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次期日銀総裁人事と金融政策
市川 眞一
2023/02/10

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概要

日本経済新聞は次期日銀総裁について岸田内閣が雨宮正佳副総裁に就任を打診したと報じた。事実であれば順当な人事と言えるだろう。量的質的緩和は10年間で肥大化、出口戦略は隘路になることが予想される。日銀の組織及びこれまでの経緯を熟知していることが、次期総裁の必須要件ではないか。また、岸田政権が金融政策の激変を望んでいないことも透けて見える。



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日銀執行部人事:注目は衆参両院での所信聴聞

黒田東彦現総裁を含め、戦後の日銀総裁経験者のうち、日銀出身者は8人、財務省(旧大蔵省)出身者5人、民間出身は1人だった。1960年代以降は、不祥事による引責辞任、国会での不同意など特殊なケースを除き、日銀出身者と財務・大蔵省出身者が概ね交互に就任してきた。黒田総裁は元財務官であり、順当に行けば次期総裁は日銀出身となる。

また、2013年4月に量的質的緩和が採用され、2016年9月にはイールドカーブ・コントロールが導入された。異次元の政策が、当初、円高の修正に寄与し、デフレ圧力を緩和したことに疑問の余地はない。しかし、市場機能を阻害するなど、既に副反応が極めて大きくなっている。また、日銀は国債購入を通じて実質的な財政ファイナンスを実施、バランスシートが極端に膨れ上がった状態だ。誰が執行部でも出口戦略の舵取りは極めて難しいと見られ、日銀の内部事情に精通し、歴史的金融政策に関わってきた人物を次期総裁候補とするのは自然な流れと言える。従って、2月6日付けの日本経済新聞が、内閣による雨宮副総裁への総裁就任打診を報じたのは、市場に違和感なく受け入れられたのではないか。


ちなみに、2013年に黒田総裁が任命された際には、国会への人事案提示が2月28日、衆議院、参議院での同意プロセスが3月14、15日だった(図表1)。

 

今回は10年前よりもやや前倒しで進む可能性があるものの、衆参両院本会議で同意を得るには、人事案提示から2週間程度を要するだろう。

その過程において最も注目されるのは、次期総裁及び副総裁候補による衆参両院議員運営委員会での所信聴聞だ。与野党議員から、現在のイールドカーブ・コントロール付き量的質的緩和について、新執行部の下で継続するのか、変更するのかを問われることになる。そこでの回答が、市場に大きなインパクトをもたらす可能性は否定できない。仮に雨宮副総裁が総裁候補であれば、現執行部の一員である以上、現状維持を示唆する趣旨での発言になるのではないか。

 

岸田政権の意向:当面は金融政策の現状維持に期待か?

岸田文雄首相は、5月19~21日のG7広島サミット後、衆議院の解散を模索している可能性が強い。その場合、総選挙前における市場の混乱は避けたいだろうし、自民党内最大派閥である安倍派の意向も踏まえ、積極財政とそれを支える金融政策のコンビネーションを重視すると見られる。

また、イールドカーブ・コントロールの変更により長期金利が急騰した場合、新たに発行する国債の表面利率が上昇し、一般会計における利払い費が急速に膨らむだろう。国債の60年償還ルールを見直す案もあるが、日本国債が格下げされかねず、むしろ状況は悪化する可能性は否定できない。


1月24日、内閣府が経済財政諮問会議に提出した『中長期経済財政試算』によれば、メインシナリオである「成長実現シナリオの場合でも、2026年度まで名目長期金利は0.6%での推移が見込まれていた(図表2)。

 

これは、政府の経済・財政運営がイールドカーブ・コントロールの継続を前提としていることを示唆しているだろう。新執行部の発足後も、日銀が直ぐに大胆な出口戦略を実施する確率は高くないと考える。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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