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新型コロナワクチン開発 謎に包まれた「ワープ・スピード作戦」
田中 純平
2020/05/29

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概要

 米トランプ政権は今月15日、新型コロナウイルスのワクチン開発・生産・供給を加速させる「ワープ・スピード作戦」の概要を明らかにした。トランプ大統領は、第二次世界大戦中に原爆を開発した「マンハッタン計画」を引き合いに企業や政府機関を総動員する考えを示したが、その作戦の実態はベールに覆われている。



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「ワープ・スピード作戦」は米国防総省も絡む官民連携プロジェクト

「ワープ・スピード作戦」は新型コロナウイルスのワクチン開発・生産・供給を加速させることを目標としたPublic Private Partnership(PPP、官民連携)だ。HHS(米保健福祉省)や傘下のCDC(米疾病対策センター)、FDA(米食品医薬品局)、NIH(米国立衛生研究所)、BARDA(米生物医学先端研究開発局)に加え、米国防総省や米農務省、米エネルギー省、米退役軍人省、そして民間企業を巻き込んだ横断的なプロジェクトになっている。さらに、米国防総省からはDARPA(米国防高等研究計画局)の研究開発機関も関与するとされている。この「ワープ・スピード作戦」では、4大ワクチン・メーカーの一角である英医薬品大手グラクソ・スミスクラインのワクチン部門トップだったモンセフ・スラウイ博士が首席顧問として就任、さらにギュスターブ・ぺルナ陸軍大将がCOO(最高執行責任者)として任命されている。財源については、「コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES法)」における補正予算で、約100億ドル(約1兆700億円)が確保されている。2021年1月までに安全で有効なワクチンを確保することを目標としており、今年11月までに1億回分、12月までに2億回分、来年1月までには3億回分のワクチン供給を目指すと報道されている。すでに、100以上のワクチン候補から14種類まで絞込みが行われており、そこから小規模の臨床試験を行うために8種類まで選別され、大規模な臨床試験段階ではさらに3~5種類まで厳選される予定だ。ちなみに、この「ワープ・スピード」とは、SF作品等で度々使用される「光速を超えたスピード」という意味で、SF好きの関係者が名付けたと言われている。

 

 

しかし、その実態は謎に包まれている

BARDAは5月21日、英医薬品大手アストラゼネカと新型コロナウイルスのワクチン開発で提携することを発表、BARDAは12億ドルの支援を行い、アストラゼネカは少なくとも3億回分のワクチン供給を目指す。早ければ今年10月に最初のワクチン供給を行う予定だ。HHSは今回の提携を「ワープ・スピード作戦」のマイルストーンと位置づけている。しかし、この選定プロセスや選定理由については必ずしも明らかにされていない。そもそも、この「ワープ・スピード作戦」の指揮系統がどのようになっているのか、権限はどこまで付与されているのか、予算の割り当てはどうなっているのかなど、不明な点が多いのだ。また、その他のワクチン候補の選定状況も公表されておらず、BARDAが既に提携を発表したアストラゼネカ以外のワクチン候補が、「ワープ・スピード作戦」の選定プロセスに入っているのかさえも定かではない。極秘の国家軍事プロジェクトと言われればそれまでだが、株式市場はこの謎に包まれた組織から良くも悪くも目が離せない状態が続くだろう。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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