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インフレ・ピークアウト期待が再燃 注目ポイントは?
田中 純平
2022/11/14

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概要

10日に発表された米10月CPIが市場予想を下回ったことで、金融市場全体が「総リスクオン」状態となったが、基調的なインフレ指標にピークアウトの兆しは見られず、逆に翌日発表された米ミシガン大学インフレ期待(5~10年先)は前月から加速する結果となった。FRBの金融政策がタカ派からハト派へ転換する「ピボット」を期待するのは時期尚早だろう。



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米10月CPIは市場予想を下回る

11月10日(木)に発表された米10月CPI(消費者物価指数)は前年同月比+7.7%、前月比+0.4%となり、いずれも市場予想(前年同月比+7.9%、前月比+0.6%)を下回る結果となった。これを受けて、株式市場ではFRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策がタカ派からハト派へ転換する「ピボット」への期待が高まり、同日のS&P500指数は前日比+5.54%と急騰し、翌日も同+0.92%と続伸する展開となった(図表1)。

この「熱狂」は株式市場だけにとどまらない。米10年国債利回りは、米10月CPIの発表を受けて9日の4.09%から10日は3.81%まで急低下し、債券価格も急騰した(図表2)(11日の債券市場はベテランズデーでのため休場)。金融市場全体が「総リスクオン」状態となった瞬間だった。 

金融市場は相対比較、FRBは絶対比較で判断

しかし、株式市場も債券市場も、米CPIの実績値と予想値との相対比較(事前予想との乖離)に反応しただけであり、米CPI自体の絶対比較(トレンドの変化)に反応したわけではないことには注意が必要だ。金融市場において短期的な価格変動をもたらす主因が事前予想との乖離(サプライズ)であることは百も承知だが、FRBはあくまで物価の安定(インフレ目標2%)と雇用の最大化を目指して金融政策を運営している。金融市場では米CPIの相対比較を基準にFRBの「ピボット」を期待したわけだが、そもそもFRBは米CPIの相対比較で金融政策を判断しているわけではないので、いずれかのタイミングで市場とFRBとの間で認識のギャップが生じる恐れがある。

米10月CPIにトレンド変化の兆しは見られたのか?

基調的なインフレ率を反映する指標としては、米クリーブランド連銀が算出する米CPI中央値や、米アトランタ連銀が算出する米Sticky CPI(一度上昇し始めると中々下がりにくい「粘着性」のある品目を集めた物価指標)などがあげられるが、両者を見る限り米CPIのトレンドに明確な変化が生じたとは断言できない状況だ(図表3)。米CPI中央値は前月からほぼ横ばいの前年同月比+7.0%で高止まり状態にあり、米Sticky CPIも同様に前月から同+6.5%で高止まりとなっている。今年6月のピーク(同+9.1%)から減速傾向となっている米CPIとは明らかに様相が異なる。

象徴的なのは米CPI全体の約3割を占める「帰属家賃」と「家賃」だ。10月の「帰属家賃」は同+6.9%と前月の同+6.7%から加速しており、10月の「家賃」も同+7.5%と前月の同+7.2%から加速した。インフレ・ピークアウト説を唱えるには証拠不十分と言えよう。

長期インフレ期待の再加速には注意が必要

11月11日(金)に発表された米ミシガン大学消費者調査における長期インフレ期待(5~10年先、速報値、年率)が前月の+2.9%から+3.0%へ再加速したことには注意が必要だろう(図表4)。個人の長期的なインフレ期待についても「粘着性」があることが分かっており、この指標が加速すればFRBもタカ派姿勢を堅持せざるを得なくなる可能性がある。インフレとの戦いにまだ終わりは見えない。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞歴を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして、主に世界株式市場の投資戦略などを担当。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演。2023年より週刊エコノミスト「THE MARKET」に連載。日本経済新聞ではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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