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市場が鳴らすトランプ大統領への警鐘
市川 眞一
2025/03/14

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概要

ドナルド・トランプ大統領の就任から来週で2ヶ月となる。この間、ウクライナへの軍事支援を停止、各国・地域に関税を武器として妥協を迫るなど、1期目以上の際立った行動力を示してる。ただし、株式市場の反応は芳しくない。関税が米国の物価を押し上げ、実質賃金の伸び悩みにより消費が減退するリスクに直面しているからだろう。トランプ大統領が政策を見直すか、注目される。



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■ 厳しい市場の評価

S&P500は、トランプ大統領の就任から3月12日までの36営業日で6.6%下落した。多様な問題に関する制裁的関税の発動で国際社会を震撼させ、ウクライナのウォディミル・ゼレンスキー大統領に謝罪の手紙を書かせるなど、トランプ旋風が世界を席巻している。しかしながら、マーケットによる評価はこれまでのところ厳しいものになっている。ちなみに、ジョー・バイデン前大統領の場合、36営業日目のS&P500は3.7%の上昇だった。


また、中国政府は3月10日より米国からの輸入品に関し、小麦、綿花、トウモロコシ、鶏肉など29品目に15%、大豆、豚肉、牛肉など711品目に10%の追加関税を課した。大豆や綿花は対中輸出が低迷するリスクから価格が下落しており、全米農業連盟のジッピー・デュバル会長が強い不満を表明している(図表2)。農業従事者は共和党にとって非常に重要な支持層に他ならない。


まだ就任2ヶ月足らずではあるものの、トランプ大統領は市場の動きを意識せざるを得ないだろう。だからこそ、3月9日、FOXニュースの『サンデー・モーニング・フュチャー』に出演した際、「我々は富を米国へ取り戻そうとしている。それは大きなことであり、少し時間を要する」と弁解せざるを得なかったのではないか。



ただし、この発言は結果的には逆効果だった。同大統領は関税政策を進める上で景気後退を厭わない・・・との見方が広がり、スタグフレーションへの懸念から株価がさらに下落したからだ。


■ 岐路に立つ米国経済

トランプ大統領は3月12日で就任から53日目を迎えたが、リアルクリアポリティクスの集計によれば、最新の世論調査による支持率は48.3%だ(図表3)。就任直後の52.3%からやや低下、不支持率の48.2%とほぼ拮抗している。


同大統領の場合、世論調査での支持率は実態よりも低めに出る傾向が見られてきた。従って、現在の状況は必ずしも逆風とは言えない。ただし、2026年11月には中間選挙が控えるなか、景気の失速、株価の下落、物価の上昇が続けば、同大統領は求心力を失う可能性がある。


特に重要なのが、物価ではないか。国民生活に直結するからだ。バイデン前大統領の支持率は、2021年前半から2022年央に掛け、消費者物価が急速に上昇するなか、連動して低下した(図表4)。その後、物価は落ち着いたものの、「インフレ」の印象を拭えず、同前大統領は支持率が回復しないまま再選断念へ追い込まれている。


トランプ政権の政策の最大の問題は、看板である関税に他ならない。世界最大の貿易赤字国だけに、他国・地域との交渉では強い威力を発揮する。ただし、最終的な担税者は米国の消費者であり、大衆増税による極めてインフレ的な政策だ。

そのインフレ観測が景気失速への懸念の背景である上、対象国の報復措置により米国の産業界への影響も無視できなくなった。マーケットが鳴らす警鐘は、政策の見直しを迫っているようだ。

トランプ大統領が柔軟性を発揮、関税と言う武器を前線から後方へ後退させれば、米国経済は巡航速度の成長路線へ回帰する力が十分にあると考えられる。一方、関税砲による攻撃に拘る場合、株価の下落が逆資産効果を生み、景気後退局面入りの可能性も否定できない。それは、同大統領の指導力に大きく影響するだろう。米国経済は、非常に重要な岐路に立っているのではないか。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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