昇による負担に耐えられる企業が生き残り、生産性の改善と賃上げの実現する可能性は高い。さらに、最低賃金の引き上げも、同様の効果を生むのではないか。言い換えれば、企業の新陳代謝により、規模に関わらず競争力の強い企業が伸びる環境を整えることが、持続的な賃上げの前提になるだろう。
ただし、日銀の利上げを受け入れるにせよ、雇用制度を改革するにせよ、極めて強い政治力が必要だ。現在の内政状況を見る限り、そうした大胆な施策が講じられる可能性が高いとは考え難い。今春闘の妥結額は、高水準になることが確実な情勢だ。しかし、「賃金と物価の好循環」には、まだ相当の距離が残っているのではないか。
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